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「全員一致で決定しました」神の王国について徹底的に教える
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14章
「全員一致で決定しました」
統治体が決定を下し,クリスチャンたちの心が一つになる
1,2. (ア)1世紀の統治体はどんな大事な問題を検討していましたか。(イ)結論を出すためにどんなことが役立ちましたか。
どうやらついに結論が出そうです。集まった使徒や長老たちは顔を見合わせ,いよいよ大きな決定が下されるのを感じます。割礼の件で,大事な問題が浮かび上がっていました。クリスチャンはモーセの律法を守らなければいけないのでしょうか。ユダヤ人と異国人は区別されるべきなのでしょうか。
2 使徒や長老たちは幾つもの事実を検討しました。神の預言の言葉を確認し,神の力が働いているのを感じた体験談も聞きました。みんなが自由に意見を出し合いました。証拠は十分に出そろっています。エホバの聖なる力が示している方向は明らかです。兄弟たちはそちらに進むでしょうか。
3. 使徒 15章からどんなことを学べますか。
3 聖なる力の流れに合わせるには,かなりの信仰と勇気が必要でした。ユダヤ人の宗教指導者からより大きな反感を買うことになります。会衆内のモーセの律法にこだわる人たちからの反発に遭うかもしれません。統治体の兄弟たちはどうするでしょうか。現代の統治体はその兄弟たちの手本に倣っています。クリスチャンみんなにとっても,何かの決定をしたり問題にぶつかったりしたときにぜひ見習いたい手本です。
「預言者の言葉はこのことと一致しています」(使徒 15:13-21)
4,5. ヤコブはどんな預言の言葉を引き合いに出しましたか。
4 イエスの弟ヤコブが話します。a ヤコブはこの会合の司会者だったようです。ヤコブは,話し合いの結論と思われる点を言葉にしていきます。みんなにこう言います。「シメオンは,神が初めて異国の人々に注意を向けて,その中からご自分の名のための民を取り出した次第を十分に話してくれました。預言者の言葉はこのことと一致しています」。(使徒 15:14,15)
5 シメオン(シモン・ペテロ)の体験談や,バルナバとパウロの話を聞いて,ヤコブは関係のある聖句を思い出したようです。(ヨハ 14:26)「預言者の言葉はこのことと一致しています」と言ってから,アモス 9章11,12節の言葉を引用します。アモス書はヘブライ語聖書中の「預言者」と呼ばれていた部分に含まれています。(マタ 22:40。使徒 15:16-18)ヤコブが引用したアモスの言葉は,今のアモス書の言い回しといくらか異なっています。ヤコブは,セプトゥアギンタ訳(ヘブライ語聖書をギリシャ語に翻訳したもの)から引用したようです。
6. 聖書によってどんなことがはっきりしましたか。
6 エホバは預言者アモスを通して,「ダビデの天幕」(ダビデの家系を継いだ王朝)を建てる時が来る,と預言していました。メシア王国の誕生を示唆していたわけです。(エゼ 21:26,27)エホバは再び,ユダヤ国民だけと特別に関わるのでしょうか。いいえ,そうではありません。アモスの預言には,「全ての国の人々」が集められ,「[神]の名で呼ばれる」とありました。ペテロもこう言ったばかりでした。「[神は]私たち[ユダヤ人のクリスチャン]とその人たち[異国人のクリスチャン]との間に何の差別も設けず,彼らの心を信仰のゆえに清めました」。(使徒 15:9)ユダヤ人も異国人も同じく神の王国で王になれると神は考えている,ということです。(ロマ 8:17。エフェ 2:17-19)異国人のクリスチャンは割礼を受けたりユダヤ人と同化したりしなければ王になれない,という預言は聖書のどこにもありませんでした。
7,8. (ア)ヤコブはどんなことを提案しましたか。(イ)ヤコブは独断で決定しようとしていましたか。
7 聖句を確認し,説得力のある証言を聞いたヤコブは確信を深め,こう提案します。「ですから,私の決定は,神を崇拝するようになる異国の人々を煩わさず,偶像によって汚された物と性的不道徳と絞め殺された動物と血を避けるよう書き送ることです。モーセの書は安息日ごとに会堂で朗読されていて,それを教える人が昔からどの町にもいます」。(使徒 15:19-21)
