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メシアが現われる聖書 ― どんなメッセージを伝えていますか
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セクション16
メシアが現われる
エホバはナザレのイエスが遠い昔に約束されたメシアであることを明らかにする
エホバは,人々が約束のメシアを見分けられるようにするでしょうか。確かにそうします。神が何を行なったか考えてみましょう。ヘブライ語聖書が書き終えられてから400年ほどたった時のことです。ガリラヤ地方の北部のナザレという都市で,マリアという若い女性が,思いも寄らない訪問を受けます。ガブリエルという名のみ使いが現われ,マリアにあることを告げました。神がご自分の活動力である聖霊を用いて,処女のマリアに男の子を産ませるというのです。その子は待望の王,永久に統治を行なう者となります。それは神のみ子であり,神がその命を天からマリアの胎内へと移すのです。
マリアは,その畏怖の念を起こさせるような割り当てを謙虚に受け入れました。婚約者である大工のヨセフは,神から遣わされたみ使いの説明を受け,マリアが妊娠した理由を得心し,マリアと結婚します。しかし,メシアがベツレヘムで生まれるという預言はどうなるのでしょうか。(ミカ 5:2)その小さな町は,ナザレからおよそ140㌔も離れていました。
ローマ人の支配者が人口調査を命じ,人々は郷里で登録を行なうよう求められます。ヨセフとマリアは二人ともベツレヘムの出身だったようで,ヨセフは身重の妻をその町へ連れて行きます。(ルカ 2:3)マリアは粗末な家畜小屋で出産し,飼い葉おけの中に赤ちゃんを横たえます。神は程近い丘の中腹にいた羊飼いたちに大勢のみ使いを遣わし,たった今生まれた子どもが約束のメシアつまりキリストであることを伝えます。
後に,他の人たちもイエスが約束のメシアであることを証言します。預言者イザヤは,ある人物が現われてメシアの重要な業のための道を備えるということを予告していました。(イザヤ 40:3)その前駆者とは,バプテストのヨハネです。ヨハネはイエスを見ると,「見なさい,世の罪を取り去る,神の子羊です!」と叫びます。ヨハネの弟子の幾人かは直ちにイエスのあとに付いて行き,そのうちの一人は「わたしたちはメシアを見つけた」と言います。―ヨハネ 1:29,36,41。
証はそれだけにとどまりませんでした。ヨハネがイエスにバプテスマを施すと,天からエホバご自身の声が聞こえます。エホバは聖霊によってイエスをメシアとして任命し,こう言いました。「これはわたしの子,わたしの愛する者である。この者をわたしは是認した」。(マタイ 3:16,17)ついに待望のメシアが現われたのです。
これはいつのことでしょうか。西暦29年,ダニエルの予告した483年間がまさに終わった時でした。この事実は,イエスがメシアつまりキリストであることを示す圧倒的な証拠の一つです。では,イエスは地上にいる間,どんな音信をふれ告げるのでしょうか。
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イエスは神の王国について教える聖書 ― どんなメッセージを伝えていますか
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セクション17
イエスは神の王国について教える
イエスは弟子たちに多くのことを教えるが,主要なテーマは神の王国だった
イエスは地上でどんな使命を果たすのでしょうか。イエス自身こう述べています。『わたしは神の王国の良いたよりを宣明しなければなりません。そのために遣わされたからです』。(ルカ 4:43)イエスがご自分の宣教の主題だった王国について教えた四つの点を考えましょう。
1. イエスは指名された王。イエスは,ご自分が予告されていたメシアであるとはっきり述べました。(ヨハネ 4:25,26)加えて,預言者ダニエルが幻の中で見た王であることも示しました。イエスは使徒たちに,ご自分がやがて「栄光の座」に座ること,また使徒たちも座に座ることを告げました。(マタイ 19:28)そして使徒たちを含む支配者の一団を「小さな群れ」と呼び,そのグループに属さない「ほかの羊」がいることも説明しました。―ルカ 12:32。ヨハネ 10:16。
2. 神の王国は真の公正を促進する。イエスは,王国によって最大の不公正が除かれることを示しました。王国はエホバ神のみ名を神聖なものとし,サタンがエデンでの反逆以来み名に浴びせてきた非難をすべてぬぐい去るのです。(マタイ 6:9,10)イエスはさらに,男性も女性も,富んだ人も貧しい人も分け隔てなく教えることにより,常に公平さを表わしました。イエスの使命は主にイスラエル人を教えることでしたが,サマリア人や異邦人にも助けを差し伸べました。当時の宗教指導者たちとは違い,人々を偏り見たり,えこひいきしたりすることはありませんでした。
3. 神の王国は世のものではない。イエスは政治的に不穏な時代に生活していました。生まれ育った国が外国に支配されていたのです。しかし,人々がイエスを当時の政治問題にかかわらせようとした時,イエスは退きました。(ヨハネ 6:14,15)そしてある政治家に対し,「わたしの王国はこの世のものではありません」と言いました。(ヨハネ 18:36)また追随者たちにも,『あなた方は世のものではありません』と告げました。(ヨハネ 15:19)たとえイエスを守るためであっても,追随者たちが武器を使うことをイエスは許しませんでした。―マタイ 26:51,52。
