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私たちの“設計図”はどこから来たのか生命の起源 5つの大切な質問
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核の外壁,つまり核膜にあるドアを通って中に入ると,その空間は46本の染色体でいっぱいです。基本的に同じものが対になっていて,高さはさまざまですが,一番近くにあるのは12階建ての建物ほどです(1)。各染色体は中央がくびれていて,つながったソーセージのようです。でも,太さは巨木の幹ぐらいあります。染色体には不規則にたくさんの横筋が入っています。近くに寄って見ると,それぞれの筋に縦線があり,縦線の間にはまた横線が入っています(2)。本が積まれているのでしょうか。そうではありません。らせん状にきつく巻かれた輪の外側がそのように見えるのです。1つの輪を引っ張ってみると,手前に出てきます。よく見るとその輪は,整然と並んだたくさんの小さなコイルでできています(3)。そのコイル状のものを構成しているのは,長いロープのようなものです。これが一番大事なもののようです。いったい何でしょうか。
DNA分子の驚異的な構造
染色体の模型のこの部分をロープと呼ぶことにしましょう。太さは2.5㌢ほどです。リールにきつく巻かれていて(4),それがさらにぐるぐると巻かれてコイルのようになっています。それらのコイルは足場のような物にくっついているので,あるべき場所に保たれます。そばにあるパネルの説明によると,このロープは非常に効率よく収納されているとのことです。染色体の模型全てからロープをほどいて伸ばすと,地球を半周するほどの長さになるのです。a
ある科学書は,効率の良いこの収納システムを「工学技術の偉業」と評価しています。18 では,この偉業にどんな技術者も関わっていない,と考えるのは筋の通ったことでしょうか。もしこの博物館の中に,何百万点もの商品をきれいに陳列した大きな店があり,欲しい物を簡単に見つけられるとしたら,そうした店がひとりでにできたと考えるでしょうか。もちろん,そうは考えないでしょう。では,そのような店よりはるかに収納効率が優れている細胞についてはどうでしょうか。
近くのパネルに,「ロープを手に取ってご覧ください」と書かれています。手のひらに載せて見てみると(5),これが普通のロープではないことに気付きます。2本のひもが,らせん状に絡み合っています。その2本のひもは,等間隔にある小さな棒でつながっています。ねじれたはしごのようになっていて,らせん階段に似ています(6)。これこそが,生命の神秘ともいうべきDNA分子です。
1つのDNA分子がリールや足場によってきれいにまとめられ,1本の染色体になっていたわけです。はしごの横木は,塩基対(7)と呼ばれています。それにはどんな役目があるのでしょうか。全体としてどんな働きをしているのでしょうか。パネルに簡単な説明があります。見てみましょう。
究極の情報記憶システム
パネルによれば,DNAを理解する鍵は,はしごの横木にあります。はしごを縦に割ったとしましょう。はしごの縦木それぞれから横木の半分が突き出ています。横木の部品は4種類しかなく,科学者たちはそれを,A,T,G,Cと呼んでいます。それら4つの“文字”がさまざまな配列で並び,暗号化された情報になっています。
19世紀に発明されたモールス符号をご存じかもしれません。モールス符号は,電信などによるやりとりで使用されます。モールス符号で使う“文字”は,点(・)と線(–)の2つだけです。それでも,無数の単語や文を作り出せます。一方,DNAの暗号に使われているのは4文字です。A,T,G,Cの配列の違いによって,コドンと呼ばれるさまざまな“単語”が作られます。コドンが連なると,遺伝子という“文章”になります。遺伝子1つは,平均して2万7000文字から成っています。遺伝子部分とそうでない長い部分が交互につながって,染色体という“章”が出来上がります。そして23の染色体が,ゲノムという“本”,つまりヒトの全遺伝情報を形成します。b
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