8 「ですから,私の決定は……です」と言ったヤコブは,司会者として勝手に話を進め,独断で決定しようとしていたのでしょうか。そんなことはありません。「私の決定は……です」と訳されるギリシャ語の表現には,「私は……と判断します」や「私は……という意見です」という意味もあります。ヤコブはみんなを威圧して従わせようとしていたわけではありません。挙げられた証拠や聖句に基づいて,どうするとよいかを提案していました。
9. ヤコブの提案にはどんな利点がありましたか。
9 ヤコブの提案が妥当なものだったので,使徒や長老たちはそれを採用しました。その提案はまず,異国人のクリスチャンたちを「煩わさ」ない(新国際訳[英語]では,「困らせ」ない)ものでした。モーセの律法に縛られなくてよくなるからです。(使徒 15:19)また,ユダヤ人の気持ちにも配慮した提案でした。ユダヤ人たちは,「モーセの書[が]安息日ごとに会堂で朗読され」るのを長年聞いていたからです。b (使徒 15:21)この提案の通りにすれば,ユダヤ人と異国人のクリスチャンの間に絆が生まれるはずです。何より,エホバの考えと合っていたので,エホバに喜んでもらえる提案でした。いっときは会衆がばらばらになりそうでしたが,見事に問題を乗り越えることができました。現代のクリスチャンも見習いたい素晴らしい手本です。
1998年の国際大会で話をするアルバート・シュローダー
10. 現代の統治体は,1世紀の統治体にどのように倣っていますか。
10 前の章でも見たように,現代のエホバの証人の統治体も,いつでも最高主権者エホバと,会衆のリーダー,イエス・キリストに頼り,導いてもらおうとします。c (コリ一 11:3)どのようにそうするのでしょうか。1974年から統治体で奉仕し,2006年3月に亡くなったアルバート・D・シュローダーはこう言っています。「水曜日の統治体の会合は,エホバの聖なる力に導いてもらえるよう,祈りで始めます。一つ一つの話し合いや決定が神の言葉 聖書に沿っているかどうか,真剣に確かめます」。また,2003年3月に亡くなるまで統治体で長年奉仕したミルトン・G・ヘンシェルは,ものみの塔ギレアデ聖書学校の第101期卒業生に,こう問い掛けました。「統治体は重要な決定をするとき,必ず神の言葉 聖書を確かめます。そういう人たちが物事を決めるグループが果たしてほかにあるでしょうか」。答えは言うまでもありません。
「選んだ人たちを……遣わす」(使徒 15:22-29)
11. 統治体の決定はどのように各会衆に伝えられましたか。
11 エルサレムの統治体は,割礼の件で全員一致の決定をしました。では,その決定を各会衆の兄弟たちにどう伝えるとよいでしょうか。みんなに受け入れてもらえるよう,前向きなトーンで分かりやすく伝えることが大切です。どうしたかがこう記録されています。「使徒や長老たちは会衆全体と共に,自分たちの中から選んだ人たちをパウロとバルナバと一緒にアンティオキアに遣わすことに決めた。バルサバと呼ばれるユダとシラスであり,兄弟たちの中で大きな責任を担っている人たちだった」。さらに,手紙を作成してその人たちに託し,アンティオキア,シリア地方,キリキア地方の全ての会衆で読まれるようにしました。(使徒 15:22-26)
12,13. (ア)ユダとシラスを遣わしたのが良い判断だったといえるのはどうしてですか。(イ)統治体の手紙によってどんなことが伝えられましたか。
12 ユダとシラスは「兄弟たちの中で大きな責任を担っている人たち」で,統治体の代わりに決定を伝えるのに適任でした。統治体に遣わされた人がやって来れば,会衆の人たちは,話されることが統治体からの明確な指示だと理解したでしょう。相談した事への回答をただ伝えに来ただけ,とは思わなかったはずです。また,その人たちが現地に赴けば,エルサレムのユダヤ人のクリスチャンと,各会衆の異国人のクリスチャンとの間の距離が縮まるでしょう。これは,配慮の行き届いた,とても親切なやり方でした。きっとクリスチャンたちみんなの心が一つになるはずです。
