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ギャンブル ― 90年代の中毒目ざめよ! 1995 | 9月22日
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ギャンブル ― 90年代の中毒
カメラがその光景をカラーフィルムに収めます。その写真が,ある新聞の日曜版の見開き全体に掲載されます。―ビンゴゲーム場に改装された床面積数百平方メートルの巨大な倉庫の中は,どこを見ても,ギャンブル好きなあらゆる年齢層,あらゆる人種の人で賑わっています。その人たちの疲れ切った顔と血走った目が見えますか。何時間も数え切れないほどプレーをしてきた証拠です。彼らは次の数字が発表されるのを今か今かと待っています。今夜はまだ一度も勝っていないが,今度こそ大当たりかもしれない,と思っているのです。
新聞をめくってみましょう。たくさんのカードを握りしめている人たちの心配そうな顔が見えますか。負けたらどうしよう,とはらはらしています。多くの場合,次に引くカード次第で数千ドルの勝ち負けが決まるのです。想像力をもっとたくましくして写真を見てください。心配のあまり手の平が汗ばんでいるのが見えますか。早鐘のように高鳴る心臓の音,次回はもっとよい手になるよう,また他の人に負け札が渡るよう求める無言の祈りが聞こえますか。
一流ホテルや川船に設けられた豪華なカジノの中に入ってみてください。けばけばしい色のスロットマシンが立ち並ぶ迷路の中で迷子になってしまいましたか。そのレバーを引く音やリールの回る騒がしい音で耳が遠くなりそうですか。その音もプレーヤーの耳には,勝敗にかかわりなく音楽の響きのように聞こえます。「彼らにとって面白いのは,次にスロットマシンのレバーを引くと何が起こるのだろう,というスリルである」と,あるカジノの支配人は語りました。
人込みを通り抜けて,人だかりのできているルーレット台のところへ行ってみましょう。赤と黒の升目のある回転盤が目の前で回っているのを見ると,魅了されてしまうかもしれません。玉の転がる音を聞くと,いても立ってもいられなくなります。回転盤はぐるぐる回りつづけ,それが止まったところで勝敗が分かれます。回転盤がたった一度回っただけで,数千ドルを擦る場合も少なくありません。
こうした場面やシナリオは幾万とあり,プレーヤーは数え切れないほど多く,舞台となる場所は世界中に幾千とあります。人々はギャンブルに対する渇望を満たすために,飛行機や列車,バス,船,車に乗って世界各地に出かけて行きます。そのような渇望は,「知られざる病,90年代の中毒: ギャンブル常習癖」と呼ばれてきました。ギャンブル行動に関する米国の権威である研究者のデュランド・ジェイコブスは,「1990年代の特徴として,合法的ギャンブルが全世界で歴史的盛況を見る,と私は予言する」と述べました。
米国を例にとってみると,1993年にカジノへ行った米国人はメジャーリーグの野球場へ行った人を上回り,9,200万人に達しました。新たなギャンブル施設の建設はとどまるところを知らないように思えます。大西洋岸地域のホテル経営者はほくほく顔です。「カジノを訪れる一日推定5万人のお客様をお泊めするには,今ある部屋数ではとても間に合いません」。
1994年には,つい最近までギャンブルが罪深い行為とみなされていた南部諸州の多くで,ギャンブルが温かく歓迎され,救世主とみなされるようになりました。「水上および陸上のカジノはミシシッピ州とルイジアナ州の各地にあり,フロリダ州,テキサス州,アラバマ州,アーカンソー州ではその増設計画があるのだから,今日,バイブルベルトはブラックジャックベルトと改名したほうがよかろう」と,US・ニューズ・アンド・ワールド・リポート誌は述べています。ある宗教指導者たちは,ギャンブルは罪であるという考え方から180度方向転換するようになっています。例えば,1994年にルイジアナ州ニューオーリンズ市の官僚がミシシッピ川に浮かぶ同市初の水上カジノの命名式を行なった時,ある僧職者は祈りをささげ,その中で,「ギャンブルをする能力と,その徳をもってこの市を祝福してくださった」ことを神に感謝しました。
