-
銀行はどれほど安全か目ざめよ! 1986 | 10月22日
-
-
負債の問題
銀行はもともと危険な商売です。ほとんどが自分のものではない莫大な量のお金を扱うからです。加えて,自己資本をはるかに超えるお金を作り出したり貸し付けたりもします。銀行は,然るべき予防措置を講じてはいても,貸付金の一部が貸し倒れになることをわきまえているので,一定量の金額を取り分けておき,貸し倒れを補うための貸し付け準備金としています。ただし,貸付金を取り戻せないことが異常に多くなると,それらの準備金だけでは,多額に上る貸付金の損害を埋め合わせたり,取り付けに対応したりすることが難しくなります。ニューヨーク・マガジン誌は,「貸し倒れのために自己資本が危険にさらされればさらされるほど,銀行は経済的にますます弱体化する。銀行の破産(つまり倒産)は,銀行の自己資本が使い尽くされるときに生じる」と述べています。
まさにそうした状況にあること,つまり貸付金を取り戻せなくなることがあまりに多く,それを支えるだけの資本がなくなってしまう銀行は,今日,増加の一途をたどっています。そうした状況の生じる理由は数多く,石油危機,貿易の制限および貿易収支の赤字,景気の下降,不安定な利率,資本逃避,インフレ,ディスインフレ,景気後退,あまりに積極的な融資策,法人組織の崩壊,過激な競争,規制解除だけでなく,無知や愚かさもその一つです。
しかし,理屈の上では,銀行が命をつなぐ方法はあるのです。繰り返し用いられている一つの方法は,貸し付けの計画を練り直し,負債の返済期限を延長することです。もう一つの方法は,元金を全額返済してもらえる見込みが皆無に近いとしても,貸付金の全額を分別管理することです。頻繁に用いられる戦術は,利息の支払いができるよう借り主にさらにお金を貸すことです。
これらの方法はすべて,第三世界の抱える負債に関して現在さまざまな銀行によって用いられています。同世界の負債は,多くの人から国際的な銀行制度の安定性に対する最大の脅威とみなされています。世界銀行の調査によれば,100か国余りの発展途上国の抱える外国からの負債額は1985年の末現在で合計約9,500億㌦(約152兆円)に達しましたが,これは前年の4.6%増に当たります。すでに非常な高額に達しているというのに,1986年の終わりにはそれが1兆100億㌦(約161兆6,000億円)になるものと見込まれています。なぜでしょうか。それらの国の中には,返済が全くできず,時間とお金をしきりに要求してくるところが少なくないからです。銀行は貸付金の額の大きさを考慮に入れ,その要求に応じてきました。「あなたに1㌦借りがあるとすれば,わたしはあなたの言うなりになる。しかし,あなたに100万㌦借りがあるとすれば,あなたはわたしの言うなりになる」と,ある人が言った通りです。
多額の負債を抱えた国々が耐乏生活の苦しみに疲れ,返済する気を全くなくしてしまう可能性は,常に厳として存在します。銀行としては,主権国家に返済を強要することはできません。「銀行にとって世界的な負債の危機の持つ意味は単純である。その利潤の大半は貸し付けを行なうことによって得られるが,国が巨額の負債を返済できないと,銀行の利潤,自己資本,株価などは急激に減少することがある。……第三世界の大規模な債務不履行が影響して経済体制が限界に達し,大手の銀行が崩壊するような事態も考えられる」と,サビー誌は述べています。
メキシコ,ブラジル,アルゼンチン,ベネズエラのわずか4か国が債務不履行に陥っただけで,米国の最大手の銀行9社が崩壊し得る,と専門家は警告しています。ニューヨーク・タイムズ・マガジン誌は,「実際に債務不履行に至っていないというのは驚くべきことだ。もちろん,言葉の上でそう言えるにすぎない。戦争がもはや“布告”されていないのと同じように,“法的に”債務不履行の状態にあると布告されている国は一つもないのである」と述べています。
「自分の銀行は安全だろうか」
銀行に力があり,支払い能力を備えているかどうかを知ることはできるのでしょうか。「大抵の預金者にとって,銀行がどんな状態に[あるか]を知るのは難しい。もしくは不可能である」とチェンジング・タイムズ誌は述べています。ニューヨーク・タイムズ紙はそれに加え,「最近の経験は,部外者にとって銀行が健全かどうかを判断するのが極めて困難であることを示している。近年に崩壊した,あるいは崩壊寸前のところまで追い込まれた大手の銀行は,事実上例外なく銀行株の分析者から安全な銀行として推奨されていた。……銀行の最高決定者や監査役でさえ,手遅れになる時まで,深刻な問題を察知できなかった」と述べています。
