エスプレッソ ― これこそコーヒー
『コーヒーの味が香りほどよければ申し分ないんだが』。そう言ったことはありますか。では,“カフェ・エスプレッソ”を試してみるとよいかもしれません。鑑定士たちはそれを「究極のコーヒー」とか「コーヒーの最高峰」とか呼んできました。
エスプレッソの味はすでにご存じかもしれません。独特のコクと豊かな香味が忘れられない人もいるでしょう。逆に,『これはコーヒーと言えるような代物ではない。一番小さいカップで出されるのも不思議ではない。これほどきつくて渋い飲み物を,何口もすすれる人がいるだろうか。おまけに,カフェインの含有量も多くて健康によくない』と考えた人もいるかもしれません。
しかし,上手に入れたエスプレッソも渋いのでしょうか。また,1杯のエスプレッソには,普通のコーヒー1杯分よりも,多くのカフェインが含まれているのですか。皆さんはその答えを知って驚かれるかもしれません。
エスプレッソのエスプレッソたるゆえんは何か
エスプレッソはイタリアで生まれたものですが,様々な国や文化において,独特の入れ方が考え出されました。エスプレッソはどんな味がするのでしょうか。エスプレッソを愛飲する人たちはこのコーヒーを形容するのに,アロマがある,濃い,粘りけがある,なめらか,ほろ苦い,カラメルのように甘い,芳しい,などという語を用います。手抜かりなく上手に入れたエスプレッソの表面には,クレーマと呼ばれる黄褐色の泡の層ができます。これによって滑らかさが増し,アロマも幾らか保たれますが,この層を作り出すのは普通はなかなか難しいのです。
エスプレッソの量はシングルで30ないし40㍉㍑程度にすぎません。一般には,入れたての最高に新鮮なものを小型のカップに注ぎ,砂糖を添えて出します。
エスプレッソはどのように入れるのでしょうか。まずは豆を特定の割合で配合し,それを濃い暗褐色(黒色ではない)になるまで焙煎し,普通のコーヒーよりも細かく挽くことから始まります。とはいえ,エスプレッソのエスプレッソたるゆえんは,おもに炒り方や挽き方にあるのではなく,重力の代わりに圧力を用いる一種独特の入れ方にあります。シングル用の粉の量はドリップ式で入れる粉の約3分の2ですが,水はずっと少量です。この入れ方がコーヒー豆のエッセンスを引き出します。
多くのレストランやコーヒー店ではシングルかダブルを注文できますが,一つ注意したいことがあります。それは,ぞんざいな入れ方をしたエスプレッソは渋いということです。ですから,レストランかコーヒー店でエスプレッソを出されたら,調べてみましょう。カップにコーヒーがなみなみと注がれていたり,表面にクレーマの層がなかったりしたら,恐らくきつくて抽出しすぎたコーヒーが出されているのです。
エスプレッソと言えば,エスプレッソをベースにした飲み物も種類が豊富です。エスプレッソは濃すぎるとお感じなら,風味の良いカプチーノやクリーミーな味わいのカフェ・ラッテはいかがでしょう。
エスプレッソを家庭で入れるための器具
エスプレッソを自宅で入れたいとお考えですか。濃くて,淡く甘いコーヒーを間違いなく入れるためには,細かな点一つ一つに注意を払うことが肝心です。
どんなタイプのエスプレッソ・メーカーを購入したらよいでしょうか。ドリップ式だと,焙煎され,挽かれた豆を用いても,本当のエスプレッソはできません。これには特別な作りの器具が必要になります。
直火式は,大抵の場合,最も安く手に入ります。家庭で直火式を使って入れたエスプレッソは薄く,クレーマができにくいのですが,多くの人はこれで満足しています。下部ポットに入れる水の量が多過ぎないように注意するか,ふたを開けたままにし,半ばごろに器具を火からおろせば,上質のエスプレッソができます。
エレクトリック・スチーム・マシンは,蒸気の力で水分がコーヒー粉の中を通過するようになっている機械です。どうすれば最善の結果が得られるでしょうか。抽出のし過ぎを防ぎ,ミルクを泡立てる分の蒸気を残しておくために,最初の30ないし60㍉㍑を出した後は,コーヒーの流れを止めることです。ですから,スイッチか,コーヒーの流れを止める別の装置の付いた器具を探してください。この機械を使っても,直火式を使った場合と同じように,上等なカプチーノやカフェ・ラッテが作れますが,純粋な最高のエスプレッソを入れることはできません。
ピストン・マシンは一般に最も高価な器具で,最高級のエスプレッソを入れることができます。ピストン・マシンを操作するには,まず力を入れてレバーを押し下げます。すると,スプリングを内蔵したピストンが押し込まれて,コーヒー粉にお湯が通ります。ピストン・マシンを好む人がいるのは,手動式であることと,形に魅力があるからです。操作が難しい,なかなかお湯が沸かないと言う人もいます。
ポンプ・マシンも,十分な圧力をかけて最高級のエスプレッソを入れる器具です。このほうがピストン・マシンよりも簡単で,速くできます。ですから,最高のエスプレッソを望む人たちは大抵ポンプ・マシンを選びます。ポンプ・マシンにはそれぞれに異なる特色があり,他よりもかなり長持ちするものもあります。それで,買う前にいろいろなお店を当たってみてください。手堅い選択をしようと思えば,マシンの使い方を実演してくれる店に行くのが一番です。
コーヒーの購入