13 手紙によって,異国人のクリスチャンに明確な指示が与えられました。割礼についてだけでなく,エホバに喜ばれるために必要なほかの事柄についても,はっきりとした指示がありました。手紙にはこうありました。「聖なる力によって私たちは,次の必要な事柄以外,皆さんに何の重荷も加えないのがよいと考えたからです。すなわち,偶像に犠牲として捧げられた物,血,絞め殺された動物,性的不道徳を避けていることです。これらのものから注意深く身を守っていれば,皆さんは穏やかに暮らせます。健やかにお過ごしください」。(使徒 15:28,29)
14. 分断が進んだ世の中で,エホバの証人が一致団結しているのはどうしてですか。
14 現在,800万人を超えるエホバの証人が世界各地の10万以上の会衆で奉仕しています。みんなが心を一つにして同じ活動をしています。分断が進んだこの世の中で,どうしてそんなことが可能なのでしょうか。1つには,会衆のリーダー,イエス・キリストが「忠実で思慮深い奴隷」(統治体のこと)を通して,明確な指示を与えているからです。(マタ 24:45-47)また,世界中の兄弟たちが統治体の指示に喜んで協力しているからです。
「人々は……励ましの言葉を喜んだ」(使徒 15:30-35)
15,16. 割礼の件はどんな解決を見ましたか。良い結末になったのはどうしてですか。
15 エルサレムを出発した兄弟たちは,アンティオキアに着くと,「皆を集めて手紙を渡し」ます。アンティオキアの兄弟たちは,統治体の指示をどう受け止めたでしょうか。「人々は[手紙]を読んで,励ましの言葉を喜んだ」とあります。(使徒 15:30,31)それからユダとシラスは,「何度も話をして兄弟たちを励まし,力づけ」ました。2人が「預言者」と呼ばれているのはそのためです。「預言者」は,神の考えを広めたり知らせたりする人を指します。バルナバやパウロなどもそう呼ばれています。(使徒 13:1; 15:32。出 7:1,2)
16 こうして,エホバからの後押しがあり,順調に物事が進みました。とても気持ちの良い解決でした。良い結末になったのはどうしてでしょうか。統治体がぴったりのタイミングで明確な指示を出しました。その指示は神の言葉に基づいていて,聖なる力に導かれたものでした。そして,配慮の行き届いた方法で指示が各会衆に伝えられました。
17. 巡回監督がしていることは,1世紀に行われたこととどのように似ていますか。
17 1世紀のクリスチャンに倣って,エホバの証人の統治体も世界中の兄弟たちに,その時々で必要な指示を与えます。明確な指示をはっきり分かるように各会衆に伝えます。例えば,巡回監督を通してそうします。巡回監督は各会衆を回り,明確な指示を伝え,温かい言葉を掛けます。パウロとバルナバのように宣教にたくさん時間を使い,「ほかの多くの人と一緒にエホバの言葉の良い知らせを広め」ます。(使徒 15:35)ユダとシラスのように,「何度も話をして兄弟たちを励まし,力づけ」ます。
18. エホバに後押ししてもらうためには何が欠かせませんか。
18 会衆としてはどうでしょうか。分断が進んだ世の中とは異なり,みんなで心を一つにするために,どんなことを覚えておくとよいでしょうか。ヤコブはしばらく後にこう書いています。「天からの知恵を持つ人は,第一に清く,次いで平和を求め,分別があり,進んで従い[ます]。さらに,正しさの実は,平和をつくり出している人たちのために,平和な状態の中でまかれた種から生じます」。(ヤコ 3:17,18)こう書いたヤコブが,エルサレムでの話し合いのことを思い出していたかどうかは分かりません。でも,使徒 15章の出来事から,みんなが一致協力して初めてエホバからの後押しがある,ということが分かります。ヤコブが書いた通りです。
19,20. (ア)アンティオキアの会衆の人たちの心が一つになっていたのは,どんなことから分かりますか。(イ)パウロとバルナバは再びどんなことに打ち込めるようになりましたか。
19 アンティオキアの会衆の人たちの心は一つになっていました。エルサレムから来た兄弟たちに反発したりせず,訪問してくれたことに感謝しました。こう書かれています。「2人はそこでしばらく過ごした後,兄弟たちから温かく見送られ,自分たちを遣わした人々のもと[つまり,エルサレム]に戻っていった」。d (使徒 15:33)エルサレムの兄弟たちも,戻ってきた2人から良い報告を聞いて喜んだはずです。エホバの惜しみない親切のおかげで,全てうまくいきました。
