世界展望
恐るべき統計
「いま世界には10億㌦(約1,500億円)以上の資産を持つ人が157人,100万㌦(約1億5,000万円)以上の資産を持つ人が200万人ほど,それに家のない人々が1億人いる」と書いているのは,ワールドウオッチ誌の古参研究者アラン・ダーニングである。「世界には過食している人が5億人いる一方で,かろうじて生きていられる程度のものしか食べていない人が同じ数だけいる。……今日における収入の公平な分配は,記録が取られるようになって以来最悪の状況にある。最も富める10億人は,最も貧しい10億人に比べ,少なくとも20倍の物資やサービスを消費している。……我々人類は,男女子供一人当たり年に200㌦(約3万円)を戦争の道具に費やすが,毎年下痢などの単純な病気で死んでゆく1,400万人の子供たちを救うには,一人当たり1㌦(約150円)を負担するだけでよい。ところが,その1㌦を見いだすことができないようだ」。ワールドウオッチ研究所の推定では,約12億人が極貧にあえぎながら暮らしている。これは全世界の人口の23.4%に当たる。
『泥棒に最適な時間帯』
「泥棒や強盗や麻薬の売人その他の犯罪者が」ギリシャのアッティカ地方で不法行為を働くのに「最適な時間帯は日曜日の午後である」と,アテネのエレフテロテュピア紙は言う。なぜだろうか。その時間には,約3,800人の警官と500人の役人が,サッカーの試合や他の競技会の「秩序と安全」を保つために動員されるからだ。もし日曜日に“ダービー”の一つが行なわれたりすると,さらに700人の警官と100人の役人が増員される。「各競技会においてどうしても必要なのは,選手よりもむしろ警官だ」と同紙は付け加えている。
時計の針をずらす
「原子科学者会報」誌の“世の終わりの時計”はこれまで43年にわたり,核戦争という観点から国際情勢の安全度を示してきた。「ヨーロッパを発火点として世界的な核戦争が起きる危険性は大幅に減少した」と同誌4月号は述べている。「決して成功が保証されているわけではないが,安全かつ永続的な世界を作り出すための,ここ40年来最大の好機が到来した。そこで我々は本会報の時計の針を4分戻し,午前零時10分前とする」。とはいえ,今回の針の戻し方はこれまでの最高ではない。冷戦のさなかではあったが,1963年と1972年には米ソ間で条約が調印され,針は午前零時12分前に合わされた。「冷戦とはいっても,第三次世界大戦が起きなかっただけのことであり,過去45年間に125ほどの戦争が行なわれ,2,000万人余りが死亡した」と同誌は述べている。
原爆死没者
1945年に広島と長崎に投下された原爆によって正確に何人が死亡したのだろうか。厚生省が先ごろ発表した調査結果によると,1988年現在で原爆死没者は29万5,956人を数える。そのうち被爆当日の死者は,広島で2万5,375人,長崎で1万3,298人と言われ,その他の人は放射線に起因する病気でそれ以降に死亡している。また,被爆後数日以内に死亡した人も少なくない。遺族は,こうした調査を行なうのが遅すぎるとして政府を非難してきた。また,日本原水爆被害者団体協議会の斎藤義雄事務局次長は,「原爆死没者の全数把握や原爆死の全容に迫る調査とはなっていない」と語っている。
ユニークな新国家
1990年4月23日,月曜日,ナミビアは国連の加盟を認められ,160番目の加盟国になった。1990年3月21日に南アフリカからの独立を獲得したこの新国家には,幾つかユニークな特色がある。まず,パキスタンよりも広い国土を有するが,人口は200万人に満たない。ナミビアよりも面積が大きくて人口密度が低いところは,グリーンランドとモンゴルだけである。また,人口は比較的少ないのに用いられている言語が多種多様なのもユニークな点だ。中には,変わった吸着音で知られている言語も幾つかある。「アフリカの土着の言語や方言は数え上げたらきりがない」とナミビアの観光案内書は述べている。もっとも,公用語は英語である。
小麦粉の“赤ちゃん”
サンフランシスコのある高校教師は,親になることの責任と現実を生徒に教えるための新しい方法として,2.5㌔の小麦粉が入った袋を赤ちゃんの代わりとして各生徒に与えている。その際,「これから3週間,1日24時間この赤ちゃんを本物同様に扱わなければならない」と生徒たちに告げる。そのためには,ベビー服を着せたり,おしめを替えたり,毛布をかけたり,ほ乳びんをあてがったりして,四六時中この袋を優しく注意深く運んだり扱ったりする必要がある。生徒が赤ちゃんのもとを離れるときは,子守りを見つけなければならない。万一,赤ちゃんを無くしたり破ったりしたなら,もっと重い赤ちゃん ― 5㌔の小麦粉が入った袋 ― を持たされることになる。生徒たちは,赤ちゃんがいると生活にどれほどの影響が出るかをすぐに悟るため,この学校では十代の妊娠が少ない。「これはただの小麦粉の袋なので,泣いたり叫んだりしない。食べさせたり寝かしつけたりする必要もないけれど,それでもすぐにほうり出したくなった」と,ある生徒は言った。