「イエスは……村から村へと旅をされ,神の王国の良いたよりを宣べ伝えまた宣明された」。―ルカ 8:1
4. キリストの支配は愛に基づく。イエスは,人々の重荷を軽くし,人々をさわやかにすることを約束しました。(マタイ 11:28-30)そして,その言葉どおりにしました。人々が思い煩いに対処し,人間関係を改善し,物質主義と闘い,幸福を見いだせるよう,愛のこもった実際的な助言を与えました。(マタイ 5-7章)イエスは愛を示したゆえに,あらゆる階層の人々にとって近づきやすい人でした。最も立場の低い人たちでさえ,大勢イエスのもとにやって来ました。イエスが自分たちを親切に扱い,尊厳を重んじてくれることを確信していたのです。イエスが素晴らしい支配者になることは間違いありません。
イエスはさらに,別の非常に強力な方法によって神の王国について教えました。多くの奇跡を行なったのです。なぜそうしたのかを見てみましょう。
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イエスは奇跡を行なう聖書 ― どんなメッセージを伝えていますか
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セクション18
イエスは奇跡を行なう
イエスは奇跡により,王として将来どのようにご自分の力を行使するかを示す
神はイエスに,他の人間には不可能なことを行なう力を与えました。イエスは,しばしば大勢の人の前で,非常に多くの奇跡を行ないました。それらの奇跡は,不完全な人間には決して排除できない敵や障害物に対してイエスが力を有していることを示しました。幾つか例を考えてみましょう。
飢えや渇き。イエスの最初の奇跡は,水をぶどう酒に変えるというものでした。後にイエスは二度にわたり,少しのパンと魚だけで,おなかを空かせた何千人もの人々に食事をさせました。どちらの場合にも,人々が食べ切れないほどの量の食物が提供されました。
病気。イエスは「あらゆる疾患とあらゆる病」に苦しむ人々を治しました。(マタイ 4:23)例えば,視覚や聴覚の障害,重い皮膚病,てんかん,手足の障害などをいやしました。イエスに治せない病気はありませんでした。
危険な気象現象。ある時イエスと弟子たちが舟でガリラヤの海を渡っていると,猛烈な風あらしが起こりました。弟子たちは恐怖に襲われますが,イエスはただあらしに向かって「静まれ! 静かになれ!」と言います。すると,大なぎになりました。(マルコ 4:37-39)別の時に,イエスは激しいあらしの中で水の上を歩きました。―マタイ 14:24-33。
邪悪な霊者。邪悪な霊者たちは人間よりはるかに強力です。神に敵対する凶暴な霊者の束縛から逃れられなかった人は少なくありません。しかし,イエスは何度もそうした霊を人々から追い出し,霊の影響力から人々を自由にしました。イエスは邪悪な霊者を恐れませんでした。一方,それらの霊者たちはイエスの権威を知っており,イエスを恐れました。
死。死はいみじくも「最後の敵」と呼ばれており,それに打ち勝つことのできる人間はいません。(コリント第一 15:26)しかし,イエスは死者を復活させました。例えば,あるやもめの若い息子や,悲嘆に暮れる夫婦の幼い娘を生き返らせました。別の際立った例として,イエスは死んでから4日近くもたっていた親しい友ラザロを,嘆き悲しむ群衆の前で復活させました。イエスに最も激しく敵対していた人たちでさえ,イエスがその奇跡を行なったことを認めました。―ヨハネ 11:38-48; 12:9-11。
イエスはなぜこれらの奇跡を行なったのでしょうか。イエスが助けた人々は皆,結局のところ死んだのではないでしょうか。確かにそうですが,イエスの奇跡は永続する益をもたらしました。メシアなる王の支配に関する胸の躍るような数々の預言に明確な根拠があることを証明したのです。神に任命された王は,飢えや渇き,病気,危険な気象現象,邪悪な霊者,また死さえも除き去ることができます。そのことに疑問の余地はありません。神からそのような力を与えられていることをすでに実証したからです。
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イエスは全世界にかかわる預言を述べる聖書 ― どんなメッセージを伝えていますか
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セクション19
イエスは全世界にかかわる預言を述べる
イエスはご自分の王としての臨在と事物の体制の終結をしるしづける事柄について述べる
眼下にエルサレムと神殿の見事な景観が広がるオリーブ山で,使徒たちのうちの4人が,イエスの語った事柄について質問をしました。イエスは少し前に,エルサレムの神殿が滅ぼされることを述べていました。もっと前には,「事物の体制の終結」について話していました。(マタイ 13:40,49)それで使徒たちは,「あなたの臨在と事物の体制の終結のしるしには何がありますか」と尋ねます。―マタイ 24:3。
