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解決策を探る目ざめよ! 1997 | 3月22日
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解決策を探る
英国の作家ジョン・リリは,「影について論じると,実体を見過ごすものだ」と書きました。そのような落とし穴を避けるには,現在,熱帯雨林を覆っている暗い影はより重大な問題の反映にすぎないこと,また種々の根本原因に取り組まない限り森林破壊は続くということを確かに銘記しなければなりません。それら種々の原因とは何でしょうか。国連の後援を受けて行なわれているある研究によれば,「アマゾン地方を保護する活動を脅かす根本問題は貧困と人間の不公正さ」です。
あまりうまくいかなかった緑の革命
森林破壊は一つには,ブラジルの南部や中部で何十年か前に始まった,いわゆる緑の革命の副作用であると言う研究者もいます。それ以前はそれらの地方で,わずかな農地しか持っていない幾千もの農家が米や豆やジャガイモを作る傍ら,家畜を飼って生計を立てていました。その後,機械化された大規模な大豆栽培事業や水力発電計画のために農家の土地は買収され,工業国を養うために蓄えられる農産物の栽培が,乳牛の飼育や地元の作物の栽培に取って代わりました。1966年から1979年までの期間だけで,輸出用の作物を栽培するために取り分けられた農地は182%も増えました。その結果,従来の農耕に携わる農民は12人中11人が土地と生計の手段を失いました。それらの人にとって緑の革命は陰気な革命になりました。
土地をなくしたそれらの農民はどこへ行けばよいのでしょうか。自分たちの地域の土地が不当に配分される問題に取り組みたくない政治家たちは,アマゾン地方を「土地のない人のための,人のいない土地」と宣伝して売り込むことにより,農民に打開策を示しました。最初のアマゾン横断道路が開通してから10年もたたないうちに,ブラジルの南部や,干ばつや貧困に見舞われた北東部から来た200万人以上の貧しい農民が,その横断道路沿いの無数の掘っ建て小屋に住みつきました。さらに道路が建設されると,さらに多くの農民志望者がアマゾン地方に移り,待ってましたとばかりに森林を農地に変えました。その入植計画を回顧した研究者たちは,「ほぼ50年にわたった入植計画に関する貸借対照表の帳尻はマイナスである」と述べました。貧困や不正が「アマゾン地方に持ち込まれ」,その上,「アマゾン地方に新たな問題が起きている」のです。
三つの改善策
アマゾン流域(アマゾニア)開発環境委員会は,森林伐採の原因に取り組み,アマゾン雨林の人々の生活を向上させるための一助として,アマゾン盆地の各州政府に,とりわけ,まず次のような三つの改善策を講じることを勧める文書を発表しました。(1)アマゾン雨林以外の,貧困に見舞われている地域の経済問題や社会問題に取り組むこと。(2)伐採されていない森林を利用し,樹木がすでに伐採された地区を再利用すること。(3)人間の不幸と森林破壊の真の原因である重大な社会的不公正に対処すること。では,問題に取り組むためのこれら三つの改善策をもう少し詳しく考えてみましょう。
投資を行なうこと
社会経済的問題に取り組む。「森林伐採を減らすためのいっそう効果的な方法の選択肢の一つは,住民がより良い将来を夢見てアマゾン地方に移住せざるを得ない,アマゾン流域の国々の極貧地区に対して投資を行なうことである」,と同委員会は述べています。しかし委員たちは,「全国的あるいは地域的な開発計画の場合でも,またアマゾン地方の森林伐採の速度を激減させることを支持する工業国の人々によっても,この選択肢はめったに考慮されない」と付け加えています。とはいえ,政府の役人や関心のある外国政府が,土地の配分の仕方の不手際やアマゾン周辺の都市部の貧困といった問題を解決することに専門技術や財政上の援助を振り向けるならば,アマゾン地方を目指す農民の流入速度を落とし,森林を救う助けになる,と当局者は説明しています。
しかし,アマゾン地方ですでに生活している,わずかな土地しか持っていない農民に対しては何が行なえるでしょうか。農民のその日暮らしの生活は,農業に適さない土壌で作物を栽培することにかかっているのです。
樹木のための森林
森林を利用し,再利用する。「熱帯雨林は開発され過ぎているが,あまり利用されていない。熱帯雨林を救えるかどうかは,この矛盾をどう解決するかにかかっている」と,国連の「消滅する森林」という出版物は述べています。人間は樹木を伐採して森林を開発する代わりに,果実,堅果,油,ゴム,エキス,薬用植物その他の自然の産物を採取したり,収穫したりして森林を利用すべきである,と専門家たちは言っています。そうした産物の価値は「森林の経済的価値の90%を占めるものと推定される」と言われます。
