-
恐ろしいあらしを静めるこれまでに生存した最も偉大な人
-
-
イエスは,夕方になって,「向こう岸に渡りましょう」と言われます。
ガリラヤの海の東岸にはデカポリスと呼ばれている地方があります。この地名は,ギリシャ語で「十」という意味のデカと,「都市」という意味のポリスから来ています。デカポリスの諸都市はギリシャ文化の中心地ですが,多くのユダヤ人の郷里でもあるようです。しかし,この地方でのイエスの活動は非常に限られており,あとで分かるように,今回の訪問でも長くは滞在できません。
-
-
意外な人が弟子になるこれまでに生存した最も偉大な人
-
-
意外な人が弟子になる
岸に上がられたイエスは,恐ろしい光景をご覧になります。ことのほか狂暴な二人の男が近くの墓地から出て来て,イエスのほうに走って来ます。彼らは悪霊に取りつかれています。そのうちの一人は他方よりも狂暴なので,ずっと長く悪霊に支配されてきたらしく,人々の注目を集めます。
このかわいそうな男は長いあいだ墓場に裸で住んでいました。昼も夜も絶え間なく叫んだり,石で自分の身に切りつけたりするのです。男は非常に狂暴なので,だれもその方面に行く道を通る勇気はありません。人々はその男を何度も縛ろうとしましたが,男は鎖を引きちぎり,足かせをはずしてしまいます。その男を従わせる力はだれにもありません。
その男がイエスに近づいて足もとにひれ伏すと,男を支配している悪霊は,「至高の神の子イエスよ,わたしはあなたと何のかかわりがあるのですか。わたしを責め苦に遭わせないことを神にかけて誓ってもらいます」と男に叫ばせます。
イエスはなおも,「その男から出て来なさい,汚れた霊よ」と言われます。しかしそのときイエスは,「あなたの名は何か」とお尋ねになります。
「わたしの名は軍団<レギオン>です。わたしたちは大勢いるからです」と,その悪霊は答えます。悪霊たちは,自分たちが取りつくことのできる人々の苦しみを見て楽しみ,臆病な暴徒のような心理で人々に襲いかかるのを喜びとしているようです。しかし,彼らはイエスと対面すると,底知れぬ深みに送り込まないよう願います。ここでもまた,イエスが大きな力を持っておられたことが分かります。イエスは邪悪な悪霊たちをさえ征服することができたのです。このことから,悪霊たちは自分たちの首領である悪魔サタンと共に底知れぬ深みに入れられることが,自分たちに対する神からの最終的な裁きであるということに気づいていることも分かります。
2,000頭ほどの豚の群れが近くの山で草を食べています。それで悪霊たちは,「わたしたちを豚の中に送り込んで,彼らの中に入れるようにしてください」と言います。悪霊たちは,肉の被造物の体に侵入することから,ある種の不自然な,サディスト的快感を味わうようです。豚の中に入るのをイエスがお許しになると,2,000頭の豚がみな断崖に殺到し,海に落ちてでき死します。
豚の世話をしていた者たちはそれを見て,市内やあたりの田舎に急いでそのことを知らせに行きます。それで人々は起きたことを見ようとしてやって来ます。彼らは到着して,悪霊たちを出してもらった男を目にします。何とその男は衣服を着け,正気に戻ってイエスの足もとに座っています。
目撃証人たちは,悪霊に取りつかれた男がどのようにしてよくなったかを人々に告げ,また豚の奇妙な死に方についても話します。それを聞くと,人々は非常な恐れにとらわれ,自分たちの地域から去るようイエスに切に求めます。それでイエスは,その求めに応じて舟にお乗りになりますが,それまで悪霊に取りつかれていた人がお供をさせていただきたいと懇願します。しかしイエスはその人に,「あなたの親族のもとに帰り,エホバがあなたにしてくださったすべての事,またあなたにかけてくださった憐れみについて知らせなさい」と言われます。
イエスは,世間を騒がせるようなうわさに基づいて人々が結論を下すのを望まれないので,いつもならだれにも話さないよう,ご自分がおいやしになる人に指示なさいますが,今回の処置は例外でしかも適切です。というのは,それまで悪霊に取りつかれていた人は,もうイエスに接する機会がないかもしれない人々の間で証言することになるからです。さらに,その人がそこにいること自体,善をなすイエスの力について証しし,豚が死んだことで広まりかねないどんな良くないうわさをも封じることになるでしょう。
それで先ほどまで悪霊に取りつかれていた人は,イエスの指示に従って去り,イエスが自分のためにしてくださった事をすべて,デカポリス全域でふれ告げるようになります。人々はただ驚くばかりです。 マタイ 8:28-34。マルコ 5:1-20。ルカ 8:26-39。啓示 20:1-3。
-