エスプレッソ用に焙煎された新鮮なもの選びます。スーパーマーケットで売られているコーヒーに新鮮なものはまずありませんから,コーヒー専門店を探します。自家焙煎を行なっている店なら,なお好都合です。豆のままだと数週間は一応新鮮な状態を保てますが,挽いたコーヒーは数日で風味が損なわれてしまいます。ですから,できれば豆ごと買って,必要に応じて家で挽くのがよいでしょう。一番よいのは細挽きですが,細かすぎるのはよくありません。挽いたコーヒーを買わなければならないときは,少量だけにして,すぐに使うようにしましょう。
コーヒーの高い鮮度を保つには,密閉容器に入れ,しっかりふたをして保存します。2週間以内に使うのであれば,コーヒーの容器を冷暗所に置いてください。そうでなければ,冷凍庫に保存してください。
入れ方
最高の器具とコーヒーがあるとしても,エスプレッソの入れ方は学び取るものであって,お金で買うことはできません。入れ方の手順は使う器具によって異なるので,それぞれの使用説明書の指示に従います。十分な量の粉を用いてください。挿入フィルターがほぼいっぱいになり,粉の膨張する余地が少し残されていれば,適量です。フィルターにほどよく粉を入れる,つまり詰め込むには多少の経験が必要ですが,うまく詰めると粉全体にお湯がゆっくり,均等に染み込むようになり,風味が十分に抽出されます。
避けたい間違いがあるでしょうか。それは,一定量の粉で多量のコーヒー液を抽出することです。シングル分の粉で60ないし90㍉㍑のコーヒーを入れようとすれば,薄くて渋いコーヒーができ上がります。エスプレッソどころか,ドリップ式で入れた辛口コーヒーのような,期待はずれの飲み物ができる結果になります。
ですから,重要な要素は,入れ終えるタイミングを知ることです。鑑定士たちは,シングルのエスプレッソを入れるときは,20ないし25秒ほどの間に30ないし40㍉㍑を出すのが望ましい,としています。その時点で,抽出は十分に行なわれているので,粉は捨てなければなりません。
ダブルのエスプレッソを入れるときも,「少ないほどよい」のです。入れるコーヒー液の量が少なければ,それだけ甘さは増します。ダブルの定義はいろいろありますが,2倍の量の粉を用い,一つのカップにエスプレッソ2杯分を入れるというのが大筋でしょう。
カフェインについてはどうか
シングルのエスプレッソに含まれるカフェインの量は,普通のコーヒー1杯分のカフェインを下回ります。意外に思われますか。濃いエスプレッソなのに,どうしてそうなのでしょうか。
一つの要素は焙煎された豆の黒さです。黒いほうが,含まれるカフェインは少ないのです。それに,多くのコーヒー専門店で用いられているアラビカ種のカフェイン含有量は,スーパーマーケットの缶入りコーヒーに多く用いられているロブスタ種に比べると,ずっと少量です。
しかし,最大の要素は量です。1㍉㍑当たりのカフェイン含有量は,エスプレッソのほうが普通のコーヒーより多いのですが,カップ1杯の容量はエスプレッソのほうが圧倒的に少量です。そのため,ある研究によると,普通のコーヒー1杯分つまり約180㍉㍑のカフェイン含有量が100㍉㌘以上であるのに対して,シングルのエスプレッソのカフェイン含有量は,それを幾分下回ることがあります。
それでも,研究結果は一様ではなく,カフェインの量は,使用される豆やコーヒーを入れる手順の一つ一つによって決まります。もちろん,ダブルのエスプレッソにはシングルより多くのカフェインが含まれます。カフェインの量を知るのに一番よいのは,飲んだ後の感じかもしれません。カフェインの摂取量を減らしたい,でもエスプレッソは堪能したい,と思う人は,お望みのカフェンの分量に応じて,カフェイン抜きのエスプレッソ用炒り豆を使うか,それを普通のエスプレッソ用炒り豆とブレンドすることができます。
お宅の台所でエスプレッソを入れる用意はできましたか。粘り強さを忘れなければ首尾は上々です。ですから自分自身を実験台にしましょう。お友達に出す前に自分で入れる練習をしてみるのです。クレーマを作ったり,ミルクを泡立てたりするには,経験が必要です。しかし,地元のコーヒー店顔負けのエスプレッソを飲んで友達が喜べば,苦労も吹き飛ぶというものです。そして,なるほどエスプレッソこそ最もコーヒーらしいコーヒーだ,とうなずけるようにさえなるかもしれません。
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ミルクの泡立て方
カプチーノやカフェ・ラッテ用のミルクを泡立てたり蒸気にかけたりするには,スチール・ピッチャー,冷たいミルク,ミルク・スチーマーが必要です。お持ちのエスプレッソ・メーカーに,ミルクに蒸気を当てるための細長い棒が付いていなければ,その目的にかなう独立した部品を買うことができます。
1. スチール・ピッチャーの中程まで,冷たいミルクを入れます。
2. ミルクの表面のすぐ下に蒸気棒を入れ,蒸気バルブを開けます。
3. 蒸気棒の先端をミルクの表面からほんの少し下に入れたまま,ピッチャーを下げながら,より多くの空気を送り込んで,泡立てます。
4. 触れることができないほどピッチャーが熱くなっていれば,それが大体理想的な温度です。
5. 蒸気バルブを閉じ,ピッチャーをバルブの下から取り外します。それから蒸気バルブを開いて,残っているミルクを除き,湿った布でバルブを拭きます。
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コーヒー豆のほうが,挽いたコーヒーよりも,高い鮮度を長く保てる
左はスチーム式のエスプレッソ・メーカー