イエスは答えとして,エルサレムの滅びに先立って何が起きるかを話します。しかし,イエスの言葉は遠い将来にも関係していました。その預言は後に,全世界にかかわる大規模な成就を見ることになるのです。イエスは,幾つかの出来事や世界情勢が組み合わさって一つのしるしとなることを預言しました。そのしるしは,天の王としてのイエスの臨在が始まったことを地上の人々に示します。つまり,エホバ神がイエスを待望のメシア王国の王としたことを示します。そのしるしが現われることは,王国が間もなく悪を取り除いて人類に真の平和をもたらすことを意味します。したがって,イエスが予告した事柄は,古い事物の体制 ― 現存する宗教的,政治的,社会的な体制 ― の終わりと,新しい体制の始まりをしるしづけるものとなります。
イエスは天の王としてのご自分の臨在期間中に地上で何が生じるかを説明しました。国際的な戦争,食糧不足,大地震が起き,病気が蔓延し,不法が増します。イエスの真の弟子たちは,神の王国の良いたよりを全世界で宣べ伝えます。これらの事柄は,これまでに起きたことがないような「大患難」において頂点に達します。―マタイ 24:21。
イエスの追随者たちは,その患難が近いことをどのように知るのでしょうか。イエスは「いちじくの木から……学びなさい」と言いました。(マタイ 24:32)いちじくの枝に葉がつくことは,夏が近いことを示す顕著なしるしです。同様に,イエスが予告した事柄がすべて一つの期間に生じることは,終わりが近いことの明確なしるしとなります。イエスは,大患難が始まる正確な日と時刻を知っているのは父だけであると言いました。それゆえ弟子たちにこう勧めています。「ずっと見ていて,目を覚ましていなさい。あなた方は,定められた時がいつかを知らないからです」。―マルコ 13:33。
― マタイ 24章と25章,マルコ 13章,ルカ 21章に基づく。
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イエス・キリストは処刑される聖書 ― どんなメッセージを伝えていますか
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セクション20
イエス・キリストは処刑される
イエスは新しい式を制定する。その後,裏切られて杭につけられる
宣べ伝えて教える業を3年半行なったイエスは,地上で過ごす期間が終わりに近づいていることを知っていました。ユダヤ人の宗教指導者たちはイエスを殺そうとたくらんでいましたが,イエスを預言者とみなしていた民の間で騒動が起きるのではないかと恐れていました。サタンは,イエスの12使徒の一人ユダ・イスカリオテが裏切り者になるよう仕向けます。宗教指導者たちは,イエスを裏切る見返りとしてユダに銀30枚を与えることを約束します。
イエスは最後の晩に,使徒たちと過ぎ越しを祝います。そしてユダを去らせた後,新しい式 ― 主の晩さん ― を制定します。イエスはパンを取り,祈りをささげてから11人の使徒たちに回し,こう言いました。「これは,あなた方のために与えられるわたしの体を表わしています。わたしの記念としてこれを行ないつづけなさい」。さらに,ぶどう酒についても同じようにし,「この杯は,わたしの血による新しい契約を表わしています」と言いました。―ルカ 22:19,20。
その晩,イエスは使徒たちに多くのことを話しました。無私の愛を示し合うようにという新しいおきてを与え,こう言いました。「あなた方の間に愛があれば,それによってすべての人は,あなた方がわたしの弟子であることを知るのです」。(ヨハネ 13:34,35)イエスはこれから起ころうとしている痛ましい出来事のゆえに動揺しないよう励ましを与え,使徒たちのために真剣に祈ります。それから皆で賛美を歌い,外に出ます。
夜のゲッセマネの園で,イエスはひざまずいて心からの祈りをささげます。間もなく,兵士や祭司たちを含む,武器を持った群衆が,イエスを捕縛するためにやって来ます。ユダはだれがイエスであるかを示すために,イエスに近寄って口づけをします。兵士たちがイエスを捕らえると,使徒たちは逃げて行きます。
ユダヤ人の高等法廷の前に立ったイエスは,自分は神の子であると言います。法廷はイエスが冒とくの罪をおかしたとし,死に値するとみなします。それからイエスはローマ人総督ポンテオ・ピラトの所へ連れて行かれます。ピラトはイエスには何の罪もないと考えますが,処刑を叫び求める群衆にイエスを引き渡します。
イエスはゴルゴタへ引いて行かれ,ローマ兵によって杭に釘づけにされます。白昼にもかかわらず,奇跡により闇が垂れ込めます。その日の後刻にイエスは死に,大きな地震が起こります。イエスの体は,岩をくりぬいた墓に横たえられました。翌日,祭司たちは墓を封印し,入口を警備させます。イエスは墓に入れられたままにされるのでしょうか。そうではありません。間もなく最大の奇跡が起ころうとしていたのです。
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イエスは生きている!聖書 ― どんなメッセージを伝えていますか
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セクション21
イエスは生きている!
