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誘拐 ― 世界的なビジネス目ざめよ! 1999 | 12月22日
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誘拐 ― 世界的なビジネス
過去10年間に,誘拐事件は世界中で驚くほど急増しました。ある報告によると,1968年から1982年の間に,73の国で1,000人近い人が人質に取られました。しかし,1990年代の後半には,毎年2万人ないし3万人が誘拐されたと推定されています。
誘拐という犯罪は,ロシアからフィリピンに至るまで,世界中の犯罪者たちの間でブームになっているようです。誘拐犯は動いているものなら何でも奪い去ろうとします。ある時には,生後1日にも満たない赤ちゃんが誘拐されました。グアテマラでは,車いすに乗った84歳の女性がさらわれ,2か月間監禁されました。リオデジャネイロでは,街の暴漢が路上で人を連れ去り,時にはわずか100㌦の身の代金を要求することもあります。
動物でさえおちおちしてはいられないようです。何年か前のこと,タイの恥知らずの犯罪者たちは,働いている重さ6㌧の象をさらい,1,500㌦の身の代金を要求しました。メキシコの犯罪グループは,本物を誘拐する前にペットや家畜で十分経験を積むよう新入りたちに勧めているということです。
過去において,誘拐犯に狙われたのはおもに裕福な人たちでしたが,時代は変わりました。ロイター通信はこう伝えています。「グアテマラでは,誘拐事件が日常茶飯事となっており,人々は,左翼系の反逆者が一握りの裕福な実業家だけを狙っていた古き良き時代を懐かしく思っている。今では,裕福な人も貧しい人も,老いも若きも,一様に誘拐グループのえじきになっている」。
目立つ事件はたいていマスコミに大きく取り上げられますが,誘拐事件の圧倒的大多数は一般に知られることなく解決します。実際,幾つか理由があって「誘拐問題についてはあまり報道したがらない」国もあります。次の記事では,そうした理由を幾つか取り上げます。
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(正式に組んだものについては出版物を参照)
メキシコ
年間およそ2,000人が誘拐されるため,誘拐は“家内工業”と呼ばれている。
英国
ロンドンのロイズ保険組合の誘拐保険は,1990年以来,年間50%増加している。
ロシア
ロシア南部のカフカス地方だけで,誘拐事件の件数は,1996年の272件から1998年の1,500件に増加した。
フィリピン
アジアウィーク誌(英語)によると,「フィリピンはおそらくアジアの誘拐事件の中心地である」。この国では,40を超える組織化された誘拐グループが活動している。
ブラジル
この国の誘拐犯は,年間12億㌦の身の代金を稼ぐと言われている。
コロンビア
このところ,毎年何千人もの人が誘拐されている。1999年5月,反逆者たちはミサの最中に100人の教区民を誘拐した。
[クレジット]
Mountain High Maps® Copyright © 1997 Digital Wisdom, Inc.
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誘拐 ― 商業化されたテロ目ざめよ! 1999 | 12月22日
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誘拐 ― 商業化されたテロ
「誘拐は財産に対する犯罪行為のようなものではない。それは,最も基本的な人間集団である家族に対する,常軌を逸した残忍かつ冷酷な仕打ちである」と,マーク・ブレスは自著「誘拐ビジネス」(英語)の中で述べています。誘拐は,家族に感情的な動揺をもたらします。家族は,罪悪感,憎しみ,無力感などと闘う中で,時々刻々,希望と絶望のはざまを揺れ動きます。その悪夢は何日も何週間も何か月も,時には何年も続くことがあります。
誘拐犯は情け容赦なく金銭を要求するに際して,家族の感情につけ込みます。ある誘拐グループは,マスコミに宛てた次のような公開用の手紙を人質に書かせました。「この手紙を各地で公表するよう,マスコミ関係者にお願いしたい。そうなれば,わたしが戻らなかった場合の責任は,わたしを誘拐した者たちだけでなく,わたしより金を選んだわたしの家族にもあるということになる」。イタリアの誘拐犯たちは,人質の体の一部を切り取って親族やテレビ局に送りつけることにより,身の代金を払うよう圧力をかけてきました。メキシコのある誘拐犯は,人質を拷問にかけながら,電話で家族と交渉することさえしました。