西暦2000年までには,米国民全体の95%が自宅からカジノまで車で三,四時間で行けるようになると見られています。アメリカ・インディアンもギャンブル産業の相当な分け前にあずかってきました。US・ニューズ・アンド・ワールド・リポート誌によると,米国政府はこれまでに全米で225軒のカジノと多額の賭け金が動くビンゴゲーム場の営業許可をアメリカ・インディアンに与えてきました。
カード賭博,スポーツ賭博,競馬,ドッグレース,教会のビンゴなどを合わせると,1993年に米国人は合法的な賭け事に,前年に比べて17.1%も多い3,940億㌦を費やしたことが明らかになります。ギャンブル反対派の人たちは途方に暮れています。あるギャンブル常習癖対策委員会の役員は,「人々を助ける上で最も頼りになるのは教会や寺院や政府である。それなのに,今ではそれらすべてがギャンブル産業に関与している」と述べました。米国のある新聞は,米国を「ギャンブル国家」と呼び,ギャンブルは「米国の真の国民的娯楽」であると言いました。
英国は1826年に宝くじの発売を開始しましたが,それ以来,売れ行きは好調だと言われています。ニューヨーク・タイムズ・マガジンによると,英国ではビンゴも大流行しています。タイムズ誌は,「今ではモスクワの至るところでカジノが繁盛している。また,レバノン人のギャンブラーは文字通り命がけで西ベイルートの賭博場に入りびたっている。そこは民兵とイスラム原理主義者の両方から銃撃される」と伝えています。「大もうけした人はマシンガンで武装したカジノの用心棒に家まで送ってもらう」のです。
カナダの州賭博取締委員は,「カナダ人は自分たちがギャンブル好きの国民であることに気づいていない」と述べ,「ある意味では,米国よりもカナダのほうが賭博のレベルが高いかもしれない」と付け加えました。グローブ・アンド・メール紙は,「昨年中,カナダ人は合法的な賭け事に100億㌦以上を費やした。これは映画に行くのに使った金額のほぼ30倍である」と伝えています。「カナダにおけるビンゴ産業の発展は,米国の古今の歴史における発展をはるかに凌いでいる。宝くじ産業はカナダのほうがずっと発達している。競馬に関しても同じ事が言える」と同紙は述べました。
南アフリカのある新聞は,「南アフリカにどれほど多くのギャンブル中毒者がいるかはだれにも分からないが,少なくとも『数千人』はいる」と書きました。一方,スペイン政府は自国の問題とギャンブラーの増加に十分気づいています。公式の数字によると,3,800万人の住民の多くがギャンブルで擦った金額は年間250億㌦に上り,スペインは世界でもトップクラスのギャンブル国となっています。ギャンブラーを助けるための協会を設立したある男性は,「スペイン人は根っからのギャンブラーだ。これまでもずっとそうだった。……競馬,サッカー,宝くじ。それからもちろん,ルーレット,ポーカー,ビンゴ,そしてあのいまいましい金食い機械にも金を賭ける」。スペインでは最近になってようやく,ギャンブル常習癖が心理的な苦しみをもたらす原因とみなされるようになりました。
入手可能な証拠は,イタリアもギャンブル熱に見舞われてきたことを物語っています。宝くじやスポーツ賭博だけでなく,新聞紙上のゲームや賭博台にも莫大な金銭がつぎ込まれています。政府後援の調査団体が出した報告には,「ギャンブルは日常生活のあらゆる面に浸透している」と述べられています。今日,「ギャンブルのレベルは以前には想像もできなかったほど高くなっており,政府の役人から教区司祭に至るまで,人々は金儲けの方法を求めて血眼になっている」と,ニューヨーク・タイムズ紙は書いています。
本当にそのとおりです。多くの場合,ギャンブルは人々の生活のあらゆる面に影響を及ぼします。続く記事ではそのことを取り上げます。
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ギャンブル常習者は必ず損をする目ざめよ! 1995 | 9月22日
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ギャンブル常習者は必ず損をする