イエスは追随者たちに現われ,彼らを教えて励ます
イエスが死んでから三日目に,弟子だった女性たちが,墓の入口をふさいでいた石が転がしのけてあるのを見つけました。なんと墓は空だったのです。
二人のみ使いが現われ,一人がこう言います。「あなた方は,……ナザレ人のイエスを捜しています。彼はよみがえらされました」。(マルコ 16:6)女性たちは直ちに使徒たちに知らせるために走って行きます。すると,途中でイエスに出会いました。イエスはこう言います。「恐れることはありません! 行って,わたしの兄弟たちに報告し,彼らがガリラヤに行くようにしなさい。彼らはそこでわたしを見るでしょう」。―マタイ 28:10。
その日の後刻,二人の弟子が,エルサレムからエマオという村に向かって歩いていました。そこへ見知らぬ旅人が加わり,何を話しているのかと尋ねます。実のところそれは復活したイエスでしたが,違う様で現われたため,弟子たちは気づきませんでした。彼らは悲しげな顔で,イエスについて話していたと答えます。すると旅人は,聖書全巻にある,メシアに関連した事柄を説明し始めます。実際イエスは,メシアに関する預言を詳細な点に至るまで成就したのです。a その見知らぬ人がイエスであることに弟子たちが気づいた時,霊者として復活させられたイエスは姿を消します。
二人の弟子はすぐさまエルサレムに引き返します。使徒たちは戸に錠をかけた部屋で集まっていました。二人が自分たちの経験した事柄を話していると,イエスが現われます。追随者たちは驚き,なかなか信じることができません。イエスはこう言います。『あなた方の心に疑いが起きるのはどうしてですか。このように書いてあります。すなわち,キリストは苦しみを受け,三日目に死人の中からよみがえります』。―ルカ 24:38,46。
イエスは復活してから40日にわたり,幾度も弟子たちに現われました。500人以上に現われたこともあります。おそらくその時に,イエスは弟子たちに次の重要な割り当てを与えました。「行って,すべての国の人々を弟子とし,……わたしがあなた方に命令した事柄すべてを守り行なうように教えなさい。そして,見よ,わたしは事物の体制の終結の時までいつの日もあなた方と共にいるのです」。―マタイ 28:19,20。
11人の忠実な使徒たちと最後に会った際,イエスはこう約束しました。「聖霊があなた方の上に到来するときにあなた方は力を受け,……地の最も遠い所にまで,わたしの証人となるでしょう」。(使徒 1:8)それからイエスは天へ昇ってゆき,雲に隠れて見えなくなります。
a イエスに成就した,メシアに関する預言の幾つかについては,この冊子のセクション14,セクション15,セクション16また「聖書は実際に何を教えていますか」という本の付録「イエス・キリスト ― 約束のメシア」をご覧ください。
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使徒たちは勇敢に宣べ伝える聖書 ― どんなメッセージを伝えていますか
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セクション22
使徒たちは勇敢に宣べ伝える
迫害にもかかわらず,クリスチャン会衆は急速に発展する
イエスの昇天の10日後,エルサレムのある家に120人ほどの弟子たちが集まっていました。時は西暦33年,ユダヤ人のペンテコステの祭りの最中です。突然,激しい風の吹きつけるような物音が家を満たし,弟子たちは奇跡的に自分たちの知らない言語で話し始めます。なぜこのような不思議なことが起きたのでしょうか。神がそれらの弟子たちに聖霊を与えたのです。
家の外には群衆がいました。祭りのために多くの国から人々が訪れていたからです。人々は,自分たちの言語をイエスの弟子たちが流ちょうに話しているのを聞き,非常に驚きます。ペテロは何が起きたかを説明し,神がご自分の霊を「注ぎ出す」という預言者ヨエルの預言に言及して,霊を注がれた人たちに奇跡的な賜物が与えられることになっていたと話します。(ヨエル 2:28,29)聖霊が注がれたことを示すこの強力な証拠は,重要な変化が生じたことを明らかにしました。神の恵みがイスラエルから,新たに設立されたクリスチャン会衆へと移ったのです。受け入れられる仕方で神に仕えたいと願う人は,キリストの追随者になることが必要になりました。
