エイズ ― これからどうなるのか
「ワクチンが90年代のうちにできることを,私は信じて疑わない」― 米国フィラデルフィア,ワイエス・エアースト研究センターのワクチン研究の責任者エルク・アイヒベルグ。
エイズの治療薬 ― あるいは予防ワクチンであったとしても ― が開発されたところを想像してみてください。それはどんなにすばらしいことでしょう。昨年,イタリアのフィレンツェでエイズ専門家9,000人が「エイズに挑戦する科学」と題する会合を開いたとき,彼らの最大の関心事はそのような治療薬の探求だったに違いありません。
新たな感染者の9割が発展途上国で生まれている現在,効果的な解決策の発見が急がれています。しかし,ニュー・サイエンティスト誌によると,フィレンツェ会議の出席者の多くは,「緊急感を失ってしまって」いるように見えました。災厄があまりにも圧倒的なので,「もしかすると,[多くの専門家は]さじを投げたのかもしれない」と同誌は述べました。
科学者たちは見いだす答えよりも多くの疑問にぶち当たっている,というのが厳しい現実です。ニュー・サイエンティスト誌は,「エイズが流行し始めてから10年たつが,ウイルス学者や免疫学者が直面している問題は相変わらず大きいようだ」と説明しています。英国のエイズ臨床医イアン・ウェラーは,「抗ウイルス療法という戦略防衛構想はまだ実現しそうにない」と警告しました。
しかし,抗エイズワクチンができたとしても,どれほど簡単にそれを入手できるでしょうか。アフリカで実地に働いた経験のある開業医デニス・シフリスはこう説明しています。「結核によく効くワクチンがあるのだから,理論的には,はしかやB型肝炎[の場合と同様],結核は撲滅されることになっていた。しかし,この三つの病気は……現代のアフリカでは主な死因となっている。それゆえ,ワクチンが開発されたとしても,人々がそれを入手できるかどうかは大きな問題である」。
治療薬ができる見込みはほとんどないため,アフリカに残された唯一の道は,性行動を変えるよう人々を説得することです。しかし,問題はどうやってそうするかです。
標準的な対応策
アフリカでのエイズ問題解決の標準的な対応策は,コンドームの配布一点張りです。長距離トラックの運転手は国境検問所で無料のコンドームをもらいます。新聞社はコンドームを封筒に入れて配布します。診療所と保健職員は百万個単位の在庫を持っています。
そうした方法はエイズの蔓延を食い止めるのにある程度の効果があるかもしれませんが,その方法自体に問題がないわけではありません。特にアフリカではそうです。アンゴラのメドゥサン・サン・フロンティエールの保健職員ステファン・バンデル・ボルヒトは,300万個のコンドームを配ればうまくゆきそうだと述べました。しかしそれでは,150万人の男性が2回ずつ性行為をするだけで,コンドームはなくなってしまうことになります。
それに,供給上の問題は別としても,コンドームを見境なく配ることによって,アフリカのエイズのまさに根源となっている,不特定多数の人との性交渉にどんな影響が及ぶでしょうか。様々な証拠はすべて,そうした方法が性的活動を鈍らせるよりは,むしろ刺激することを示しています。政府当局者でさえ,この事実に気づくようになっています。すでにアフリカのある国は,国営マスメディアにコンドームの宣伝を中止するよう指示しています。そのような宣伝が不特定多数の人との性交渉をあおるからです。著述家キース・エデルストンは自著「エイズ ― 世の終わりへの秒読み」の中で,この点にさらに一歩踏み込み,「コンドームの使用に伴う……危険を考えると,まったく安全な唯一の方法が厳格な一夫一婦制であることは極めて明白だ」と述べています。
しかし,結婚制度内での一夫一婦の道徳性を取り戻すということは,現実的な選択なのでしょうか。
エイズが終わりを迎える
「人々が明日から,だれとでも寝るのをやめれば,ウイルスは死に絶えるだろう。ウイルスを持っている人が死ぬと,ウイルスもおしまいである」と,アフリカのエイズ専門家ルーベン・シェル教授は語っています。同様に,南アフリカのヨハネスブルクのスター紙の論説は,「[HIVは]だれとでも寝たり,注射針を共用したり,輸血を受けたりしない人には滅多にうつらないウイルスである」と述べています。
現在,アフリカにいる45万人以上のエホバの証人は,そうした事柄を避けています。証人たちは,聖書に基づく道徳には価値があると堅く信じています。証人たちがどのように考えているかに注目してみてください。証人たちは,創造者エホバ神が人間をお造りになったのだから,人間の振る舞いに関する神の行動規範は当然注意を払うに値する,と考えているのです。ヘブライ 13章4節に記されている原則は代表的な例です。そこにはこう書かれています。「結婚はすべての人の間で誉れあるものとされるべきです。また結婚の床は汚れのないものとすべきです」。このような聖書の言葉を当てはめる人は,喜びを奪われていると感じるどころか,多くの身体的また感情的な痛手を受けずにすみます。―使徒 15:29; コリント第二 7:1; エフェソス 5:3-5と比較してください。
興味深いことに,マスコミはしばしばアフリカのエホバの証人の道徳について好意的な意見を述べてきました。英国ロンドンのデーリー・テレグラフ紙は,「[彼らは]……自分たちが高い道徳律を守る,品位と秩序のある市民であることを示してきた」と述べ,さらに,「アフリカ社会の特徴である乱交や一夫多妻など,証人たちの間では全く考えられないことである」と伝えました。同様に,「現代における宗教の変様」という本の著者,ブライアン・ウィルソンは,「アフリカ社会で,証人たちは……例外的な人々となっており」,「[彼らの]道徳規範の効力は彼らの間に明らかに見られる」と述べています。
もちろん,エホバの証人にはエイズの影響が全くないというわけではありません。キリスト教の原則に従わない配偶者から感染した人もいれば,エホバの証人になる前に感染していた人もいます。また,一部の人は今の世の中の道徳的にだらしない生き方に逆戻りすることを選び,そのうちの少数は,自分の生き方の結果としてエイズに感染しました。(ガラテア 6:7)しかし,意識的に不道徳な生活を追求する人は,クリスチャン会衆にとどまる特権を失うことにもなりました。(コリント第一 5:13; 6:9,10)とはいえ,世界中の400万人を超えるエホバの証人の圧倒的大多数は,道徳に関する創造者の原則を堅く守ることにより,身体的,感情的,霊的な幸福を味わっています。
うれしいことに,聖書はエイズのような災いが間もなく永久に解決されることを示しています。(啓示 21:1-4)エホバ神は,エイズなどの病気の不道徳な原因すべてが完全に取り除かれる新しい世を約束しておられます。そこでは罪のない被害者はもういません。すべての人が真の幸福を促進する,廉直で健康的な生活を追い求めるからです。―イザヤ 11:9。ペテロ第二 3:13。
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「研究開発に多額の資金を費やす必要はない。……道徳性を取り戻すことが必要なのである」― 南アフリカの免疫学者,マーク・ヘンドリックス
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厳格な一夫一婦制はエイズ禍を避ける重要な方法である
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神はエイズなどの病気が全くない新しい世を約束しておられる