「アルコール依存症や麻薬中毒が病気であるのと同様に,ギャンブル常習癖も一種の病気である」と,フランスのジャン・アデ教授は述べました。同教授は,「それは薬物を使用しない中毒である……自分が中毒であることに気づく人はますます増えている」とも述べています。ギャンブル常習者は,大金を失っても,さらにギャンブルを続けて穴埋めをしなければならないという気持ちに取りつかれる場合が少なくありません。フランスのある報道記者は次のように書いています。「負けた人のほとんどはすぐに失意から立ち直る。しかし,ギャンブルをしたいという衝動が抑え切れず,一生を棒に振る人もいる。そうした人は,ギャンブルから足を洗うと自分に言い聞かせつづけるが,いつもギャンブルに支配されている。彼らはギャンブル中毒なのだ」。
南アフリカのあるギャンブラーは次のように告白しています。「ギャンブル中毒の人は,ルーレットの回転盤やブラックジャックの台の前に座っていると,ほかのことなどどうでもよくなってしまう。アドレナリンがすさまじい勢いで血管を駆け巡り,ルーレットがこの次に回るとき,あるいはこの次にカードが配られるときには,持ち金を最後の1セントまでそっくり賭けてしまう。……私は蓄えられたアドレナリンの力を借りて,何昼夜もずっと寝ないでいられる。カードや数字を見守り,永遠に手にすることのないその大儲けを待ちつづけるのだ」。それから,次のように締めくくっています。「私のように数百ランドで,あるいは数千ランドでもやめられない人は他にも大勢いる。われわれは,持っている物をすべて失い,家族関係が取り返しのつかないほど損なわれるまで,ギャンブルをやめないだろう」。
ニューヨークのセントジョンズ大学で社会学を担当するヘンリー・R・ラシエール教授は,ギャンブルに対する欲求は勝ち負けに関係なく非常に強いので,「多くのギャンブラーは数日間,眠ることも食べることもトイレに行くことさえもしない。ギャンブルに没頭している時は,ほかのことなどすべて忘れてしまう。待っている間も“快感”がある。その時の特徴としては,多くの場合,手の平が汗ばみ,心臓の鼓動が早くなり,吐き気がする」と書きました。
以前ギャンブル中毒だったある人は,その習慣から抜け出すのを阻んだ力が勝つことではなく,むしろその“快感”,つまりギャンブルそのもののスリルであったことを認め,こう述べました。「ギャンブルは異常なまでに強烈な感情を引き起こす。ルーレットの回転盤が回っている時,チャンスが答えを出してくれるのを待っている時は,くらくらして,気絶しそうになる」。フランスのギャンブラー,アンドレもそれに同意してこう述べています。「ある馬に1万フラン賭けていて,レースがあと100㍍で終わるという時なら,妻か母親が死んだと言われても,気にも留めないだろう」。
アンドレは大金を擦った後もギャンブルを続けられたいきさつについて述べています。彼は銀行や友達や高利貸しから法外な利子で借金をしたり,小切手を盗んだり,郵便局の貯金通帳を偽造したりしました。カジノを訪れている時に,連れのいない女性を誘惑しておいて,その女性のクレジットカードを持ち逃げしたりもしました。フランスのある報道記者は,「そのころになると,[アンドレにとっては]にっちもさっちもいかなくなった資金面での状況を改善できるかどうかということなど,もうどうでもよかった。彼の常軌を逸した行動はもっぱらギャンブル狂いが原因で始まったものである」と書いています。アンドレは犯罪に走り,刑務所に入れられ,結婚関係は破綻しました。
多くの場合,ギャンブル常習者は麻薬中毒者やアルコール中毒者と同様で,自分の仕事や事業や健康,そしてついに家族を失うことになってもギャンブルを続けます。
フランスの多くの都市は最近になってギャンブルに門戸を開きました。他の事業が倒産している中で,質屋は繁盛しています。経営者の話では,ギャンブルをする人たちはしばしば持ち金を全部擦ってしまい,指輪や時計や衣服その他の金目の品を換金して,家までのガソリン代にします。米国の沿岸都市では,質屋が新たにオープンしており,三,四軒,あるいはそれ以上の質屋が建ち並んでいる場合もあります。
