『すべての国の民への証言』
エホバの証人の1968年度年鑑より
キューバ
「迫害されては耐え忍び」。キューバの兄弟たちはコリント人への第一の手紙 4章12節にある,使徒パウロのこのことばをしみじみ感じました。過ぐる年の間,キューバでは福音の伝道に対する反対が続きましたが,兄弟たちは勇気を失わずに耐えています。
法的な手続きによって福音を弁明する努力がなされ,ある程度の成果を収めていますが,兄弟たちとその宣教には絶えず新たな攻撃が加えられている状態です。キューバの兄弟たちからのある報告によれば,イエスの死を記念する日のこと,まだ開かれていた御国会館の一つが暴徒に襲われ,れんが,石,鉄の器物を投げ込まれました。しかし兄弟たちは彼らを追い出そうとする暴徒の攻撃に屈せず,遂に200人以上が警察に行き,午前1時までねばって被害を訴え,暴徒を告訴しました。
ワシントンにおいて政府の一小委員会の席上キューバの一避難者が語った目撃談によれば,カマグエイ州にあるマンガス・ラルガス(長そで)収容所に約150人のエホバの証人が収容されています。ニューヘイブンのレジスター紙は次のように報じました。「収容所はその土地に蚊が多いのでこの名がある。蚊がひどいため,人々はいつも長い袖のシャツを着なければならない。しかしカストロはこの宗派の者たちを半裸でそこに放置している。わたしが着いた時,囚人たちはすでに2か月そこにおり,生き身をさいなまれていた。皮膚は赤くはれ,みな傷があって化膿していた。彼らは砂糖きびと水しか与えられていない……彼らの罪は何か? 彼らは聖書を伝道した……わたしは収容所を去るとき,彼らがかたまって祈っているのを見た。わたしは泣いた」。
この激しい反対にもかかわらず,兄弟たちは先回の地域大会のプログラムの多くの部分をエホバの証人の小さな群れごとに知らせ,それには劇も含まれていました。前もって発表せずにこのプログラムを行なった時の聴衆の驚きを想像してください。これらの実演は12月中および1月の上旬にそれぞれの御国会館で行なわれました。「わたしたちには確かに天使の守護があります」と兄弟たちは語りました。
それでキューバの兄弟たちは御国のわざに対する大きな反対に耐えています。反対のために「時が悪い」ように見えますが,それでも何百人の人が真理を学び,浸礼を受けています。また全時間奉仕のなんらかの面に携わっている人も少なくありません。この島で福音を伝道する道がエホバによって開かれている限り,それは行なわれます。
ポルトガル
人口: 9,470,000人
伝道者最高数: 3,877人
比率: 2,443人に1人
奉仕年度の初めに,英語を国語とする国々の多くの兄弟はポルトガルの知識階級の人々に手紙を送り,エホバの証人49人を不当に投獄したポルトガルの国辱的な裁判について知らせました。これらの手紙がきっかけとなって,御国の音信を説明する機会が開けています。職業学校の教師をしている一兄弟は教師全員の特別な集会に出席を求められました。冒頭に司会者は自分や他の教師が外国のエホバの証人から手紙と裁判の詳細な報告を受け取ったことを述べました。その人々には外国のエホバの証人がどうして自分たちの名前と住所を知ったかがまず不思議でした。それからエホバの証人の組織,その目的,聖書の根本的な教えについて,次々に質問が出され,2時間近くのあいだ良い証言が行なわれました。
フェイヨー会衆の兄弟たちは入獄中に多くの良い経験をしました。以下はその一つです。ナイフを振り回して争った二人の男が刑務所に入れられていました。敵となった二人は憎しみをあらわに示していました。フェイヨー会衆の兄弟たちが同じ刑務所入れられたことから,この二人の一方は初めて御国の音信を聞きました。のちに兄弟のひとりが別の監房に移され,そこでひとりの囚人に偶然の証言をしました。この囚人は先の二人のひとりで,聖書に大きな関心を示した人の敵となっていた人でした。贖いの犠牲の価値が強調され,また神のみこころに従って新しい人格を身につけることについて説明されました。2,3か月後のある日,食堂の帰りに会った二人は互いに自分の暴力行為と自制心の欠如を詫び,また刑務所の当局者の前で仲直りを宣言しました。兄弟が驚きまた喜んだことは言うまでもありません。仲直りをした二人の態度が変わったことはすべての人の目に明らかであり,その結果,多くの良い証言の機会が開かれました。
エホバの証人の不利をはかる宣伝は,真理を求める人の心に強い関心を呼びおこすことがあります。フェイヨー裁判の時,エホバの証人に関して偏見に満ちた記事が新聞に出ました。投獄された監督の名前と住所も出たのです。これが思いがけない結果になったというのは,記事を読んだ偏見のない一読者が監督に手紙を出し,それには一部次のように書かれていました。「エホバの証人に対してこのような迫害を起こす人々がいることは,その原因を是非知りたいという気持ちをわたしに起こさせました。あなたがたの立場は,迫害されたイエスや使徒たちのそれとくらべられると思います。ご面倒でなければご返事をください。また配布用のパンフレットをお送りくだされば幸いです。またわたしの近くにエホバの証人がおられるならば,連絡していただきたく存じます。わたしが読んだところでは,これは唯一の正しい宗教だと思います」。この手紙を書いた人は監督とは350キロ離れたところに住んでいます。この人に訪問が行なわれるようにこの知らせは,最も近い会衆に送られ,直ちに聖書研究が始められました。この人がいま会衆の集会に出席してエホバの証人と交わり,エホバのみこころを行なうために献身する土台を築きつつあることは喜びです。
