鳥の巣のスープを味わったことがありますか
シンガポールの「目ざめよ!」通信員
なんですって? それはほんとうに鳥の巣で作ったスープですか? そうです。中国料理に通じている人なら,だれでも知っているとおり,それはまぎれもない鳥の巣のスープです。風味がよくて,あっさりした味の,澄んだそのスープは,食用に供せる,アナツバメの巣を使って作ります。
アナツバメは口ばしから尾の先までが約11ないし14cmほどの大きさの鳥で,たいへん速く飛ぶので,えさの大半は飛行中に捕えます。色は,すす色がかった褐色で熱帯の沿海地帯に群生し,北は南ベトナム,南はオーストラリアのクィーンズランド州沿岸でも見られます。
アナツバメは,実際には,自分のだ液を固めて作った繊維状のものを編むようにして巣をこしらえます。巣は,人の近寄れないような洞くつの天井や壁などに,しっかり取りつけられます。巣の取り入れは,繁殖期の初めごろに行なわれます。まず最初に,洞くつの壁や天井から古い巣を取り払います。ボルネオの原住民は,直立した竹ざおを高さ30メートル余よじ登って,平衡を保つ別の捧を使って巣を打ち落とします。新しい巣が作られるやいなや,それを取り入れます。こうして,取り入れは数回くり返されます。しかし,最後に,巣はそのままにされます。ツバメがそこで安心して子を生めるようにするためです。
次に,巣をばらばらにして,天日で乾操させ,町に出荷します。町では,中国人がそれを好んで家庭料理に用いますし,レストランでは外国からの客に,お国自慢の料理として供されます。
中国人がツバメの巣を珍重することには,単に味覚を楽しむ以上のものがあります。この点で古来の伝統に精通している人は,その料理には薬効があると言います。現代医学がそうした主張を正式に認めていないことは確かですが,科学的な分析結果からすれば,ツバメのゼラチン質の巣の主成分はたん白質で,そのほかにも多少の炭水化物および,カルシウム・鉄・チアミンなどを適量含んでいることがわかります。
いつでも食べたいときに,このスープを作れるのは,たいてい中流以上の階層の人々です。いうまでもなく,西洋の都会では,ツバメの巣はかなり高価なものですが,アジアの諸都市ではさほど高価なものではなく,露店で売っているところさえあります。
ツバメの巣を本格的に味わう最も興味深い方法は,それを自宅で料理することでしょう。東南アジアのたいていの都市の場合と同様,ここクアラ・ルンプールでも,ツバメの巣はおもに漢方薬店で売っています。そうした店の一軒にはいったところ,店の人はていねいに私たちの用向きを尋ねました。
「エンオー」と,私たちは広東語で答えました。
すると,店の人は,その道の専門家を思わせるようなもの腰で,こう答えました。「わかりました。最上の品をおすすめいたしましょう」。そして,品物を取り出してから,こう続けました。「これはパーサイエンと申しまして,その道の通のあいだで最も人気のある品でございます」。
「どうして最上の品なのですか」。
「まる1日煮ても,細い繊維はしっかりしており,形がくずれないからでございます。これはボルネオ産ですが,この品でしたら,ご満足いただけること絶対うけ合いでございます」。
ツバメの巣は品質がさまざまで,値段も,1タヒル(約37グラム)あたり最高24マライ・ドルから,プラウ・チオマン産の地方の品で,7.5マライ・ドルの安いのまであります。地方産の品は,繊維の組み合わさりかたがゆるく,スプーンの形をした堅い輸入品とは全然違っているのがわかります。
値段の点で少しかけ合って,値引きをしてもらってから,品物を手にして,急ぎ足で帰宅します。ツバメの巣は一晩水につけておき,翌朝,まず最初,腰をおろして,その巣からたんねんに異物を除去します。う毛や羽その他を取り除いて,ふくれて柔らかくなった巣をきれいにするためです。
近所の親切な中国人は,こう教えてくれました。「適当な粘りけを出させるため,きれいにした巣に水を十分に加え,適度の甘みを添えるために,砂糖の固形を加えて,二重なべで2時間も煮ればよいのですよ」。
ほかのおいしい料理の仕方をぜひ教えてほしいと願ったところ,その婦人は,さらにこう話してくれました。「簡単なのは,チキンとハムのこまぎれ少々と水を適当に加えて,二重なべで3時間ほど煮る方法です。そして,フーヨングにして,つまり,スープを火からおろす前に,あわだてた卵を流し込んで,かきまぜると,おいしくできあがります」。
婦人はなつかしそうに昔をしのんで話しました。「私は結婚して40年になりますが,以前は,とつぎ先の年長者たちすべてに,お茶を出す務めがありました。私のところは裕福な家柄でしたから,ツバメの巣の甘いスープを“お茶”がわりに出したものでした」。