ニューヨーク植物園のダッグ・デイリーは,森林破壊から森林の産物採取へ方向転換を図ることが道理にかなっていると考えられる理由をこう説明しています。「それは政府にとって慰めになる。つまり,アマゾン流域の大部分が商業界から締め出されることはないのである。……そのような転換を図れば,人々は生き続け,働き続けることのできる生活が可能になり,森林は保護される。このことに対する反論を見いだすのは非常に難しい」―「野生生物の保護」。
樹木を利用するために森林をそのままにしておけば,実際,森林に住んでいる人々の生活は向上します。例えば,ブラジル北部にあるベレン市の研究者たちの計算によれば,1㌶の森林を牧草地に変えても年間25㌦(約2,750円)の収益しか得られません。ですから,ブラジル人男性の1か月分の最低賃金を得るためでさえ,48㌶の牧草地と16頭の家畜が必要です。しかしベジャ誌は,牧場主志望者が森林の自然の産物を採取すれば,それよりずっと多くのお金が得られるはずだ,と述べています。また,生物学者チャールズ・クレメントは,採取を待っている産物の種類や量は驚くほど多いと述べ,「人間は何十種類もの野菜や何百種類もの果実,樹脂や油脂を管理し,収穫できます。しかし問題は,森林が富を得ることの妨げになるのではなく,富の源であることを悟らねばならないということです」と付け加えました。
荒れ果てた土地の再生利用
ブラジル人の研究者ジョアウン・フェラスは,経済発展と環境保護の釣り合いを保つことは可能であると指摘し,こう述べました。「すでにどれほどの森林が破壊されたかを考えてみてください。原始林をこれ以上伐採する必要はありません。むしろわたしたちは,すでに樹木が伐採されて荒廃した地域を再生させて再利用することができます」。しかもアマゾン地方には,再生させるべき荒廃した土地がたくさんあるのです。
1960年代の末から,政府は森林を牧草地に変えることを有力な投資家に勧めるため,巨額の補助金を交付するようになりました。投資家たちはそのようにしましたが,フェラス博士の説明によれば,「牧草地は6年後に荒廃しました。その後,みんなが大変な間違いを犯したことに気づいた時,大地主たちは,『構いません。わたしたちは政府から十分な額のお金をもらいましたから』と言って去ってしまいました」。その結果,どうなったでしょうか。「見捨てられた牧草地のうち8万平方マイル[約20万平方㌔]ほどの土地が不毛の地と化しています」。
しかし今,フェラスのような研究者たちは,そのような荒廃した土地の新たな使用方法を見いだしています。どんな方法でしょうか。研究者たちは何年か前に,見捨てられた牛の飼育場にブラジルナッツノキの苗木を32万本植えました。現在,それらの木は実を結んでいます。その木は生長が速い上に,貴重な木材となるので,今ではアマゾン盆地の様々な場所の,樹木が伐採された土地にブラジルナッツノキの苗木が植えられています。産物を採取し,多年生作物の栽培の仕方を農民に教え,森林を傷めずに木材を切り出す方法を取り入れ,荒廃した土地を回復させるのは,専門家の考えでは,森林の存続に貢献し得る賢明な代案です。―「自然保護のために働く」という囲み記事をご覧ください。
とはいえ,役人たちによれば,森林を救うには荒廃した土地を変える以上のことが必要です。人間の性質を変革する必要があるのです。
曲がっているものをまっすぐにする方法
不公正に対処する。他の人の権利を侵害する人間の不当な行為の原因は大抵,貪欲です。しかも,古代の哲学者セネカが述べたように,「貪欲を満たすには自然のすべてをもってしても足りない」のです。その自然には広大なアマゾン雨林も含まれています。
アマゾン地方で苦闘する貧しい農民とは対照的に,企業経営者や広大な土地の所有者たちは森林を丸裸にして自分たちの資産を増やしています。また,当局者の指摘によると,アマゾン地方で使われるチェーンソーの供給に大いに力を貸した西洋諸国も同様に責めを負うべきです。ドイツ人の研究者のある団体は結論として,「現在すでに生じている環境破壊はおおむね裕福な工業国がもたらしたものである」と述べています。アマゾン流域開発環境委員会によれば,アマゾン地方を保護するために必要なのは,ほかならぬ「地球的な規模の新たな倫理観,つまり人間の連帯感と公正に立脚した,進んだ開発方法を生み出す倫理観」なのです。