ギャンブルの資金を調達するため,犯罪の道を歩むようになった人さえいます。ラシエール教授は,今日までの研究によって,「ギャンブル常習者の間の多種多様な不法行為が明らかになった。……小切手偽造,横領,窃盗,武装強盗,呑み行為,詐欺,取り込み詐欺,盗品故買などである」と述べています。これに加えて,ギャンブラーが雇い主のものを盗む,ホワイトカラー族の犯罪があります。ギャンブル常習癖教育治療研究所の所長,ゲリー・T・フルカーによると,ギャンブル常習者と認定されている非常に多くの人たちの85%は雇い主のものを盗んでいることを認めました。「実際,純粋に経済的な観点から見ると,ギャンブル常習癖はアルコール依存症と薬物乱用を足したものよりも潜在的に悪質である」とフルカーは述べました。
研究が進むにつれ,ギャンブル常習者で,投獄されていない人の約3分の2と投獄されている人の97%は,ギャンブルの資金を作ったり,ギャンブルがらみの借金を返済したりするために不法行為に携わることを認めている,という結論がでました。合法的ギャンブルが大流行している,米国のメキシコ湾沿岸の町々では,1993年に16件の銀行強盗がありましたが,前年の4倍に増加したことになります。ある男性はギャンブルを続けるために合計八つの銀行から8万9,000㌦を盗みました。強盗に入ったギャンブラーに銃で脅かされて,多額の借金を全額肩代わりするよう強要された銀行もありました。
「ギャンブル常習者がギャンブルから足を洗おうとすると,禁断症状を経験する。それは愛煙家や麻薬中毒者の場合とよく似ている」と,ニューヨーク・タイムズ紙は述べています。しかし,ギャンブラーたちが認めているように,ギャンブル癖を断つのは他の常用癖を断つよりもむずかしい場合があるのです。ある人は,「われわれの中にはアルコール依存症や薬物乱用を経験した者がいるが,ギャンブル常習癖は他のどんな中毒よりもはるかに悪いということで皆の意見が一致している」と語りました。ハーバード大学常用癖研究センターのハワード・シャファー博士は,ギャンブル常習者がギャンブルをやめようとする場合,少なくともそのうち30%が「いらいらしている様子を示したり,胃痛や睡眠障害を経験したり,血圧や心拍数が正常値よりも高くなったりする」と述べています。
米国メリーランド州ボルティモアにある国立賭博癖治療センターの所長,バレリー・ロレンツ博士によると,ギャンブル常習者は賭け事を続けている場合でさえ,「慢性的な頭痛,偏頭痛,呼吸困難,狭心痛,不整脈,手足のまひなど,健康上の問題に直面」します。
自殺する人もいます。一般には「死ぬ心配のない中毒」とされているものが死をもたらす以上にひどいことがあるでしょうか。例えば,米国のある郡では,最近カジノがオープンしましたが,「自殺率はなぜか2倍になった」と,ニューヨーク・タイムズ・マガジンは伝えています。「ところが,この増加をあえてギャンブルと結びつけようとする保健関係者はいなかった」のです。南アフリカでは,1週間に3人のギャンブラーが自殺しました。合法非合法を問わず,ギャンブルやギャンブルがらみの負債に起因する自殺の実数は分かっていません。
自殺はギャンブルが持つ万力のような支配力を終わらせる実に哀れな方法です。次の記事では,ある人たちがそれから逃れるためのより良い方法をどのように見いだしたかを取り上げます。
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質屋は繁盛し,犯罪もはびこる
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ギャンブルの新たな犠牲者 ― 若者たち目ざめよ! 1995 | 9月22日
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ギャンブルの新たな犠牲者 ― 若者たち
あなたは,大の大人が男性も女性もギャンブル中毒の泥沼にはまり込むなんてとても信じられない,と頭を振られますか。大人のギャンブラーがギャンブルのために一生の仕事や業績 ― 仕事,事業,家族,また人によっては命 ― を捨てるということを読むと,まさか,と思われますか。成熟した,教養ある大人がギャンブルで150万㌦もうけたその夜に,賭け続けて700万㌦擦ってしまった理由を理解できますか。多くの場合は貪欲,つまりなかなか手に入れられないお金を追い求めることが原因です。とはいえ,ギャンブルそのもののスリルが原因となる例は枚挙にいとまがありません。