20 パウロとバルナバはアンティオキアにとどまります。再び,先頭に立って良い知らせの伝道に打ち込めそうです。現代の巡回監督も会衆を訪問する時,そうします。私たちはそういう姿勢を見ると,自分も頑張ろうと思います。(使徒 13:2,3)パウロとバルナバがこの後どのように活躍することをエホバは願っているでしょうか。次の章で見てみましょう。
聖書を深く学べるよう,統治体と統治体が選んだ人たちが助けてくれている。
b ヤコブが「モーセの書」に触れたことには大きな意味がありました。「モーセの書」には律法以外のことも書かれていたからです。律法より前の時代に神がどんなことをしたか,どんな考えを持っていたかをそこから読み取れます。例えば,血,姦淫,偶像崇拝をどう見ていたかが創世記からよく分かります。(創 9:3,4; 20:2-9; 35:2,4)エホバは,ユダヤ人か異国人かを問わず,全ての人に関わる行動指針を明らかにしていたわけです。
c 「統治体と6つの委員会」という囲みを参照。
d シラスがアンティオキアにとどまることにしたという趣旨の言葉が34節に入っている聖書翻訳もあります。(ジェームズ王欽定訳[英語])とはいえ,それは後代の加筆と思われます。
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「かなりの対立と議論が生じた」神の王国について徹底的に教える
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13章
「かなりの対立と議論が生じた」
エルサレムの統治体の兄弟たちが割礼の件を検討する
1-3. (ア)どんな進展によって,クリスチャン会衆に不穏な空気が漂い始めましたか。(イ)この件についての記録を調べると,どんなことを学べますか。
パウロとバルナバは意気揚々としています。1度目の宣教旅行を終えて,シリアのアンティオキアに戻ってきました。エホバが「信仰への扉を異国の人々に対して開い」てくれたことをとても喜んでいます。(使徒 14:26,27)アンティオキアの町も良い知らせを聞いて沸き返り,「大勢の」異国人がクリスチャンになっています。(使徒 11:20-26)
2 多くの異国人がクリスチャンになっているという知らせは,すぐにユダヤに届きます。でも,みんなが喜んだわけではありません。くすぶっていた割礼の問題が表面化します。ユダヤ人のクリスチャンと異国人のクリスチャンは,どう接し合うべきでしょうか。異国人はモーセの律法をどう見るべきでしょうか。意見が分かれて対立が生じ,このままにしておくとクリスチャン会衆がばらばらになりかねません。どうやって解決するとよいでしょうか。
3 この件についての記録を調べると,大切なことを学べます。何かのことで意見が分かれ,会衆に亀裂が入りそうなとき,どうすればよいかが分かります。
「割礼を受けない限り」(使徒 15:1)
4. 一部の兄弟たちはどんなことを主張しましたか。これまでのいきさつを考えると,どんな疑問が浮かびますか。
4 ルカはこう書いています。「ある人たちがユダヤから[アンティオキアに]下ってきて,兄弟たちに,『モーセの慣例通り割礼を受けない限り,救われない』と教え始めた」。(使徒 15:1)この「ある人たち」は元パリサイ派のクリスチャンだったのでしょうか。それは書かれていません。でも,パリサイ派の厳格で狭い見方に影響されていたようです。しかも,エルサレムの使徒や長老たちも同じ意見であるかのように話したと思われます。(使徒 15:23,24)ペテロが,割礼を受けていない異国人を会衆に迎え入れてから,もう13年もたっていました。それなのに,どうしてユダヤ人のクリスチャンはいまだに割礼を奨励していたのでしょうか。a (使徒 10:24-29,44-48)
5,6. (ア)割礼にこだわるユダヤ人のクリスチャンがいたのはどうしてだと考えられますか。(イ)割礼の契約はアブラハム契約の一部ではありません。どうしてそういえますか。(脚注を参照。)
5 いろいろな理由が考えられます。まず,割礼はエホバが制定したものであり,エホバとの特別な関係の印でした。割礼はやがて律法契約の一部になったとはいえ,その前からあり,割礼を最初に受けたのはアブラハムと家の人たちでした。b (レビ 12:2,3)モーセの律法では,外国人も,過ぎ越しの食事などの祝いに参加するには割礼を受けなければいけませんでした。(出 12:43,44,48,49)それで,ユダヤ人にとっては,割礼を受けていない人は汚れていて,嫌悪すべき相手だったわけです。(イザ 52:1)
