孤独 ― 隠れた苦悩
人込みの中で見分けることができますか。顔に表われていますか。あいさつをしても,笑顔の奥に隠れていますか。歩く姿や身のこなしで分かりますか。公園のベンチに一人座っている年配の男性や,一人で美術館に来ている若い女性を見てください。その人は孤独に悩まされてはいないでしょうか。ショッピング街を母,娘,孫が親子3世代で歩いているところを観察してください。結構幸せそうに見えますが,確かにそうだと言えますか。職場の同僚のことを考えてください。優しい家族に囲まれ,快適な生活を送るのに十分な収入のある幸福な人々だ,と恐らくあなたは思っているでしょう。しかし,家族の中の一人がしみじみと「寂しい」と漏らすことはないでしょうか。また,快活な十代の若者は孤独を感じることはないのでしょうか。これらの質問に対する答えを聞くと,あなたは驚かれることでしょう。
ウェブスター大学生用新辞典 第9版では,「孤独」は「わびしさ,あるいは心細さを感じさせる」と説明されています。孤独感とは,何かが欠けている,または心が満たされないという気持ちであり,必ずしも外見で判断できるとは限りません。ある研究者はこう言います。「我々の社会では,孤独感をひたすら隠そうとする。自分自身それを認めない場合もある。孤独感は不名誉の印なのである。一般に,寂しく感じるのは本人に原因があるからだと考えられている。そうでなければ,友達がたくさんいるはずではないか,というわけである」。そのとおりのことも時々あります。他の人に不当に多くのことを期待したり要求したりする場合には特にそう言えるかもしれません。
孤独な女性たち
どの年齢層の女性も ― とりわけ結婚している女性は ― 生活から多くのものを得ようとする点では男性以上であるということに,専門家たちの意見は一致しているようです。未亡人や離婚した女性,独身のまま年をとった女性が時々寂しさを覚えるのは理解できることです。しかし,結婚して家族と幸せに暮らしているように見える女性の場合はどうでしょうか。例えば,40歳のある教師はこう言って嘆きました。「友達と過ごす時間が全くなくて,とても辛いんです。でも,そう言うだけで変な気持ちになります。寂しいなんて,わたしがどうして言えるでしょうか。……結局,結婚生活はうまくいっているし,いい子供たちに恵まれているし,立派な家に住んでいるし,仕事も気に入っています。自分がやり遂げたことを誇りに思っています。でも,何かが足りないのです」。
夫を心から愛し,献身的に夫に尽くし,夫からも同じような反応が返ってくる場合でも,そのような愛は,親しい人がほしいという女性の欲求をすべて満たしてくれるとは限りません。上に引用した教師はこう説明します。「夫はわたしの一番の友達ですが,立派な女性の友達の埋め合わせにはなりません。男の人は聞いてはくれても,耳を傾けて聴いてはくれません。わたしがどれほど精神的な圧迫を感じているのか,夫は知りたいと思わないのです。一気に問題の中に飛び込んで解決したいのです。でも,女性の友達なら,わたしに話をさせてくれます。ただ話をしたいだけの時もあるのです」。
女性が死別や離婚によって夫を失うと,激しい動揺を感じるかもしれません。孤独感に襲われるようにもなります。悲しみに沈む未亡人や離婚女性は家族や友達に支えを求めるだけでなく,新たな現実に対応するため自分自身の内面の力にも注意を向けます。夫を失ったという事実は一生変わらないにしても,そのために自分の生活の営みを停止させるわけにはゆかないということを認識しなければなりません。専門家たちは,性格の強い人のほうが寂しさを早く克服する場合が多いことに気づいています。
夫と死別した女性と,離婚した女性のどちらが大きな苦しみを味わうかについては,意見が分かれています。雑誌「フィフティー・プラス」はこう伝えています。「離婚女性を我々の寡婦援助会に招くと決まって二つに分かれ,どちらの苦しみが大きいかの議論になってしまう。未亡人が,『何よ,あなたの亭主はまだ生きているじゃない』と言えば,離婚女性は,『何さ,あなたはわたしのように捨てられたわけじゃないでしょ。失敗したという気持ちはないはずよ』と言う」。
孤独な男性たち
孤独感ということになると,男性も女性より強いと言って自慢してはいられません。アメリカ退職者協会(AARP)の未亡人サービスの企画担当者アン・スタドナーは,「男性の物事の扱い方は,感情的というよりは物理的である」と言います。「女性は起きたことを際限なく繰り返して話しますが,男性は悲しみに対処するよりは別の妻を探す」のです。男性カウンセラーは,妻を亡くした人が自分の感情を徐々に話し始めるまでに,かなりの時間を費やすことになるかもしれません。
男性は女性と違い,自分の気持ちを打ち明けるのに,同性よりも異性の親しい友人を求める,ということを専門家たちは発見しました。米国ロチェスター大学の孤独に関する専門家ラッド・ホイーラー医師は,男性同士は気持ちのつながりが感じられるほど深く心を打ち明けることはないと言います。「男性は,妻を失った後の打ちのめされるような感情的孤立から逃れる必要を感じ,その後女性の友達と接触するようになる。このことは,一般的に男性が妻と死別した後,あるいは離婚後,女性よりもずっと早く再婚する理由の説明となるかもしれない」―「フィフティー・プラス」。
孤独な若者たち