普通の場合,消費者にはせいぜい,提供されるサービスの種類,そのサービスが親切か速いかなど,銀行を表面的に調べることしかできません。実際,銀行の宣伝の中で強調されているのは大抵そういう事柄,つまり銀行員が親切で,貸し付けは速く,特別な口座やサービスがあり便利である,ということです。新しい預金者を勧誘するために贈り物が提供されることもありますが,銀行の経済的な状態について語られることはほとんどありません。言うまでもなく銀行のサービスは重要であり,利回りが変わるときには,付く利息や,その利息がどのように計算されるのかについても注目しなければなりません。預金者にとって最も重要なのは,自分のお金の安全性です。
その場合にかぎとなるのは預金保険です。「預金保険があれば,銀行制度が完全に崩壊しない限り,預金者の問題ではなく,銀行側と銀行の株主の問題となる。今日,銀行の倒産によって,1930年代に生じたような個々の人々のなけなしの貯金が失われるようなことは万が一にもないであろう」と,アトランティック・マンスリー誌は述べています。
ですから,預金が保険に入っているか,またどこの保険に入っているかを確認するのは良いことです。もちろん,政府による保険なら申し分ありません。米国の連邦預金保険公社はその一例です。中には,預金は保険に入っていると聞かされていたのに,その会社は銀行が倒産しても預金者すべてに返済できる資金のない民間の機関だったことがあとで分かったという人もいます。保険に入っている額も確認することです。読者の預金高がその限界を超えていれば,自分のお金を全部保証してもらえるほかの銀行に口座を開くことを考えてください。
前途には何があるか
個々の銀行の倒産は今後も続き,その数が増加することさえ見込まれています。それでも,銀行制度にとって最も重要なのは,銀行に対する信用を保つことです。フォーチュン誌は,「預金者が今の経済の動向を解釈し,影響のある銀行から自分のお金を引き出すべきだと考えただけで,危機は生じる」と述べています。したがって,銀行制度を強化し,その信用を確固たるものにするために全面的な努力が払われているのです。
第三世界の国々の負債を操作可能な程度にまで減らし,それらの国が自国の責務を果たせるように助ける計画も現在進行中です。フランスの元産業計画大臣アルバン・シャランドンの言葉によれば,「つまるところ,莫大な赤字を世界中の納税者が肩代わりすることになる」のです。
では,銀行はどれほど安全でしょうか。ある銀行役員はその点を,「銀行は,それを支える政府と同程度に安全である」と言い表わしました。
-
-
銀行はどれほど安全か目ざめよ! 1986 | 10月22日
-
-
[9ページの囲み記事]
銀行の現状 ― 他の人々の意見
● 「負債を抱えた幾十もの国々の政府,国際通貨基金,連邦準備制度理事会,米国および他の国々の幾百という銀行が,1930年以来最も厳しく,かつ広範にわたる経済危機を共に経験すると言っても,これは決して誇張ではない」― ニューヨーク・マガジン誌。
● 「現在の方策は,いたって心もとない保護策を提供するにすぎない。世界経済の安全性は,ナイフの刃の上でバランスを取るようなものだ。負債に関する危機は発展途上国の開発のみならず,工業国の銀行制度の安定性をも脅かしている」― 英連邦の専門家グループからの報告,ロンドンのガーディアン紙。
● 「第三世界の国々の米国の銀行に対する巨額の負債は,今にもなだれとなって米国の銀行制度を襲おうとしている」― ニューヨーク・タイムズ・マガジン誌。
● 「全世界の負債総額は極めて膨大であり,国際的な銀行制度を脅かす第一級の負債危機の土台が築かれた」。「世界的な負債危機に関する最高の皮肉は,銀行が奥まで入り込んでしまったので,トランプで作った家のようなもろい仕組みを破壊せずにそこから脱することはできないということである」― サビー誌。
● 「今日の状況は,1930年代よりも危機的で危険である」― 西ドイツの経済学者,クルト・リッヒェベッヒャー,US・ニューズ・アンド・ワールド・リポート誌。
-