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第6部 ― 黒シャツ隊員と鉤十字章目ざめよ! 1990 | 10月22日
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ファシズムは宗教の権威や民間の権威を含め,他のどんな権威よりも国家を高めます。16世紀のフランスの法律学者ジャン・ボーダン,17世紀の英国の哲学者トマス・ホッブズ,18世紀および19世紀のドイツの哲学者,ヨハン・ゴットリープ・フィヒテ,ゲオルグ・ウイルヘルム・フリードリヒ・ヘーゲル,ハインリヒ・フォン・トライチュケは,いずれも国家の栄光を讃えました。ヘーゲルの教えによれば,最高の地位にあるのは国家であって,個人としての至上の義務は国家を忠節に支持することでした。
どんな政府も,政府であるがゆえに権威を行使しなければなりません。しかしファシスト国家の目的は,盲従を要求し,権威を極限まで行使することにありました。トライチュケは人間を国家の単なる奴隷とみなし,「人が従っている限り,その人が何を考えていようと問題ではない」と述べました。ファシズムは,フランス革命の際に聞かれた「自由,平等および友愛」という叫びを,「信じ,従い,そして戦う」というイタリア人のスローガンに代えたのです。
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第6部 ― 黒シャツ隊員と鉤十字章目ざめよ! 1990 | 10月22日
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ドイツ流ファシズム
A・カッセルズ著「ファシズム」は,「イタリアのファシズムとドイツのナチズムは,権力を得るに至った過程こそ類似しているが,体質と将来への展望は著しく異なっていた」と述べています。
ファシスト思想の先駆となった前述のドイツの哲学者のほかにも,19世紀ドイツの哲学者フリードリヒ・ニーチェといった人たちが,ドイツ特有のファシズムの育成に寄与しました。ニーチェがファシストだったというのではありません。しかし,指導的立場にあるエリート,つまり超人の集団をニーチェが要求したのは確かです。とはいえニーチェは,特に好ましく思っていたわけではないドイツ人はもちろん,一つの人種や国家を念頭に置いてそうした要求をしたのではありません。しかしその思想には,国家社会主義の唱道者たちが,ドイツ人に理想的な形で備わっていると考えたものに近い部分がありました。したがって,その思想は活用されましたが,ナチの政策と合致しない思想は放棄されました。
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