子供やヤングアダルトが孤独を感じるようになる理由はたくさんあります。それはたいてい大人の場合と同じです。引っ越して友達と離れてしまった,転校先のクラスメートに嫌われる,宗教的また倫理的背景,離婚,親に愛されていないという気持ち,異性に相手にされないなどは,孤独を感じさせる大きな要素となっています。
ごく幼い子供には,遊び相手が必要です。そして,感情的な支えと理解が必要です。愛情も必要ですし,自分自身の価値を認めてくれる人も必要です。周りの人が誠実で信頼の置ける人であることを子供たちは知っていなければなりません。このような社会的な支えは,家族,同年代の友達,ある場合ペットなど,いろいろなところから得られます。
男性も女性もたいてい,小学校の1年から大学に至るまで,同じ程度の孤独に悩まされます。多くの場合その寂しさは,同年代の友達に受け入れてもらえないことが原因です。「一人ぼっちで,だれとも話をしないから,いやな気持ちになります」と,一人の女子高校生は悲しそうに言いました。「先生の話を聴いて,宿題をするだけで,それ以上のことはしません。自習時間には,ただ座って絵を書くか何かしています。みんなは友達と話しているけど,だれもわたしには話しかけてくれません。……いつまでも殻に閉じこもっていることはできないと分かっていても,今のところ,これが精一杯なんです」。
しかし,いつでも他の人の冷淡さや紳士気取りが原因であるとは限りません。ひどく内気であるとか,気まぐれであるとか,過度に衝動的で同年代の友達と仲良くやってゆけないといった,振る舞いや社交上の問題を持っている人もいます。さらに,身体障害も,本人がしっかりしていて外向的でなければ,どんな年齢の若者をも孤独に追いやって破壊的な原因となりかねません。
自力で対処することの必要性
米国のカリフォルニア州立大学フラートン校で健康問題の教育に携わっているドローレス・デルコーマは,孤独と闘う努力について次のように述べ,一つの重要な真理を的確に指摘しました。「努力は本人の内部から出る必要がある。結局は本人が自分の問題を自覚しなければならない。他の人がどんなに助けようとしても,殻を打ち破って出てくるよう助けることができるのは,本人以外にない」。
溶け込むことを自分で難しくしている人々を,ウォーレン・ジョーンズ博士は,孤独になりがちな性格の人々と呼んでいます。「そのような人は無意識に,自分が他の人に親しみを感じるのを妨げるような方法で物事を行なっている。耳を傾けて聴くことを知らない人もいれば,会話を独占する人もいる。自分に対しても他人に対してもどちらかと言えば批判的である。彼らはあまり質問をしない。そして,意地の悪いことや不快なことを言って友情を台なしにすることが多い」。
それらは基本的に自尊心に欠けた人たちですが,そのほかに,人とのふれ合いに必要な社交術に欠けた人々もいます。そのような人たちについて,治療専門家のエブリン・モシェッタはこう言っています。「孤独な人たちは,自分に対してあまり良い印象を抱いていない。相手にされないことを予期して,自分から近づこうとはしない」。
ところが研究者たちは,従来言われてきたこととは裏腹に,年配の男女のほうが若い人々よりも孤独に苦しまないことに気づきました。その理由は定かではありません。さらに,年配者が孤独を感じる場合は,身寄りがないからというより,友達がいないためであることにも気づきました。「お年寄りにとって家族の絆が重要ではないというわけではない。実際,お年寄りは家族に助けを求める。ところが,助けてくれる家族の者が大勢いても,友達がいなければひどく寂しく感じるのだ」。
親しい友達を持つことの必要性
どんな年齢の人も,家族や親族以上に親友が必要を満たしてくれる時があるものです。人間は友達を必要とします。それも,感情を傷つけられるという心配をせずに秘密を打ち明けられる,あるいはありのままの自分を出せる,親しい友達を必要としています。そのような友達がいなければ,孤独感は深まるでしょう。米国の随筆家ラルフ・ウォルドー・エマソンはそういう友達について,『友の前では,考えていることを声に出すことができる』と書きました。そのような友人こそ腹心の友です。そのような友人に対しては,ありのままの自分をさらけ出しても,裏切られるおそれもなければ,秘密を悪用されて評判を傷つけられたり,物笑いの種にされる心配もありません。誠実な友人だと思っていたのに,その信頼にこたえなかった人もいるかもしれません。しかし,『他の人の内密の話を明かさない』,「兄弟より固く付く友人」もいます。―箴言 18:24; 25:9。
自分はタフだから,だれも必要としないという態度を取る人がいます。他人に頼る必要はない,何でも自分でできるというわけです。しかしながら,そういう人たちも多くの場合集まって,タフィーというグループを作っています。子供たちはクラブに入り,クラブハウスを建て,グループを形成します。もっと年上の若者の間には,バイク仲間がいます。犯罪者には,密告をしない親しい仲間がいます。飲酒の問題を抱える人は断酒会に加入します。肥満と闘っている人は,ウェイトウォッチャーズという団体に入ります。人々には集団を好む傾向があり,支えを求めてグループを形成します。惨めな状態にあっても,人々は仲間がそばにいてほしいのです。そして,だれもが例外なく孤独を嫌っています。では,孤独にどう対処すればよいでしょうか。
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孤独な人たちは,自分に対してあまり良い印象を抱いていない