6 このように,ユダヤ人のクリスチャンにとって,変化に対応するのは簡単なことではありませんでした。信仰が必要でしたし,自分の考えに固執せず,神の考えに自分を合わせなければいけませんでした。律法契約は新しい契約に取って代わっていたので,ユダヤ人として生まれたとしても自動的に神と特別な関係になれるわけではありません。ユダヤにいたクリスチャンなど,ユダヤ人社会で暮らす人たちにとって,キリストへの信仰を告白し,割礼を受けていない異国人を仲間として受け入れるのは勇気の要ることでした。(エレ 31:31-33。ルカ 22:20)
7. ユダヤから来た「ある人たち」はどんなことを理解していませんでしたか。
7 神の基準は変わっていませんでした。モーセの律法の根幹にあるものは新しい契約にも受け継がれていました。(マタ 22:36-40)パウロも割礼についてこう書いています。「内面がユダヤ人である人が真のユダヤ人なのです。真の割礼は聖なる力によって心に施されるものであり,書かれた法典に基づくものではありません」。(ロマ 2:29。申 10:16)大切なのは,進んで従おうとする純粋な心でした。ユダヤから来た「ある人たち」はそのことを理解しておらず,神は割礼の律法を無効にしていないと言い張りました。彼らは考えを変えるでしょうか。
「対立と議論」(使徒 15:2)
8. アンティオキアの長老たちが,割礼についてエルサレムの統治体に相談したのはどうしてですか。
8 記録はこう続いています。「パウロとバルナバと,その人たち[「ユダヤから下って」きた人たち]との間で,かなりの対立と議論が生じた。この件で,パウロとバルナバと何人かが,エルサレムにいる使徒や長老たちのもとに上ることになった」。c (使徒 15:2)「対立と議論」とあるので,どちらの側も自分たちが正しいと強く主張していたことが分かります。アンティオキアの会衆での話し合いでは,答えが出ませんでした。それで,兄弟たちの関係がぎくしゃくしてしまわないよう,「エルサレムにいる使徒や長老たち」(当時の統治体)に相談することにします。このようにしたアンティオキアの長老たちからどんなことを学べるでしょうか。
何人かが「彼ら[異国人たち]に……モーセの律法を守るよう命じることが必要だ」と言った。
9,10. アンティオキアの兄弟たちやパウロとバルナバから,どんなことを学べますか。
9 まず,神が選んだ人たちを信頼することの大切さを学べます。アンティオキアの兄弟たちは,統治体にはユダヤ人のクリスチャンしかいないことを知っていました。それでも,統治体を信頼し,聖書に沿った決定を下してくれると思っていました。エホバが物事を導くはずだと確信していたからです。聖なる力や会衆のリーダー,イエス・キリストを通して導いてくれる,と信じて疑いませんでした。(マタ 28:18,20。エフェ 1:22,23)何か答えが出ないような問題が生じたときは,このアンティオキアの兄弟たちに倣いましょう。神が設けた取り決めや,聖なる力で選ばれている統治体を信頼しましょう。
10 自分の立場をわきまえ,時を待つことの大切さも学べます。パウロとバルナバは,異国人のために奉仕するよう聖なる力で特別に任命されていました。でも,だからといって,自分たちに割礼の件を判断する権限があると思って,アンティオキアで決定してしまおうとは考えませんでした。(使徒 13:2,3)パウロはしばらく後に,「[エルサレムに]上っていったのは啓示があったから」と書いているので,神に導いてもらおうとしていたことが分かります。(ガラ 2:2)現代の長老たちもこの姿勢に倣います。自分の立場をわきまえ,勝手に性急な判断を下さないようにします。意見が分かれるようなときは,争ったりせず,エホバに頼りましょう。聖書を調べ,「忠実な奴隷」からの指示や指針を確認しましょう。(フィリ 2:2,3)
11,12. エホバを待つことが大切なのはどうしてですか。