反対が強まった結果,弟子たちは敵対する人々によって獄に入れられてしまいます。しかし,夜中にエホバのみ使いが獄の戸を開き,宣べ伝え続けるようにと告げます。夜明けに,弟子たちはまさにそのとおりにします。神殿に入ってイエスについての良いたよりを教え始めたのです。反対者たちは激怒し,宣べ伝えるのをやめるよう命じますが,使徒たちはひるまずこう答えます。「わたしたちは,自分たちの支配者として人間より神に従わねばなりません」。―使徒 5:28,29。
迫害は激しさを増します。あるユダヤ人たちは,イエスの弟子ステファノを冒とくのかどで告発し,石打ちにして殺しました。タルソスのサウロという若者が,その殺害をよしとして見守っていました。それからサウロは,だれでもキリストに従う者を捕らえるためにダマスカスへ向かいます。その道中で,天からの光が彼のまわりにぱっと光り,「サウロ,サウロ,なぜあなたはわたしを迫害しているのか」という声が聞こえます。光で目が見えなくなったサウロが「あなたはどなたですか」と尋ねると,その声は『わたしはイエスです』と答えます。―使徒 9:3-5。
3日後,イエスはサウロの視力を回復させるためにアナニアという弟子を遣わします。サウロはバプテスマを受け,イエスについて大胆に宣べ伝え始めます。サウロは使徒パウロとして知られるようになり,クリスチャン会衆の熱心な一員になりました。
イエスの弟子たちは,神の王国の良いたよりをユダヤ人とサマリア人にのみ宣明していました。ある時,神を恐れるローマ人の士官コルネリオにみ使いが現われ,使徒ペテロを呼ぶよう告げます。ペテロは幾人かと一緒に訪れ,コルネリオとその親族に宣べ伝えます。ペテロが話していると,それらの異邦人の上に聖霊が下り,ペテロは彼らがイエスの名においてバプテスマを受けられるようにします。こうして,永遠の命に至る道があらゆる国の人々に開かれました。会衆は,良いたよりを遠く広く伝えるための態勢を整えました。
― 使徒 1:1–11:21に基づく。
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良いたよりが広まる聖書 ― どんなメッセージを伝えていますか
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セクション23
良いたよりが広まる
パウロは陸路や海路を使って伝道旅行をする
パウロは転向した後,神の王国に関する良いたよりを熱心に宣明しました。今度は,かつて反対者だったパウロ自身が激しい反対を受けるようになります。この精力的な使徒は何度か伝道旅行を行ない,人間に対する神の当初の目的を成し遂げる王国についての良いたよりを遠く広く伝えました。
最初の伝道旅行の際,パウロはルステラで,生まれつき足のなえていた人をいやします。すると群衆は大声で,パウロと旅仲間のバルナバのことを神々だと言い始めます。二人はやっとのことで,自分たちに犠牲をささげようとする人々をとどめます。しかし,この同じ群衆はパウロに敵対する人々の影響を受け,後にパウロを石打ちにし,死んだものとして放置しました。パウロはその襲撃を生き延び,やがてルステラに戻り,励みとなる言葉を語って弟子たちを強めます。
ユダヤ人のクリスチャンの中には,非ユダヤ人の信者もモーセの律法の特定の部分に従うべきだと言う人たちがいました。パウロはその問題を,エルサレムにいる使徒や年長者たちに提出します。それらの男子は聖書を注意深く調べ,神の聖霊の導きのもと,諸会衆に手紙を書きました。そして,偶像礼拝や,血および血抜きをしていない肉を食べること,また淫行を避けるようにとの訓戒を与えます。この指示に従うことは「必要な事柄」でしたが,そのためにモーセの律法を守る必要はありませんでした。―使徒 15:28,29。
パウロは2回目の伝道旅行でベレアを訪れます。現代のギリシャの領土内にある都市です。そこに住むユダヤ人たちは意欲的にみ言葉を受け入れ,パウロの教えを確かめるために日ごとに聖書を調べました。再び反対が起こり,移動することを余儀なくされたパウロは,次にアテネへ行き,学識のあるアテネ人たちの前で力強い話を行ないます。その話は,巧みさ,識別力,雄弁さの点で良い手本となっています。
3回目の伝道旅行の後,パウロはエルサレムに行きました。神殿に入ると,あるユダヤ人たちが暴徒と化してパウロを殺そうとしますが,ローマ兵が介入し,パウロを尋問します。パウロはローマ市民として,その後ローマ人の総督フェリクスの前で弁明を行ないます。ユダヤ人たちはパウロに対する告発の根拠を何も提出できませんでした。パウロは別のローマ人総督フェストによってユダヤ人の手に渡されないよう,「わたしはカエサルに上訴します!」と言います。フェストは,「カエサルのもとにあなたを行かせよう」と答えます。―使徒 25:11,12。
