聖書時代の飲物
イー・ダヴリュ・ヒートンは,『旧約時代の日常生活』という本を書き,その中でイスラエル人の用いた飲料について語つています,『水は少ししかなく,それに美味なものでなかつたため,乳が多く飲まれた。山羊の乳とか羊の乳であつた。ヘブル語には新鮮な乳という言葉があるにはあるが,パレスチナの気候にあつては,酸い乳という言葉ほど多く使われなかつた。新鮮な乳も山羊の皮の袋に入れると,すぐに凝固して酸いものになつてしまう。しかし,渇をいやすには猶更に良いものと考えられていた。
葡萄酒を飲むことは,ひろく行われていた。水といつしよに葡萄酒を飲むとか,又は山々からの雪でもつて葡萄酒を冷やして飲むというのは後になつて出来た習慣である。そして,雪で冷やすという飲み方は,日常生活の一部ではなかつた。我々の時代の普通のイスラエル人は,自然の状態のままの葡萄酒を飲むか,又は(アッシリヤ人のように)香料とか薬味をまぜてその「酒質」を増した。旧約の中に度を越して飲むことを禁ずる言葉が多くあるのも当然である。イスラエル人の男はまたざくろ酒をも飲んだ……しかし,ビールは多く飲まなかつたようだ。この点では近くに住んでいたペリシテ人と異なる。ペリシテ人の使用していた濾過用の注口のついているビール吞器は幾百となく発見されている。』