一方,人質の機嫌を取ろうとする誘拐犯もいます。例えば,フィリピンで誘拐されたあるビジネスマンは,マニラ市内の豪華なホテルに監禁されました。誘拐犯たちは,身の代金が支払われるまで,ビジネスマンに酒を飲ませ,売春婦を呼んで接待しました。しかし,人質の大半は,身体面あるいは衛生面の必要をほとんど顧みられることなく監禁されます。残忍な虐待を受ける場合も少なくありません。いずれにしても,人質は自分がこれからどうなるのかを考え,その恐怖にいつもおびえていなければなりません。
心の傷に対処する
人質は解放された後も,長期に及ぶ感情的な痛手を負う場合があります。ソマリアで誘拐されたスウェーデン人の一看護婦は,次のような意見を述べました。「何よりも大切なのは,友人や親族に話し,必要なら専門家の助けを得なければならないということです」。
治療専門家たちは,そのような被害者たちを助ける治療法を開発しました。それは,被害者が家族と会って普段の生活に戻る前に,短い時間を数回取り,専門家の助けを受けながら自分の体験を分析する,という方法です。「事件後すぐに治療を受ければ,傷あとがいつまでも残る危険を減らすことができる」と,赤十字社の緊急治療の専門家リグモー・ギルベルグは述べています。
付加的な影響
誘拐事件の影響を受けるのは,被害者や家族だけではありません。誘拐への恐れのために観光旅行が中止されたり投資が鈍ったりする可能性があり,社会不安も生じさせます。フィリピンでは,1997年のわずか数か月間に,六つの国際企業が誘拐の脅威を理由に国外へ移転しました。「犯罪に抵抗する市民の会」という団体で働くフィリピン人の一女性は,「悪夢のような生活です」と強い口調で言いました。
アリゾナ・リパブリック紙(英語)のある記事は,「メキシコの管理職の間では,誘拐に対する恐れが今にもヒステリー発作を起こさせるまでになっているが,それも無理からぬことである」と述べています。ブラジルの雑誌「ベジャ」によると,ブラジルの子どもたちの悪夢に登場していた怪物は,誘拐犯や強盗に取って代わられました。台湾省では,誘拐を予防する方法が学校で教えられ,米国では,誘拐を防ぐために幼稚園に防犯カメラが設置されています。
安全コンサルタントがブームを呼ぶ
誘拐事件の増加とそれに関連した扱いにくい問題のために,民間の警備会社がブームを呼んでいます。ブラジルのリオデジャネイロ市にはそうした会社が500以上あり,18億㌦(約1,980億円)もの収益を上げています。
増え続ける国際的な警備会社は,誘拐の予防策を教え,危険地域に関する報告書を出し,身の代金の交渉を行ないます。また,家族や企業にアドバイスを与え,誘拐犯の手口を教え,家族が精神的に持ちこたえられるよう助けます。中には,人質が解放されてから,誘拐犯を捕まえて身の代金を回収しようとする会社さえあります。しかし,こうしたサービスは無料ではありません。
このような努力にもかかわらず,誘拐事件は多くの国々で増加しています。サイトリン・アンド・カンパニーの副社長リチャード・ジョンソンは中南米の状況について,「誘拐事件は今後も増えるとしか考えられない」と注解しています。
急増している理由
専門家たちは,近年そのように急激に増加した理由を数多く挙げています。一つは,地域的に深刻な経済状態が見られることです。ロシアのナルチクという町の一救助隊員は,「一番手っ取り早くお金を手に入れる方法は,だれもが知っているこの手,つまり誘拐だ」と語りました。旧ソ連の共和国の中には,地元の民兵の指揮官へ資金を供給するために誘拐が行なわれている場所もあると言われています。
かつてないほど多くの人が仕事や観光で旅行するようになったため,えじきを求める誘拐犯たちの前に新たな道が開かれています。誘拐される外国人の数は,5年間で2倍になりました。1991年から1997年の間に26の国や地域で観光客がさらわれました。
どんな人たちがそうした誘拐犯になるのでしょうか。武力紛争の一部鎮静化に伴い,以前兵士だった人たちが,お金もないまま職を失っています。そうした人々は,このもうかる商売を始めるのに必要な技術をすべて持ち合わせているのです。
同様に,銀行強盗に対する効果的な手段が講じられ,麻薬の取り締まりが厳重になったため,犯罪者たちは代わりの収入源として誘拐に手を出すようになっています。誘拐事件の専門家マイク・アッカーマンは,「あらゆる社会で財産に対する犯罪が難しくなっているため,いきおい,人に対する犯罪に走らざるを得ない」と説明しました。高額の身の代金を公表することも,潜在的な誘拐犯をその気にさせる可能性があります。
同じ動機とは限らない
