核融合反応
太陽に熱を与えている核反応をサイクロトロンや同種の装置の中で小規模ながら再現することができます。この装置を用いて,軽い原子の原子核を電場の中で加速し,非常な高速にまでもっていきます。これらの粒子のエネルギーは百万電子ボルト(Mev)の単位で測定されます。百万電子ボルトというのは,電子や陽子など単一の電荷を有する粒子が百万ボルトの電場を横切るときに得るエネルギーのことです。標的にある原子核と反応を起こさせるために,これらの粒子束を標的に誘導します。
ここに掲げた表は,核物理学者が実験室で研究してきた核融合反応の幾つかを示すものです。いずれの場合も,矢印の左側に記されている粒子の一つが標的に置かれ,もう一つの粒子が高速でこれに衝突します。例を挙げて説明しましょう。最初に掲げられている反応では,一つの水素原子の原子核がもう一つの水素原子の原子核に衝突します。すると両方の核が融合し,陽電子が放出されます。反応によって質量の減少が生じます。この減少分は,アインシュタインの有名な方程式E=mc2に従ってエネルギーに変換されます。したがって,新たに形成された粒子は,融合する前の粒子が有していたよりも多くのエネルギーを持って飛び去ります。この例の場合,2,000,000電子ボルトのエネルギーを獲得することになります。
これに対し,石炭が燃える際に一つの炭素原子の酸化によって放出されるエネルギーはわずか4電子ボルトにすぎません。核反応では,化学反応の場合より幾百万倍も多くのエネルギーを扱うことになります。
表のうち,最初の三つの反応は太陽の中で起きている主要な反応であると考えられています。他の反応の幾つかは,実験室でも比較的容易に行なえるものと思われます。ヘリウム-4の発生する第3,第5,第6番目の反応の場合,ずっと多くのエネルギーが得られることにお気づきでしょう。これは二つの陽子と二つの中性子が非常に堅く結び付いているためです。ヘリウム(He4)はとても安定した元素です。
[20ページの図]
(正式に組んだものについては出版物を参照)
H1 陽子
n1 中性子 核を構成する材料
H1 水素
H2 重水素 水素の同位元素
H3 三重水素
He3
He4 ヘリウムの同位元素
核融合反応によって得られるエネルギー
太陽の内部
(1)H1 + H1 H2 + e+ 2.0 Mev
(2)H1 + H2 He3 5.5 Mev
(3)He3 + He3 He4 + H1 + H1 12.9 Mev
他の反応
(4)H2 + H2 He3 + n1 3.2 Mev
H3 + H1 4.0 Mev
(5)H2 + H3 He4 + n1 17.6 Mev
(6)H2 + He3 He4 + H1 18.3 Mev