パウロは裁判のために船でイタリアへ連れて行かれます。しかし,旅の途中で難船を経験し,マルタ島で冬を過ごすことになります。ようやくローマに到着したパウロは,借りた家で2年間暮らしました。兵士の監視のもとにありましたが,変わらず熱心なこの使徒は,訪ねてくるすべての人に神の王国について宣べ伝え続けました。
― 使徒 11:22–28:31に基づく。
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パウロは諸会衆に手紙を書く聖書 ― どんなメッセージを伝えていますか
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セクション24
パウロは諸会衆に手紙を書く
パウロの手紙はクリスチャンの組織を強める
新たに設立されたクリスチャン会衆は,エホバの目的の遂行において重要な役割を果たすことになります。しかし,1世紀のクリスチャンたちはすぐに困難な状況に陥りました。彼らは,外部からの迫害や,内部で生じる難しい問題に面しても,神への忠誠を保つでしょうか。クリスチャン・ギリシャ語聖書には,必要とされていた助言や励ましを与える21通の手紙が収められています。
そのうちの14通 ― ローマ人への手紙からヘブライ人への手紙まで ― は,使徒パウロによって書かれました。それらの手紙の名称は,それぞれの宛て先にちなんで付けられています。個人に宛てられたものもあれば,特定の会衆に宛てられたものもあります。パウロが手紙の中で取り上げている事柄を幾つか考えてみましょう。
道徳や行状に関する訓戒。淫行,姦淫,その他の重大な罪を習わしにする人が,「神の王国を受け継ぐことはありません」。(ガラテア 5:19-21。コリント第一 6:9-11)神を崇拝する人たちは,国籍にかかわりなく一致していなければなりません。(ローマ 2:11。エフェソス 4:1-6)困っている仲間を助けるために,快く自分を与えるべきです。(コリント第二 9:7)パウロは,「絶えず祈りなさい」と述べています。崇拝者たちは,祈りのうちにエホバに心情を吐露するよう勧められています。(テサロニケ第一 5:17。テサロニケ第二 3:1。フィリピ 4:6,7)神に祈りを聞いていただくには,信仰を持って祈らなければなりません。―ヘブライ 11:6。
家族が幸福であるために,どんなことが役に立つでしょうか。夫は自分の体のように妻を愛し,妻は夫に深い敬意を払うべきです。子どもは親に従わなければなりません。それは神に喜ばれることだからです。親は聖書の原則に基づき,愛情をこめて子どもを教え導く必要があります。―エフェソス 5:22–6:4。コロサイ 3:18-21。
神の目的に関する啓発。モーセの律法の多くの面は,キリストが到来するまでイスラエル人を保護し,導くものとなりました。(ガラテア 3:24)しかしクリスチャンは,神を崇拝するためにその律法を守る必要はありません。パウロは,ヘブライ人 ― ユダヤ教の背景を持つクリスチャン ― への手紙の中で,律法の意味や,神の目的がどのようにキリストを通して果たされるかに関し,多くの啓発を与えました。そして,律法下の様々な取り決めに預言的な価値があったことを説明しています。例えば,動物の犠牲は,罪に対する真の許しをもたらすイエスの犠牲の死を予表していました。(ヘブライ 10:1-4)イエスの死により,神は必要のなくなった律法契約を取り消しました。―コロサイ 2:13-17。ヘブライ 8:13。
会衆の適正な組織に関する指示。会衆内で責任を担うことを願う男子は,高い道徳規準を持ち,霊的な資格にかなっていなければなりません。(テモテ第一 3:1-10,12,13。テトス 1:5-9)エホバ神を崇拝する人々は,定期的に集まって励まし合う必要があります。(ヘブライ 10:24,25)崇拝のための集会は,人々を築き上げ,十分に教える場であるべきです。―コリント第一 14:26,31。
パウロはテモテに2通目の手紙を書いた時,再びローマにいました。投獄され,裁きを待っていたのです。危険を冒してパウロを訪ねたのは,数名の勇敢な人たちだけでした。自分に残された時が短いことを悟っていたパウロは,「わたしは戦いをりっぱに戦い,走路を最後まで走り,信仰を守り通しました」と述べました。(テモテ第二 4:7)それから程なくして殉教したようです。しかし,同使徒の手紙は,今日においても神の真の崇拝者たちにとって導きとなっています。
