-
汚染 ― 犯人はだれか目ざめよ! 1990 | 5月8日
-
-
酸性雨が降ると,もっと悪いことに酸性の雪が溶けると,その下の土壌は影響を受けます。1927年に行なわれた調査をもう一度行なったスウェーデンの科学者たちは,森林の土壌は地下約70㌢の深さの所で酸性度が10倍になっていると結論しました。この化学的な変化は,カルシウムやマグネシウムなどの必要不可欠なミネラルを取り入れる植物の能力に重大な影響を与えます。
ではこうした事柄はみな人間にどんな影響を及ぼすでしょうか。以前には生き物が沢山いた湖や川が酸性になり,生き物がいなくなると,人間は苦境に立たされます。しかも,ノルウェーの科学者たちが研究の結果得た結論によると,湖であれ土地であれ,その中の水の酸性度が増すとアルミニウムが溶けます。これは明らかに健康上の脅威になります。科学者たちは,水の中の「アルミニウム濃度の上昇と死亡統計上の数値の上昇との間の明確な関係」に注目しています。アルミニウムはアルツハイマー症などの老人病と関連がありそうなので懸念されています。
英国のマージー川やフランスのアントレッサン廃物集積場のような場所で,事態を改善する努力が払われてきたことは事実です。それでも,この種の問題はなくなりません。世界のどこでもこの問題は再燃します。しかし,さらに別の種類の汚染,目に見えない汚染があります。
オゾン ― 目に見えない敵
発電所にせよ家庭のかまどにせよ,化石燃料を燃やせば,亜硫酸ガスに加えて他の汚染物質が生じます。窒素と燃えていない炭化水素の酸化物などがそれです。
大気汚染の原因はこの窒素酸化物にもあるという意見が科学者たちの間で強くなっています。窒素酸化物は太陽光線の影響を受け,致命的なガスであるオゾンの発生を助けます。米国環境保護局のデービッド・ティンジーは,「米国の場合,草木に影響を及ぼしている大気汚染物質の中で最も悪質なものはオゾンである」と述べました。1986年に米国では1年間に10億㌦(約1,800億円)相当の損害が生じた,と同氏は推測します。当時のヨーロッパにおける損害は,年間推定4億㌦(約720億円)でした。
それで,河川は酸性雨のため死にかけていますが,樹木が枯死する原因は酸性雨よりも,最終的に自動車の排気ガスと結びつくオゾンのほうにある,と多くの人は考えています。「[ドイツの]樹木が時期でもないのに枯死しかけているのは,酸性雨ではなくオゾンのせいだ。霜や酸性霧や病気がとどめの一撃になるかもしれないが,樹木の抵抗力を弱めているのはオゾンなのだ」と言ったのはエコノミスト誌です。
-
-
汚染 ― 犯人はだれか目ざめよ! 1990 | 5月8日
-
-
[7ページの囲み記事/図版]
時の経過による荒廃よりもひどい
石に刻まれたこの顔は,何年も風雨にさらされて,単なるデスマスクになってしまいました。時の経過よりもひどい荒廃をもたらすのは,大気汚染の腐食作用です。米国スケネクタディーの市庁舎から,イタリアはベニスの有名な大建築物に至るまで,世界中の古い建物は,降り注ぐ酸性雨に浸食される憂き目に遭っています。ローマの記念碑はちょっと触るだけでぼろぼろ崩れるということです。ギリシャの有名なパルテノンは,過去30年間に受けた被害のほうが,それ以前の2,000年間に受けた被害よりも大きいと考えられています。そのような被害は,気温や風や湿度などを含む入り混じった環境的要因のほかに,建物の壁に住んでいるバクテリアによっても一層ひどくなる場合が少なくありません。無生物にこのような影響が出るのであれば,生き物にはどんな影響があるでしょうか。
[図版]
ロンドンの大聖堂の彫刻
-