11 エホバが物事をはっきりさせる時を待たなければいけないことがあります。1世紀の兄弟たちは,エホバが割礼の件をはっきりさせるまで13年待ちました。36年に異国人のコルネリオが聖なる力を受けましたが,この件に決着がついたのは49年ごろのことでした。どうしてそんなに時間が必要だったのでしょうか。ユダヤ人は自分の考えをエホバの考えに合わせなければいけませんでした。エホバはそのための時間を十分にあげたいと思ったのかもしれません。何しろ,彼らが敬愛するアブラハムが結んだ割礼の契約は,それまで1900年間も守られてきていました。(ヨハ 16:12)
12 エホバは私たちを優しく教え,じっくり時間をかけて内面を整えてくれます。いつでも,私たちのためになることを教えてくれます。(イザ 48:17,18; 64:8)自分が正しいんだと考えて,意見を押し付けてはいけません。何かの取り決めが変更されたり,聖句についての説明が変わったりするとき,批判的にならないようにしましょう。(伝 7:8)少しでもそういう気持ちが湧いてきたら,使徒 15章を読んで,1世紀の兄弟たちの手本を思い返すのはどうでしょうか。d
13. じっくり時間をかけて教えるエホバにどのように倣えますか。
13 聖書レッスンを受けている人が,それまで長い間してきた習慣をなかなかやめられないことがあります。今までの宗教の信条を捨てられないこともあります。本人が聖なる力に助けてもらいながら変化していくには,時間がかかるかもしれません。その間,いらいらせずに待ちましょう。(コリ一 3:6,7)その人のために祈ることも大切です。どうしてあげるのが本人にとって一番良いか,エホバがちょうどよい時に教えてくれるはずです。(ヨハ一 5:14)
伝道の成果について「詳しく話した」(使徒 15:3-5)
14,15. アンティオキアの兄弟たちは,パウロとバルナバたちを大切に思っていることをどのように伝えましたか。旅をする一行に出会った兄弟たちが喜んだのはどうしてですか。
14 ルカは次にこう書いています。「この人たちは途中まで会衆に見送られた後,進んでいってフェニキアやサマリアを通り,異国の人々が信者になったことについて詳しく話したので,兄弟たちは皆,非常に喜んだ」。(使徒 15:3)会衆の人たちは,パウロとバルナバの一行を愛し,尊敬していたので,途中まで見送り,神からの支えがあることを願いました。私たちにとってとても良い手本です。会衆の兄弟姉妹に,感謝が伝わるような接し方をしましょう。「とりわけ一生懸命に話したり教えたりしている人[長老]たち」にそうしましょう。(テモ一 5:17)
15 旅をする一行に出会ったフェニキアやサマリアの兄弟たちは,とても喜びました。異国人への伝道の成果を「詳しく」話してもらったからです。話を聞いた人の中には,ステファノの殉教の後,逃げてきたユダヤ人のクリスチャンもいたかもしれません。現代でも,いろんな報告から,エホバが私たちの宣教を成功させてくれているのを知ると,本当に元気が出ます。大変な目に遭っているときにそういううれしいニュースを聞くと,力がもらえるものです。集会や大会に行けば,良い報告が聞けます。出版物やjw.orgにも経験談やライフ・ストーリーが載せられています。
16. 割礼の件が大きな問題になっていたことは,どんなことから分かりますか。
16 パウロとバルナバたちは,南に550㌔ほど旅をして目的地に到着します。こう書かれています。「一行はエルサレムに着くと,会衆および使徒や長老たちに親切に迎えられ,神が自分たちを通して行った多くのことを話した」。(使徒 15:4)どんな反応が返ってきたでしょうか。「以前はパリサイ派だった信者の何人かが席から立ち,『彼らに割礼を施し,モーセの律法を守るよう命じることが必要だ』と言った」とあります。(使徒 15:5)異国人のクリスチャンの割礼の件は,大きな問題になっていました。はっきりさせなければいけません。
「使徒や長老たちは……集まった」(使徒 15:6-12)
17. どんな人がエルサレムの統治体として奉仕していましたか。その中に「長老たち」がいたのはどうしてですか。
17 格言 13章10節には,「助言を求める人たちには知恵がある」とあります。この言葉の通り,「使徒や長老たちは,この件[割礼の問題]について調べるために集ま」りました。(使徒 15:6)「使徒や長老たち」はクリスチャン会衆みんなの代表としてこの件を検討しました。現代の統治体もそうしています。1世紀の統治体の中に,使徒たちだけでなく「長老たち」もいたのはどうしてでしょうか。使徒ヤコブは処刑されていましたし,使徒ペテロは一時期,牢屋に入れられていました。ほかの使徒たちも同じような目に遭うかもしれません。重い責任を担う監督の中に,使徒以外の,聖なる力を受けた信頼できる兄弟たちがいれば,安心です。