幼い子供を持つ親の皆さんは,ギャンブルは成熟した大人の遊びだと考えて安心しておられますか。では,もう一度考えてみてください。いわば出番を待っている,あるいはもうすでに遊技場に出ている新たな若い犠牲者のことを考えてみてください。読者は事実を知って愕然とされるかもしれません。
以下の見出しは,最近の新聞や雑誌に載ったものです。「ギャンブルが90年代における青少年の悪徳となる見込みは大きい」。「ギャンブル中毒の若者が増加」。「90年代のクラック: 子供を夢中にさせるギャンブル」。「息子はギャンブルがやめられなかった」。
では,見出しに続く部分をご覧ください。ある新聞には,「当局はこうした重大な事態を引き起こしたおもな原因として,州や教会主催のギャンブルの急増を挙げている」と書かれています。さらに同紙は,「今日,誘惑に陥りやすい若者たちにとって,賭け事はかつてないほど身近なものとなっている。そして,専門家の警告によると,ギャンブル常習癖のある大人の90%以上は14歳になるまでにギャンブルを始めている」と述べました。別の研究者は,「ギャンブル常習者の大半がギャンブルを始めた年齢は,かつては14歳ぐらいだった。しかし,今では低年齢化し,9歳から10歳になっている」と述べ,次のように付け加えています。「なぜだろうか。そうする機会があるからだ。子供たちは……あらゆる場所でギャンブルの広告攻めにされる。ギャンブルは社会的に受け入れられている刺激なのである」。賭博常習者更正会と呼ばれる団体のスポークスマンは次のように述べています。「事態は急速に悪化している。子供たちがギャンブルを始める年齢はますます低下しており,そのわなに捕らえられる者はかつてないほど増えている」。
米国のある州で実施された十代のギャンブラーに関する調査では,約3.5%の人は潜在的なギャンブル常習者であり,さらに9%の人は“危険性の高い”ギャンブラーになる可能性のあることが分かりました。米国の某大学のカウンセリングサービスの責任者であるウィリアム・C・フィリップスは,「それらの数値は,一般の大人よりも若者のほうがギャンブルを行なう割合が高いことを典型的に示している」と述べています。中毒を扱う別のカウンセラーは,「今後10年ほどの間に,若者のギャンブルの問題は薬物使用,特に不法な麻薬使用の問題よりも増加するだろう」と述べています。ヘンリー・ラシエール教授は,中高生を対象にした調査を実施しました。ロサンゼルス・タイムズ紙は,「その調査結果は大学生を対象にした調査結果と酷似している。“病的な”ギャンブラーあるいはギャンブル“常習者”― ギャンブルの活動をコントロールできなくなった人 ― と類別されたティーンエージャーの割合の平均は,全国のティーンエージャー人口の約5%である」と伝えています。
ギャンブルの治療専門家が等しく認めていることですが,危惧の念を抱かせるのは,ギャンブルをする若者の数ではなく,むしろ「子供,親,さらには教育者が十代の若者のギャンブルに対して取っている態度」です。「多くの子供や親はギャンブルを“無害な気晴らし”とみなし,麻薬やアルコールや暴力や乱交にかかわることと比べれば,もたらされる結果ははるかに取るに足りないものだと考えて」います。しかし,行動主義心理学者のカウンセラーであるデュランド・ジェイコブスは,ギャンブルが原因で若者は犯罪に走ったり,無断欠席をしたり,楽な金儲けに対する願望を抱いたりする場合があると警告しています。
例えば,若くしてギャンブルを始めたある高校生のことを考えてみましょう。この人は学校にいる時,授業時間の多くを他の生徒とギャンブルをすることに費やしました。負けて小遣いがなくなると,生徒たちが恵まれない家族に食料品を寄贈するために貯めていた基金から金を盗みました。盗んだ金を賭けることによって,以前のギャンブルの借金を支払うために質に入れた,家のテレビと縞めのうの指輪を請け出そうと思ったのです。中学3年生の時点で,1,500㌦を盗んだかどで青少年更正施設の中で20日間過ごした経験がありましたし,ダラー・アンテ・ポーカーやファイブ・ダラー・ア・ラック・プールにのめり込んでいました。「年齢が増すにつれて,賭ける額もますます高くなりました」とこの人は語っています。そのうちに,ギャンブルの借金を払うために近所の人のものを盗むようになり,母親は絶望しました。彼は18歳にしてギャンブル常習者になっていたのです。