― 以下の手紙に基づく。ローマ,コリント第一,コリント第二,ガラテア,エフェソス,フィリピ,コロサイ,テサロニケ第一,テサロニケ第二,テモテ第一,テモテ第二,テトス,フィレモン,ヘブライ。
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信仰,行状,愛に関する助言聖書 ― どんなメッセージを伝えていますか
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セクション25
信仰,行状,愛に関する助言
ヤコブ,ペテロ,ヨハネ,ユダは,仲間のクリスチャンを励ますために手紙を書く
ヤコブとユダはイエスの異父兄弟でした。ペテロとヨハネはイエスの12使徒に含まれていました。この4人は,クリスチャン・ギリシャ語聖書に収められている,合計7通の手紙を書きました。各々の手紙には,筆者の名前が付けられています。霊感のもとに記された訓戒は,エホバへの忠誠を保ち,神の王国に焦点を合わせるよう,クリスチャンを助けるためのものでした。
信仰を示す。信仰を持っていると言うだけでは十分ではありません。真の信仰は行動に表われます。『実際に,業のない信仰は死んだものなのです』と,ヤコブは書いています。(ヤコブ 2:26)試練に遭うとき,信仰のうちに行動するなら,忍耐が培われます。首尾よく試練に対処するには,神が知恵を与えてくださるという確信のもとにそれを祈り求める必要があります。忍耐すれば,神の是認を得られます。(ヤコブ 1:2-6,12)崇拝者が信仰のうちに忠誠を保つとき,エホバ神はそれにこたえられます。「神に近づきなさい。そうすれば,神はあなた方に近づいてくださいます」と,ヤコブが述べているとおりです。―ヤコブ 4:8。
クリスチャンの信仰は,誘惑や不道徳な影響力に抵抗できるほど強くなければなりません。ユダは,道徳的な腐敗がはびこっていることを懸念し,「信仰のために厳しい戦いをする」よう仲間のクリスチャンを促しました。―ユダ 3。
清い行状を保つ。エホバは,ご自分を崇拝する人々が聖なる者であること,つまりあらゆる面で清いことを期待しておられます。ペテロはこう書いています。「あなた方自身もすべての行状において聖なる者となりなさい。なぜなら,『あなた方は聖なる者でなければならない。わたし[エホバ]は聖なる者だからである』と書かれているからです」。(ペテロ第一 1:15,16)クリスチャンには見倣うべき模範があります。『キリストはあなた方のために苦しみを受け,あなた方がその歩みにしっかり付いて来るよう手本を残されました』と,ペテロは述べています。(ペテロ第一 2:21)クリスチャンは神の規準を守るゆえに苦しみに遭うとしても,「正しい良心」を保ちます。(ペテロ第一 3:16,17)ペテロは,神の裁きの日と『義が宿る』約束の新しい世とを待つ間,常に聖なる行状を示し,敬虔な専心を反映した行ないを心がけるよう勧めています。―ペテロ第二 3:11-13。
「神に近づきなさい。そうすれば,神はあなた方に近づいてくださいます」。―ヤコブ 4:8
愛を表わす。『神は愛です』とヨハネは書いています。神はイエスを『わたしたちの罪のための犠牲』として遣わすことにより,大きな愛を表わしてくださいました。クリスチャンはどのようにこたえ応じるべきでしょうか。ヨハネはこう述べています。「愛する者たちよ,神がわたしたちをこのように愛してくださったのであれば,わたしたちも互いに愛し合う務めがあります」。(ヨハネ第一 4:8-11)そのような愛を示す一つの方法は,仲間のクリスチャンを温かくもてなすことです。―ヨハネ第三 5-8。
では,エホバを崇拝する人々はその方への愛をどのように表わせるでしょうか。ヨハネはこう答えています。「そのおきてを守り行なうこと,これがすなわち神への愛だからです。それでも,そのおきては重荷ではありません」。(ヨハネ第一 5:3。ヨハネ第二 6)そのように神に従う人々は,引き続き神に愛していただけることを確信しつつ,『永遠の命を目ざす』ことができます。―ユダ 21。
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楽園が回復される!聖書 ― どんなメッセージを伝えていますか
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セクション26
楽園が回復される!