ほとんどの誘拐犯が求めているのはお金であり,お金以外の何物でもありません。要求される身の代金の額は,ほんの数ドルから6,000万㌦(約66億円)という記録的な金額まで,さまざまです。後のほうの金額は香港のある大富豪のために支払われたものですが,結局その人が解放されることはありませんでした。
一方,宣伝効果を狙って,あるいは食物や薬やラジオや車,さらには新しい学校や道路や病院を要求するために人質を利用した誘拐犯もいます。アジアで誘拐されたある幹部職員は,誘拐犯にバスケット用のユニフォームとボールが与えられた後に解放されました。ある団体は,外国の投資家や観光客をおびえさせるために誘拐を利用します。その目的は,国土や天然資源の開発をやめさせることにあります。
ですから,誘拐の動機は幾つもあります。誘拐の手段も少なくありません。潜在的な誘拐犯や被害者も大勢います。では,解決策も同じほど十分にあるのでしょうか。どんな解決策があるでしょうか。それらは本当にこの問題を解決できるのでしょうか。それらの質問に答える前に,誘拐ビジネスがブームになっているさらに深い根本原因を幾つか考慮してみましょう。
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もしも誘拐されたら
この問題を研究してきた人たちは,誘拐される可能性のある人たちに次のように提言しています。
• 協力的な態度を示す。激しく抵抗しない。敵意を露骨に示す人質は厳しい扱いを受けやすく,殺されたり,目を付けられて処罰されたりする危険性が高い。
• 慌てない。誘拐された人のほとんどは生還できるということを思いに留める。
• 時間を計る方法を考え出す。
• 何らかの日課を定めるようにする。
• 体を動かす機会は限られているかもしれないが,運動をする。
• 観察力を働かせ,細かな点,音,においなどを覚えるようにする。誘拐犯たちを詳しく知る。
• 可能であれば雑談をして,接触を図るよう努める。もし誘拐犯があなたをひとりの人間とみなしてくれるなら,傷つけられたり殺されたりする可能性は低くなる。
• あなたが必要としている事柄を,礼儀正しい態度で相手に気づかせる。
• 身の代金についての交渉は,決して試みてはならない。
• 救出活動の行なわれていることが分かったなら,事態が展開する間,床にふせ,おとなしく待つ。
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誘拐保険 ― 論議を呼ぶ問題
誘拐事件の増加に伴ってにわかに活気づいたのは,保険業です。ロンドンのロイズ保険組合では,1990年代に誘拐保険が年間50%増加しました。ますます多くの企業がこうした保険を提供しています。この保険が保障しているのは,誘拐交渉人の援助と身の代金の支払いです。身の代金を回収する専門家の仕事が含まれることもあります。しかし,この保険の問題は大きな論議を呼んでいます。
誘拐保険に反対する人たちは,これは犯罪を商業化したもので,誘拐事件を利用してお金を稼ぐのは道義に反すると主張します。また,保険に入った人は自分の身の安全に無頓着になるかもしれず,その保険は金銭をゆすり取る誘拐犯の仕事を容易にすることにもなるので,結果として誘拐という犯罪行為を助長するとも言います。中には,保険は簡単に利用できるので,保険金を手に入れるために自分で自分の誘拐を計画するようになることを懸念する人もいます。誘拐保険はコロンビア,ドイツ,イタリアでは禁止されています。
誘拐保険を支持する人たちは,これも他の保険と同様,多くの人が少数の人の損失を埋め合わせるものだと指摘します。また,保険に入った家族や企業は資格ある専門家の助けが得られるので,ある程度の安心感が生まれるとも論じます。それらの専門家たちは,緊張を和らげ,身の代金の額を下げるための交渉を行ない,誘拐犯の逮捕をいっそう容易にできるからです。
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ストックホルム症候群
1974年に起きた,新聞王ランドルフ・A・ハーストの娘パティー・ハーストの誘拐事件は,驚くべき展開を見せました。彼女が誘拐犯に味方して,武装強盗の一味に加わったのです。また,誘拐されたスペインのサッカー選手の場合は,誘拐犯を許し,彼らの幸福を祈りました。
1970年代の初めに見られたこの現象は,1973年にスウェーデンのストックホルムの銀行で起きた人質事件にちなんで,ストックホルム症候群と名づけられました。その事件の際,人質の幾人かが誘拐犯と特別な友情を育んだのです。そのような交流は誘拐された人たちにとって保護となりました。「犯罪行動」(英語)という本はこう説明しています。「人質と誘拐犯が互いに知り合えば知り合うほど,互いに好感を持つようになる。この現象は,ある期間が経過すると,犯人が人質を傷つける可能性は低くなることを示している」。