社会学者によると,英国ではギャンブルを規制する法律が厳しくないので,子供たちはスロットマシンで遊ぶことができます。空港やショッピングセンターでは,大勢の子供たちが親の物を盗んだり,万引きしたりすることによって,ギャンブルの資金を調達しています。
「中学,高校,大学に通う若者の間で最も人気があり急速に広まっているギャンブルは,互いの間で行なわれるスポーツ賭博である。これは地元の呑み屋の後援で行なわれる場合もある。高校や大学で,良く組織された,高額の賭け金が動くスポーツ賭博の行なわれていないところはまずないだろう」とジェイコブスは述べています。これに加えて,カード・ゲーム,宝くじ,カジノがあります。年齢よりも上に見えるためにカジノに出入りできるティーンエージャーは少なくありません。
ジェイコブスは,「強調しなければならない点の一つは,ギャンブル常習者になった人のほとんどが,ティーンエージャーでギャンブルを始めた時に勝負に勝ったことをきっかけとしていることである」と述べています。「彼によると,若者たちの“圧倒的多数”は,ギャンブルをただのお遊びとして大目に見ていた親や親族から手ほどきを受けた」と,ロサンゼルス・タイムズ紙は続けました。物質乱用を扱う別のカウンセラーは次のように言い添えています。「親はアルコールや麻薬がらみの問題を扱ったときと同じ昔からの問題について考えなければならない。私の意見では,ギャンブルを発展させればさせるほど,新たにギャンブル常習者となる人は増える」。ギャンブル常習者を治療する専門家たちは,麻薬やアルコールの場合と全く同じように,ギャンブルにとりつかれた青少年が盗みや麻薬の売買や売春によってギャンブルの資金を調達する例が増えていると言います。親はギャンブルを“お遊び”とみなすかもしれませんが,警察当局はそのように考えてはいません。
「スロットマシンにとりつかれた子供たちは……大人のギャンブル常習者が示すのと全く同じ破壊的な特質を示した。こうしたスロットマシンの中毒になった若者たちがスロットマシンで遊び始めたのは9歳か10歳のころだったかもしれない。彼らは自分の小遣い,給食代,家にある小銭を使い果たした。一,二年もすると,少年たちは盗みを始めた。子供部屋にある物はバットや本だけでなく,レコードプレーヤーのような宝物まで何もかも売り払われ,他の子供たちは自分のおもちゃもなくなってしまったことに気づいたものだった。家にある物で安全なものは何一つなかった。ムーディーは,必死になった母親たちが自分の持ち物を一つの部屋に積み上げて見張っていることや,眠るときにはハンドバッグを寝具の下に隠さなければならないということを耳にした。そうした母親たちは気も狂わんばかりになっていて,自分の子供に何が起きているかを理解できなかった。巣ごもりの最中にかっこうに巣の卵を盗まれた鳥と同じである。それでも子供たちはどこからかまんまと盗み出した。16歳になるころには,警察官がドアをノックしていた」―「楽な金儲け: ギャンブラーの心理」,デービッド・スパニエール著。
これらの記事の中で指摘されていたように,多くの大人や若者は教会を通して,ビンゴや宝くじなどのギャンブルに初めて接しました。キリストの追随者をもって自任する宗教団体とその指導者たちがどんな形にせよギャンブルを奨励し,促進し,あおってよいでしょうか。とんでもないことです。ギャンブルはどれを取ってみても,人間の最も悪い特質の一つに働きかけます。それは,何もせずに何かを手に入れたいという願望,もっとはっきり言えば,貪欲です。ギャンブルを促進する者たちは,他の人の損失から利益を得るのは正当なことだと信じ込ませようとします。イエスなら,家族の崩壊や恥辱や不健康や人生の終わりをもたらすような活動を奨励されるでしょうか。決してそのようなことはされないでしょう。むしろ,霊感を受けて書かれた神の言葉は,貪欲な者が神の王国を受け継がないことをはっきりと示しています。―コリント第一 6:9,10。