キリストの治める王国により,エホバはご自分のみ名を神聖なものとし,ご自分の主権を立証し,あらゆる悪を一掃する
「啓示」もしくは黙示録と呼ばれる,聖書の巻末の書は,全人類に希望を差し伸べています。使徒ヨハネが記したその書には一連の幻が収められており,それらはエホバの目的の成就をもって最高潮を迎えます。
最初の幻の中で,復活したイエスは幾つかの会衆を褒め,また正します。次の幻では,神の天のみ座の様子を見ることができます。み座の前では,霊の被造物が神を賛美しています。
神の目的は進展し,子羊イエス・キリストが七つの封印のある巻き物を受け取ります。最初の四つの封印が開かれると,象徴的な騎手たちが世界の舞台に勢いよく登場します。一人目は,白い馬に乗り,王冠を戴いたイエスです。続いて,それぞれ異なる色の馬に乗った騎手たちが現われます。それらは預言的に,戦争,飢きん,疫病を表わしており,そのすべてはこの事物の体制の終わりの日に生じます。第七の封印が開かれると,神の裁きの宣告を表わす象徴的な七つのラッパが吹き鳴らされます。その結果,神の怒りの表明である象徴的な七つの災厄がもたらされます。
生まれたばかりの男の子として描写されている神の王国が,天で設立されます。戦争が起こり,サタンとその邪悪な使いたちが地に投げ落とされます。大きな声が,『地にとっては災いである』と言います。悪魔は自分の時の短いことを知り,大きな怒りを抱いています。―啓示 12:12。
ヨハネは,子羊として表わされているイエスが天にいるのを見ます。人類から選ばれた14万4,000人も一緒にいます。それらの人々は,「[イエス]と共に王として支配する」ことになります。こうして「啓示」の書は,胤の副次的な成員が合計14万4,000人であることを明らかにしています。―啓示 14:1; 20:6。
地の支配者たちが,ハルマゲドンつまり「全能者なる神の大いなる日の戦争」に集められます。彼らは,白い馬に乗って天の軍勢を率いているイエスに対して戦いますが,すべて滅ぼされます。サタンは縛られ,イエスと14万4,000人は「千年」のあいだ地を治めます。千年が終わると,サタンは滅ぼされます。―啓示 16:14; 20:4。
キリストとその共同支配者たちによる千年統治は,従順な人々にどんな益をもたらすでしょうか。ヨハネはこう書いています。「[エホバ]は彼らの目からすべての涙をぬぐい去ってくださり,もはや死はなく,嘆きも叫びも苦痛ももはやない。以前のものは過ぎ去ったのである」。(啓示 21:4)地球は楽園になるのです。
この「啓示」の書をもって,聖書のメッセージは完結します。メシア王国により,エホバのみ名は神聖なものとされ,エホバの主権はとこしえにわたって完全に立証されるのです。
― 「啓示」の書に基づく。
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年表聖書 ― どんなメッセージを伝えていますか
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西暦前2年ごろ イエスの誕生
西暦29年 イエスはバプテスマを受け,神の王国について宣べ伝え始める
西暦31年 イエスは12使徒を選ぶ。山上の垂訓を語る
西暦32年 イエスはラザロを復活させる
西暦33年ニサン14日 イエスは杭につけられる(ニサンは3月から4月にかけての時期に相当する)
西暦33年ニサン16日 イエスは復活させられる
西暦33年シワン6日 ペンテコステ。聖霊が注がれる(シワンは5月から6月にかけての時期に相当する)
西暦36年 コルネリオがクリスチャンになる
西暦47-48年ごろ パウロの1回目の伝道旅行
西暦49-52年ごろ パウロの2回目の伝道旅行
西暦52-56年ごろ パウロの3回目の伝道旅行
西暦60-61年ごろ パウロはローマで投獄されている間に手紙を書く
西暦62年以前 イエスの異父兄弟ヤコブは手紙を書く
西暦66年 ユダヤ人はローマに対する反乱を起こす
西暦70年 エルサレムとその神殿がローマ人に滅ぼされる
西暦96年ごろ ヨハネは「啓示」の書を記す
西暦100年ごろ 最後の使徒であるヨハネの死
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