しかし,アマゾン地方で今なお生じている煙雲は,環境に深い関心を示す男女が世界中で努力しているにもかかわらず,賢明な考えを実現させることは,煙をつかむように難しいということを思い起こさせます。それはどうしてでしょうか。
貪欲のような悪徳は,アマゾン地方の森林の土壌に根づいている樹木よりもずっと深く人間社会の組織に根を下ろしています。わたしたちは森林保護に貢献できることを個人的に行なうべきですが,森林破壊をもたらしている,複雑に入り組んだ根深い原因を人間が排除できると考えるのは,それがどれほど誠実な人間であるにせよ,現実的なことではありません。人間の性質を観察した古代の賢王ソロモンが3,000年ほど前に述べたことは依然として真実です。人間の努力だけでは,「曲がっているものは,まっすぐにすることはでき(ません)」。(伝道の書 1:15)これに似たポルトガル語のことわざに,「元々曲がっている木は,曲がったまま枯れる」という言葉があります。とはいえ,世界各地の熱帯雨林には未来があります。それはどうしてでしょうか。
将来,期待できる啓発
100年ほど前に,アマゾン地方の野生生物の豊富さに深い感銘を受けたブラジル人の作家アウクレデス・ダ・クーニャは,その森林のことを「創世記と同時代の,創世記の未刊行のページ」と評しました。しかも人間はその“ページ”を汚したり引き裂いたりするのに余念がなかったとはいえ,存続しているアマゾン地方は依然として,「神話を抜きにしたアマゾン流域」という報告が述べる通り,「創造当時の地球への郷愁を誘うシンボル」です。しかし,そういう状態はあといつまで続くでしょうか。
次の点を考えてみてください。アマゾン雨林や世界の他の降雨林は,ダ・クーニャの言う「非凡な知性」を示す証拠です。森林の樹木は根から葉に至るまで,傑出した設計者の作品であることを明らかにしています。そういう事情からすれば,この偉大な設計者は貪欲な人間が降雨林を一掃して地球を破滅させるのを許されるでしょうか。聖書の預言はこの疑問に対して,決してそうはされないという明確な答えを示しています。聖書にはこう記されています。「諸国民は憤り,あなた[神]ご自身の憤りも到来しました。……地を破滅させている者たちを破滅に至らせる定められた時が到来しました」― 啓示 11:18。
しかしこの預言は,創造者が貪欲な人々を除き去ることによって問題の根本に触れることだけでなく,わたしたちの時代のうちにそうされることをも示しているという点に注目してください。どうしてそう言えるのでしょうか。実のところ,その預言によれば,神は人間が地を「破滅させて」いる時に行動を起こされるのです。2,000年ほど前にその言葉が書き記された時,人間はそうすることができるほどの人数に達していませんでしたし,そうする手段も持っていませんでした。しかし状況は変わりました。「熱帯雨林の保護 ― 国際的最優先事業」という本は,「今日,人類は史上初めて,個々の地区や地域だけでなく,地球的な規模で人類それ自体の生存のための基盤を破壊し得る立場に立っている」と述べています。
ですから,創造者が「地を破滅させている者たち」に対して行動を起こされる「定められた時」は迫っています。アマゾン雨林にも,危機に瀕している地上の他の環境にも未来があります。創造者は必ずそうなるように取り計らわれます。それは神話ではなく,現実なのです。
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解決策を探る目ざめよ! 1997 | 3月22日
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自然保護のために働く
アマゾン流域の中部のマナウス市にある原始林伐採地に生じた広さ約40万平方㍍の青々と茂る森林には,ブラジル国立アマゾン調査研究所,略称INPAの様々なオフィスがあります。生態学から林学,そして人間の健康に至るまで,あらゆる事柄を扱っている13の部門から成る,創設以来42年を経たこの研究所は,その地域最大の研究機関です。また,アマゾン地方の植物,魚類,爬虫類,両生類,哺乳類,鳥類,および昆虫類の世界最大のコレクションの一つもここにあります。同研究所の280人の研究者の仕事は,アマゾン地方の種々の生態系の複雑な相互作用に関する人間の理解を深めることに寄与しています。この研究所を訪れる見学者は,楽観的な気持ちを抱いて帰って行きます。官僚主義的,また政治的な制約があるにもかかわらず,ブラジル人と外国人の科学者たちは,アマゾン地方という,世界に冠たる熱帯雨林を保護する仕事に本気になって取り組んでいます。
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