カトリック教の国ポルトガルの宗教中心地ブラガでは,4月と5月に暴動が起きました。伝道者と聖書を研究していた,関心を持つ人の家が,300人あまりの群衆にとり囲まれたのです。そのようなことは3回もありました。そしてある時には石やれんがを家にむかって投げ,エホバの証人を出せと群衆が叫んでいるあいだに一部の人々は戸を押し開けようとしていました。警察の保護は全く見られませんでした。怒りたける群衆に家の人が恐れをなしたので,姉妹たちは家に大きな害が加えられないうちに去ることにしました。これら3人のクリスチャンの婦人が家を出るやいなや,群衆は近寄って口々にののしりました。群衆の大部分はあらゆる年令の女性で,ほかに子供もいました。彼らはカトリック教徒です。群衆は3人の証人のひとりである70歳の姉妹を「売春婦,魔女」などと呼びそのうえこの姉妹を攻撃の目標にしてファティマの像に無理やりにせっぷんさせようとしました。彼女が拒絶したのである者たちは彼女をけるなどの暴行を加え,ある者は石を投げつけ,カーチフはもぎ取られてしまいました。遂に見知らない二人の男が群衆にわけ入って姉妹たちを安全な場所に連れて行きました。家に帰ってから姉妹たちはからだの傷に初めて気づいたほどでした。それでも彼らはこの区域で定期的に福音を伝道しています。
真のクリスチャンは正直なことで知られています。そしてそのことでエホバの証人は注目されています。ある実業家は織物を扱う店の主人にひとりの兄弟を紹介しました。この兄弟は大量の商品を買うことを望んでいたのです。主人は保証人を立てて必要な書類をそろえるならば注文に応ずると言いました。そこでエホバの証人を紹介した実業家は店の主人に言いました。「ちょっと申しあげますが,このかたはエホバの証人です。正直という事に関しては我々カトリック教徒でさえ,彼らには及びません」。これを聞くと店の主人は急に親切な態度を示し,わたしもエホバの証人を何人か知っているが,迫害に負けないその信仰と勇気には感心すると語りました。たまたまその店は,警察の命令で閉鎖されるまで御国会館があった敷地に建てられていたのです。それから親しいふん囲気になって聖書の話が出,最後に店の主人は保証人はいらないと述べ,エホバの証人は神に忠実でなければならず,その責任が最善の保証であるとつけ加えました。この国にはこのような象徴的「魚」が沢山ます。
スペイン
人口: 31,089,200人
伝道者最高数: 5,409人
比率: 5,748人に1人
過ぐる年のあいだスペインではカトリック以外の宗教に対する新しい見方が根をおろし,エホバの証人のキリスト教伝道活動に対しても政府の関係者の間で緊張した空気が緩和されたため,エホバの証人はこの事物の制度の下で「安らかで静かな一生を,真に信心深くまた謹厳に過ごす」という目標をよりよく実現できました。6月28日にスペインの立法府を通過した法律が広く論議の的になったため,信教の自由の問題に多くの関心が呼びおこされました。この法律は「信教の自由に関して公民権の行使を規制する」ことを目的としたものです。この法律が新しいこと,また文意に明瞭でない点があることから,その解釈と適用をめぐって多くの臆測が行なわれています。しかしスペインの一般の人々は信教の自由を既定の事実と見ており,したがって宗教を話題にすることはむしろ容易となりました。たとえばあるエホバの証人が働いている職場で,多くの宗教の存在することについて話が始まり,それぞれ自分の宗教の正しさを主張しました。この兄弟はその機会をとらえ,あらゆる宗教の教えを判断する真の規準は聖書であることを説明し,それから聖書研究の手引きとして「神が偽ることのできない事柄」を紹介しました。同僚のひとりはそれが有益な本であることを認め,聖書について質問した知り合いに渡すため3冊余分に求めました。関心を持つこれらの人々といま家庭聖書研究が開かれています。
信教の自由に関する新しい法律の明確な規定によれば,カトリック以外の宗教の奉仕者は(カトリックの祭司とは異なり)兵役を免除されません。それで好戦的組織の活動に加わることを良心的に拒否して投獄され,現在,施行されている法律によって保障されている自由を享受できないままでいる64人のエホバの証人にとって,解決の道はまだ開かれていないのです。しかし刑務所の中で彼らは,ふつうには御国の音信を聞くことのない人々に良い証言をしているだけでなく,クリスチャンにふさわしい行ないによって周囲の人に良い印象を与えています。ある刑務所の管理者は,木工場の監督が道具置き場の係りとしていつもエホバの証人を望むので,そのわけを尋ねました。監督は次のように答えました。「正直で信頼できるのは刑務所の中でエホバの証人だけです。彼らは争わず,とばくをせず,規則を破って酒類をひそかに持ち込むようなことをしません。大工である囚人20人と大工にはしろうとのエホバの証人20人と,どちらを選ぶかと言われれば,わたしはエホバの証人を選びます。少し教えれば彼らは他の人よりも良い仕事をし,またもっと多く働くからです」。