親は,どんな形のギャンブルも間違っていることを幼い時から子供たちに教えなければなりません。ギャンブルをただの遊びと考えないでください。むしろ,怠惰とうそと欺きと不正直の始まりとみなしましょう。多くの都市では,賭博常習者更正会のような援助プログラムが設けられています。もっと重要なこととして,もしあなたが問題を抱えておられるなら,神の言葉聖書に含まれている霊感を受けた助言を求めてください。自殺を考えた人たちの中には,そうした霊感を受けた助言に留意したために命拾いをしたと言う人もいます。
興味深いことに,エホバの証人はギャンブル常習癖のわなに捕らわれた多くの人たちがそれから自由になるのを助けてきました。そうした人の一人で,以前ギャンブル常習者だった人は,何年にもわたり,ギャンブルにのめり込んでいただけでなく,数々の不道徳に関係してきましたが,次のように書いています。「ガールフレンドと私がエホバの証人と聖書を学ぶにつれて,行状は急速かつ劇的に変化し始めました。ギャンブルには病みつきにさせる力があり,非常に対処しにくいものであることが分かりました。エホバの助けとガールフレンドの支えのおかげで,また研究や祈りや黙想,特に貪欲に関する神の見方を黙想することによって,このギャンブル中毒を制御できるようになり,ガールフレンドと私はエホバに命を献げました。私たち二人は結婚してもう38年になります。私たちは必要の大きな所で長年全時間奉仕を行なってきましたし,私はものみの塔協会の旅行する代表者として奉仕してきましたが,私の悪癖はいまだになくなっておらず,エホバの助けと導きがあるからこそ制御できています」。
ギャンブルの問題を抱えている場合,中毒から自由になることはできるでしょうか。できます。これからも自ら神の助けを活用し,必要としているかもしれない他の人々に神の助けを差し伸べるなら,自由になれるのです。
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若者に関しては,そのうちに麻薬の問題よりもギャンブルの問題のほうが増える
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貪欲な者は神の王国を受け継がない
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ラスベガスのカトリック教会ではギャンブルのチップ大歓迎
モースト・ホーリー・リディーマー教会を訪れる人々はしばしば司祭にこう頼みます。「神父さま,私が勝てるように祈っていただけませんか」。
毎年世界中から非常に大勢の人が幸運の女神の気まぐれを試そうと米国ネバダ州ラスベガスを訪れます。温かな雰囲気の照明が施され,壁に沿ってイエスの降誕や最後の晩餐や磔刑を表わす像が並ぶこのローマ・カトリック教会の聖堂の内部では,ギャンブルのもうけが信者の席で使われます。礼拝する人たちはカジノのチップを寄付盆に入れるのです。
「寄付盆の一つに一枚500㌦のチップが載っていることもあります」と,穏やかなアイルランドなまりで言うのは同教会のリアリー神父です。
ラスベガスの大通りからかなり離れたところにあったローマ・カトリック教会は,何十年もの間,礼拝する人たちの必要を満たしていました。しかし,大通りの南端に,MGMグランド,ルクソール,エクスカリバー,トロピカーナといった,世界でも最大級のカジノ付きホテルが4軒建てられると,そこからほんの1ブロックしか離れていないところに新しいモースト・ホーリー・リディーマー教会が建てられました。
そうした理由を尋ねられた司祭は,次のように答えました。「そうしない理由があるでしょうか。そこに人々がいるのですから」。
そこにはお金もあります。そうであれば,そうしない理由があるでしょうか。
[9ページの図版]
ギャンブルは悪い交わりにつながる
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