18,19. ペテロは確信を持ってどんなことを話しましたか。聞いていた人はどんなふうに考えることができたはずですか。
18 「使徒の活動」の記録はこう続きます。「活発な論議が続いた後,ペテロが立ってこう言った。『皆さん,兄弟たち,よくご存じの通り,神は私たちの中から私をまず選んで異国の人々に良い知らせを伝えさせ,その人たちが聞いて信じるようにしました。そして,人の心を知っている神は,私たちと同じようにその人たちにも聖なる力を与え,その人たちを認めていることを示しました。また,私たちとその人たちとの間に何の差別も設けず,彼らの心を信仰のゆえに清めました』」。(使徒 15:7-9)ある文献によれば,「活発な論議」と訳されているギリシャ語には「探し求めること」,「質問すること」という意味もあります。兄弟たちは意見が分かれていましたが,自分の考えを自由に発言したことが分かります。
19 ペテロの話には説得力がありました。彼は,異国人たちが初めて聖なる力を受けるのを実際に見ていました。それは36年,割礼を受けていないコルネリオと家の人たちに聖なる力が注がれた時のことでした。エホバがユダヤ人と異国人を区別しなくなったのであれば,いったい誰がそうしてよいでしょうか。さらに,エホバに正しいと認めてもらうのに必要なのは,キリストへの信仰であって,モーセの律法を守ることではありません。(ガラ 2:16)
20. 割礼を奨励するなら,どうして「神を試」すことになりますか。
20 神の言葉を聞き,聖なる力が働くのを見てきたペテロは,自信を持って最後にこう言います。「ですから,どうして今,父祖も私たちも負えなかった重荷を弟子たちに課して,神を試したりするのですか。今や私たちは,救いは主イエスの惜しみない親切によるという信仰を持っており,その人たちの救いも同じなのです」。割礼を奨励するなら,「神を試」す(別の訳によると「神に辛抱を強い」る)ことになってしまいます。(使徒 15:10,11,フィリップス訳[英語])自分たちもしっかり守れなかった律法を,異国人に守るよう勧めることになるからです。ユダヤ人は,律法を守ると約束しながら守らず,国民として有罪とされました。(ガラ 3:10)それでも神は,イエスを遣わして惜しみない親切を示しました。大切なのは,そのことに感謝して信仰を持つことでした。
21. バルナバとパウロはどんなことを話しましたか。
21 聞いていた人たちは,はっとさせられたようです。「一同は黙り」込んでしまいます。その後,バルナバとパウロは「自分たちを通して神が異国の人々の間で行った多くの奇跡や不思議なことについて話し」ます。(使徒 15:12)こうして証拠は全て出そろい,使徒や長老たちが割礼の件について決定を下す時が来ました。神の考えに沿った決定ができるはずです。
22-24. (ア)現代の統治体は1世紀の統治体にどのように倣っていますか。(イ)長老たちは話し合っても答えが出ないとき,自分の立場をわきまえ,どうしますか。
22 現代でも,統治体が会合する時には,聖書をよく調べ,真剣に祈って聖なる力を求めます。(詩 119:105。マタ 7:7-11)前もって議題を知らされるので,それぞれが祈りつつよく考えておくことができます。(格 15:28)会合では,敬意を込めながら自由に意見を出し合います。いつも聖書を使いながら話し合います。
23 会衆の長老たちもその手本に倣います。長老たちが話し合っても答えが出ない重要なことがあれば,長老団は支部事務所か,支部事務所の代表者(巡回監督など)に相談します。支部は必要に応じて統治体に尋ねます。
24 エホバが愛するのは,自分の立場をわきまえて時を待ち,設けられている取り決めを尊重する人たちです。エホバはそういう人たちを成功させてくださいます。次の章で見るように,1世紀のクリスチャンも,そうやってみんなが心を一つにして平和になり,ますます活気づいていきます。
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