お金のためにではなく,神のために働く
成田空港にほど近い,とある建設現場では4組の外国人の夫婦が忙しく立ち働く姿が見受けられました。しかし,この人たちは高い賃金を求めて日本に流れ込んで来る外国人労働者ではありません。アメリカ合衆国とカナダから,無償で自分たちの休暇の時間と技術を提供するために来日した自発奉仕者だったのです。この奉仕者たちは,ティルト・アップ工法aによる,エホバの証人の千葉大会ホールの外壁作製と取り付け作業に加わっていました。完成の暁には,その大会ホールで毎週末集中的な聖書教育が施されることになるでしょう。
外国からのこの働き人は自分たちの専門的な技術や経験を教えるためにやって来ました。その中にはフィリピンやアフリカで ものみの塔協会支部事務所のティルト・アップ工法によるプロジェクトに参加してきた人もいました。エホバの証人の間でこの人たちは国際建設自発奉仕者と呼ばれています。
国際建設自発奉仕者の必要
このホールの建設に当たって,「海外からの援助が必要だとは思ってもみませんでした」と,建設委員の一人は語っています。しかし,エホバの証人の国際建設プロジェクトの監督であるドン・アンダーウッドは,日本の建設奉仕者たちが国際建設自発奉仕者の働きから益を得られると見て取りました。日本支部はその提案に沿って,千葉大会ホールの建設を手伝う国際建設自発奉仕者の派遣を要請しました。
左官の仕事の心得のある日本人の奉仕者たちが海外からの働き人と働くよう割り当てられました。言語も通じないのに本当に益が得られるのでしょうか。「言葉は通じませんでしたが,左官の仕事には,“ゆっくり”,“たいら”,“まっすぐ”,“やわい”,“かたい”という五つの言葉があれば十分でした」と,アメリカで30年の左官の経験を持つ国際建設自発奉仕者は語っています。
考え方や用具の違いはありましたが,13人からなる日本人のコンクリート・チームは技術面で多くのことを学びました。例えば,“ゆっくり”コテを動かすことが強調されましたが,それはコテをゆっくり丁寧に動かし,同じ面を何度も往復せずに一度できれいに仕上げることであり,仕事を“ゆっくり”するようにということではありませんでした。しかし,それに加えて,学べることがほかにもあったのです。
仕事に対する態度
二組の夫婦は昨年の11月に到着しました。そのうちの一人は,飛行機が遅れたにもかかわらず,空港からその足で建設現場に直行して,そこを視察しました。夫たちは,翌朝のコンクリート流し込みに加わり,夜を徹して働きました。次の朝,朝食を取った後,年配のほうの働き人は,ほかの人たちと一緒にさらに丸1日働きました。仕事に対するこのような真しな取り組み方や勤勉さ,そして気さくな態度は,共に働く日本人の奉仕者にも刺激を与えました。
訓練を受けた一人の奉仕者は,「彼らの精神態度から学ぶことが多かった」と,述懐しています。コンクリートの仕上げをする場合,いくらかの凹凸がでても仕方がないと考えられています。ところが,国際建設自発奉仕者たちはそのような妥協を決して許しません。なぜでしょうか。「床が波を打っていれば,そこに取り付ける椅子がガタつくし,床に小さな穴でもあれば,女性の出席者のハイヒールのかかとが取られてしまうかもしれない」という点が指摘されました。自分たちの仕事は,人のためではなく,神のために建てることなのだという自覚がそのような考え方を抱かせていました。その結果,歪みのほとんど見当たらない,きれいなコンクリートが打ち上がりました。仕上げられたコンクリートの表面を見て,19年間左官業を営んできた日本人の奉仕者が,「こんな仕上げはこれまで見たことがない」と,感嘆の声を上げたほどです。
確かに,千葉大会ホールのティルト・アップ工法による建設計画にとって,この8人の外国人自発奉仕者の援助は貴重なものでした。8人はすでに自分の国に帰り,外国での自発的な奉仕にあずかる次の機会を待ち構えています。一方,共に働いた日本人もやはり自発的な奉仕者たちで,お金のためにではなく神のために心をこめてこの建設工事に携わり,エホバ神を賛美するためにのみ用いられるこの大会ホールの完成へ向けていよいよその働きに拍車をかけています。
[脚注]
a ティルト・アップ工法については,本誌1989年2月8日号,20ページをご覧ください。
[14ページの図版]
8人の国際建設自発奉仕者とアンダーウッド夫妻