餓死
「ほかに病気のない健康な大人は,水だけしか与えられないと50日から70日で死亡する。栄養失調で体は弱るが,死ぬのは大抵他の病気にかかるためである。飢餓状態にある人の体が体そのものを消費しつくすと死が訪れる。体は主要なエネルギー源であるぶどう糖をせいぜい1日分しか貯蔵することができない。この貯蔵が尽きると,体は脂肪を酸化しはじめ,脂肪酸あるいはケトン体としてエネルギーを引き出す。脂肪分がなくなると,体は筋肉やほかの重要な組織のタンパク質を分解しなければならない。こうして徐々に心臓や腎臓や脾臓などの臓器が損なわれていく。多くの場合,腹部は浮腫状になる。水分が異常にたまって腫れ,膨らむのだ。肉が落ちていくにつれて,皮膚は乾き,骨はもろくなり,髪の毛は抜けていく。血圧は低下し,子供ならば脳の発達が停止する。免疫機能は衰え,大抵致命的な病気の感染を引き起こす。腸は萎縮し,視力や聴力や言語能力も衰える。体はエネルギーの消耗を減らそうとするので,体温は下がり,低体温になることが多い。最後に体の組織は崩壊し,広範囲に及ぶ機能障害からの死が臨む」― 1985年1月1日付,ニューヨーク・タイムズ紙,科学欄。