混乱した世にあっては「これが法である」
英国のウェールズに住むある男は,自分の車を6歳になる息子ジョナサンの名儀で登録しておいたため,60枚を超す駐車違反切符の支払いをしないでもよいことになりました。反則金の総額はほぼ900㌦(約21万6,000円)に上っていました。英国の道路交通法の定めによると,駐車違反に問われるのは登録された所有者だけであり,10歳以下の子供にはどんな違法行為も罪に問えないとされています。そのため,当局の訴えは却下されてしまいました。
米国のフロリダ州で銀行強盗を働いたある男が,強奪金の引き渡しを求めて,自分を逮捕した警察官を訴えました。当人が他の犯罪を犯して服役中であったため,事実記載書に細かな点で誤りが生じ,判事は強盗事件の審理を行なわずに,これを却下してしまいました。法律書に通じていたその強盗犯は,“無実”の人からお金を取り上げられることはない点に気づき,強奪金の返却を求める訴えを起こしたのです。その間に,強奪金は銀行に返されました。判事は警察官に対して,訴訟を受けて立つよう命じました。「FBIによると,厳密な法解釈からすれば,二人の警察官は自分で工面してその金を支払わなければならないであろう」とAP通信は伝えています。
イタリアの裁判所は,交通事故で娼婦にけがを負わせた自動車の運転者に対し,娼婦に115万円の賠償金を支払うよう命じました。48歳のこの女性は,70日間“仕事”に就くことができず,医師の話によると,この事故によって“職業上の能力”を15%失いました。
米国の第六巡回裁判区控訴裁判所は最近,“強請”のかどで訴えられていた9人の被告の下級審における有罪決定を覆し,これに無罪を言い渡しました。その法律は強請手段に訴えて合法的な商売に進出する者が出ることを防止する目的で制定されているという根拠を盾に被告たちは上訴していました。自分たちは合法的な商売とは関係なしに“ただ”強請を働いたにすぎないのであるから,法には触れないというのがその主張でした。何と法廷はその主張を認めたのです。
ニューヨーク州最高裁判所の一判事は,保険会社に対し,性転換手術を受けたある男性に保険金を支払うよう命じる判決を言い渡しました。「この種の患者に手術を施す[医師]は患者の『病気』を治してはいない。むしろ,自分の望むように体を変えて欲しいという患者の求めに応じている。これらの患者は脳に機能障害がある」という一医師の宣誓供述書が法廷に提出されたにもかかわらず,判事は上のような判決を下しました。判事は,医師の側に性転換術の専門技術が欠けていたときめつけました。
同じように,米国アイオワ州の一地方裁判所判事も,別の性転換手術に関連して,医療費および損害賠償金として政府の医療扶助基金から3,500㌦(約84万円)を支払うことを認める判決を下しました。これに対し,医療扶助計画の当局者たちは,こうした手術は美容整形外科手術の部類に属するものであり,医療扶助計画の対象外であると主張しました。興味深いことに,ボルティモアにある有名なジョンズ・ホプキンス大学病院では最近,性転換手術を中止しました。同病院が手術の中止に踏み切ったのは,性転換を望むいわゆる“性倒錯者”は手術を受けてもよくならないという事実が追跡研究によって判明したためです。
ニュージャージー州で新たに制定された刑法は,盗品に対する被害者の請求権のあることを当局が犯人に通知し,十日の猶予を与えてこれに異議申し立てをすることを認めるよう定めています。盗まれた自動車,保証書,かぎ,財布のように被害者がすぐに必要とする財産は,以前であればすぐに返却されましたが,現在では少なくとも十日間保管されることになりました。被疑者が被害者の主張に異議を申し立てた場合には,返還は大幅に遅れることになるでしょう。
法律の移ろいやすさを示すこうした事例の多くは,ボストン・グローブ紙の次のような観察を裏付けているように思えます。「社会は全体として,司法上の手続きを社会道徳の尺度とするようになり,社会常識また個人的義務を失ってしまった。合法的であることそれ自体は必ずしも善を意味するものではない」。法による規制が必要とされるのは自明のことですが,人間の払う努力すべてがそうであるように,それをゆがめて抜け道を捜し出す者がいるようです。