-
杭につける聖書に対する洞察,第1巻
-
-
古典ギリシャ語でもコイネーでも,スタウロスには2本の材木で作られた“十字架”という考えは含まれていません。それは,柵,砦柵,もしくはとがり杭の柵に使われるような,まっすぐな杭,棒ぐい,パイル,または柱を意味しているにすぎません。ダグラス編,1985年版,新聖書辞典は,253ページの「十字架」の項で,「『十字架』に相当するギリシャ語(スタウロス; 動詞スタウロオー……)は第一に,まっすぐな杭もしくは梁材を意味し,第二に刑罰や処刑のための道具として使われた杭を意味する」と述べています。
ルカ,ペテロ,パウロはまた,スタウロスの同義語としてクシュロンを用いており,このこともイエスが横木のないまっすぐな杭につけられたことをさらに示す証拠となっています。というのは,それがこの特別の語義で使われた場合のクシュロンの意味するところだからです。(使徒 5:30; 10:39; 13:29; ガラ 3:13; ペテ一 2:24)クシュロンという語はギリシャ語セプトゥアギンタ訳でもエズラ 6章11節に出ており,その箇所では法を破る者を杭につけるのに使われた1本の梁材もしくは材木のことが述べられています。
ですから,新世界訳聖書はスタウロスを「苦しみの杭」,動詞スタウロオーを「杭につける」,つまり杭もしくは柱に留めるという意味に訳して,ギリシャ語本文のこの基本的な考えを読者に忠実に伝えています。このようにすれば,スタウロスと,教会で用いられている伝統的な十字架とが混同されることはありません。(「苦しみの杭」を参照。)聖書が述べているとおり,キレネのシモンのような一人の男が苦しみの杭を担ったとしても,それは全く妥当なことです。それがもし直径15㌢,長さ3.5㍍の杭だったとすれば,その重さは多分,45㌔そこそこだったことでしょう。―マル 15:21。
この問題に関して,W・E・バインの述べることに注目してください。「スタウロス(σταυρός)はおもに,まっすぐな棒ぐい,もしくは杭を指す。犯罪人はそのような杭にくぎづけにされて処刑された。この名詞も,杭もしくは棒ぐいに留めるという意味の動詞スタウロオーも,教会の用いている,2本の梁材を組み合わせた十字架の形とは本来区別されるべきものである」。
-
-
杭につける聖書に対する洞察,第1巻
-
-
J・D・パーソンズの著わした,「キリスト教に無関係の十字架」(ロンドン,1896年)と題する本は,さらにこう述べています。「新約聖書を構成している,ギリシャ語原語による数多くの著作には,どれを見ても,イエスの場合に用いられているスタウロスが普通のスタウロス以外のものであることを間接的にであれ証明する文章はただの一つもなく,ましてやそれが1本の木材ではなく,2本の木材が十字型に組まれて釘付けにされたものだということを示唆している文章など一つもない。……教会のギリシャ語文献を我々の言語に訳すに際してスタウロスという語に『十字架』を当てたこと,またスタウロスの意味として,注意深い説明を加えることなく辞典に『十字架』を挙げてこうした動きを支持したことは,我々の教師たちによる大きな誤りであった。加えるべき注意深い説明とは次のようなものである。すなわち,使徒時代には『十字架』はいずれにしてもこの語の第一義的な意味ではなかったこと,その後も長い間その第一義的な意味とはならなかったこと,またたとえその後そうなったとしても,それは,十分な確証がないにもかかわらず,イエスの処刑に用いられたスタウロスはその種の特定の形をしていたと何らかの理由で仮定されたからにほかならないということである」― 23,24ページ。コンパニオン・バイブル,1974年,付録,162項も参照。
-