私利私欲の記念碑
ベルサイユ宮殿の3倍も大きい12階建ての建物で,床面積は36万平方㍍余り,980個の白熱電球のついたシャンデリアはヨーロッパ第二の大きさを誇り,地下90㍍のところに爆弾シェルターが作られている。これは,「ルーマニアを24年間支配したチャウシェスク氏のぜいたく三昧を非常に明確に示す,ルーマニアの記念碑であり,[同氏が]死後国民に残した数多くの難題の一つである」と,ウォールストリート・ジャーナル紙は述べている。この宮殿の建設には過去10年余りにわたって約10万人の労働者が動員され,10億㌦(約1,500億円)以上の経費がかかっている。ブカレストの旧市街の4分の1は,広い並木道を作るために破壊された。この並木道は,チャウシェスクが宮殿の表玄関の外に作るよう命じたもので,シャンゼリゼ通りよりも2㍍広い。今この建物をどうするかは全く未定である。ブカレストの歴史学教授ステファン・アンドレエスクが言うには,「これはまさにファラオの夢だった」。
米国の債務
米国財務省の発表によると,1990年4月に米国の国債残高が初めて3兆㌦(3の後ろに0が12個[約450兆円])を超えた。最初に1兆㌦(約150兆円)を超えたのは1981年だったが,今回記録を更新した残高を人口で割ると,男女子供一人当たり1万2,000㌦(約180万円)になる。これ以上国債が増えず利子が生じないと仮定しても,これを償還するには,1秒に1,000㌦(約15万円)の割合で中断せずに償還を続けて100年近くかかる。
ごみの博物館
博物館は専ら美しいテーマを取り上げるのが普通だが,ごみを専門に扱う博物館が米国ニュージャージー州にオープンした。この新しい博物館は,ごみ捨て場の中にいる気分を見学者に体験させる。床には廃棄物が所狭しと並べられ,壁や天井にも廃棄物が展示されている。すべての展示品はごみ入れに入っていたもので,におってはいけないことが唯一のルールだ。生物分解性(自然環境の中での分解)に関する展示品を見れば,年月の経過と共にごみがどうなってゆくかが分かる。農産物やボール箱は100年もすれば完全に無くなるが,プラスチック製の家庭用品や炭酸飲料の瓶などは残る。ほかにも,環境保全やリサイクルの重要性を示す展示品があり,この博物館で特に若者たちが,世界的に深刻化するごみ処理の問題を意識するようになることが期待されている。
体重を左右する要素
今では何を食べるかだけではなく,何人の人と一緒に食べるかということも体重を左右する一つの要素とみなされている。米国のジョージア州立大学の研究者たちは,一緒に食事をする人が大勢であればあるほど,多く食べる傾向が見られることに気づいた。「このことから,社会的な要素は食行動に強力な刺激を与えると言えよう。また,体重を減らそうとしている人は他の人と食事をする際に特に注意すべきであるとも言える」と,「カリフォルニア大学バークレー校ウェルネス・レター」は述べている。
世界の文盲率
「世界には字の読めない人が10億人おり,大抵は自分の名前すら読むことができない」とアジアウィーク誌は言う。「教育を受けた人の大半が抱く浅はかな考えとは裏腹に,文盲の問題は解消に向かっているわけではない」。世界の筆頭に挙げられるのはインドで,読み書きのできない人が2億9,000万人いる。中国がそれに続き,2億5,000万人。多くの国では,女子よりも男子のほうが教育の機会に恵まれる場合が多い。世界的に見ると,男性の5人に一人は読むことができないのに対し,女性の場合は3人に一人の割合である。
大事にされる動物
チチュウカイミバエの駆除を行なうカリフォルニア州の当局者に対し,地域住民の団体がマラチオンという殺虫剤を人口密集地域で散布するのをやめるよう陳情したが,取り合ってもらえなかったとタイム誌は伝えている。その殺虫剤は人体に何の悪影響も与えないと当局者は断言した。ところが,体長8㌢ほどのスティーブンズ・カンガルーネズミという絶滅寸前の夜行性げっ歯動物には,その殺虫剤が有害かもしれないと米国魚類・野生生物局が警告すると,当局者は,そのカンガルーネズミが生息する13平方㌔の地域で殺虫剤散布をやめることに同意した。「カンガルーネズミは評価されるが,人間はそうでもない」と同誌は述べている。