チェチェンでレイプされた英国人の女性は,「見張りは,私たちをひとりの人間として知るようになったとき,レイプが間違っていることを理解したようです。彼はレイプするのをやめて謝罪しました」と語りました。
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誘拐 ― その根本原因目ざめよ! 1999 | 12月22日
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誘拐 ― その根本原因
誘拐は現代の疫病となっています。しかし,殺人,レイプ,窃盗,子どもに対する性的いたずら,さらには集団虐殺も,同じく疫病のような状況にあります。生活が危険にさらされ,人々が夜の外出をしばしば恐れるようになったのはなぜでしょうか。
このように,誘拐をはじめとする犯罪行為が急増した根本原因は,人間社会に深く根ざした欠陥と関係があります。聖書がほぼ2,000年前にこうした危険な時代を予告していたことをご存じでしたか。テモテ第二 3章2節から5節で予告されていた事柄について考えてみてください。
「人々は自分を愛する者,金を愛する者,うぬぼれる者,ごう慢な者,冒とくする者,親に不従順な者,感謝しない者,忠節でない者,自然の情愛を持たない者,容易に合意しない者,中傷する者,自制心のない者,粗暴な者,善良さを愛さない者,裏切る者,片意地な者,誇りのために思い上がる者,神を愛するより快楽を愛する者,敬虔な専心という形を取りながらその力において実質のない者とな(ります)」。
きっと皆さんは,遠い昔に記録されたこれらの言葉が,現在の状況を見事に描写していることに同意されるでしょう。わたしたちの時代に,人間社会の醜い欠陥が一気に吹き出しました。意味深いことに聖書には,人間の嘆かわしい振る舞いに関するこの描写に先立って,「終わりの日には,対処しにくい危機の時代が来ます」という言葉があります。(テモテ第二 3:1)では,誘拐事件急増の要因となっている大きな社会的欠陥を三つだけ考慮してみましょう。
法の施行の問題
「悪い業に対する刑の宣告が速やかに執行されなかったため,それゆえに人の子らの心はその中で悪を行なうよう凝り固まってしまった」― 伝道の書 8:11。
多くの警察には,犯罪行為の急増に対応できるだけの力がありません。ですから,多くの国において,誘拐は割りに合う犯罪なのです。1996年には,コロンビアの誘拐犯の中で,起訴されたのはわずか2%でした。メキシコでは,1997年に少なくとも2億㌦の身の代金が支払われました。フィリピンでは,小切手による身の代金の支払いさえ受け入れた誘拐犯もいます。
さらに,法の執行機関の腐敗が犯罪の効果的な取り締まりを妨げる場合もあります。メキシコ,コロンビア,旧ソ連の共和国では,エリートで成る誘拐対策チームの責任者が誘拐のかどで告発されています。フィリピンの上院議長ブラス・オプラは,アジアウィーク誌の中で,公式の数字によると,フィリピンで発生している誘拐事件の52%には現役あるいは退役した警察官や軍人が関与している,と述べています。メキシコのある悪名高い誘拐犯は,「市や州や連邦の警察官ならびに検察官に対する賄賂で固められた,公的な保護の壁」で守られていたと言われています。
貧困と社会的不公正
「わたしは日の下で行なわれているすべての虐げの行為を見ようとして自ら引き返した。すると,見よ,虐げられている者たちの涙がある。しかし,彼らには慰めてくれる者がいなかった。彼らを虐げる者たちの側には力があった」― 伝道の書 4:1。
今日多くの人々は,経済的にも社会的にも絶望的な状況にあり,大抵の場合,誘拐を行なうのはそうした人たちです。ですから,貧富の差が絶えず拡大し,まじめに生計を立てるのがとかく難しい世界では,誘拐への衝動が収まることはないでしょう。抑圧が存在するかぎり,誘拐は,耐え難い状況とみなされるものに反撃したり,注意を向けさせたりする手段として用いられることでしょう。
貪欲と愛の欠如
「金銭に対する愛はあらゆる有害な事柄の根で(す)」。(テモテ第一 6:10)「不法が増すために,大半の者の愛が冷えるでしょう」― マタイ 24:12。
歴史を通じて,人々は金銭に対する愛ゆえに極悪非道な事柄を行なってきました。それに,誘拐という犯罪と同じほど,人間の苦痛や悲嘆や絶望感を営利目的で利用する犯罪はほかにないでしょう。見知らぬ人を残忍に扱い,痛めつけ,その家族に何週間も何か月も,時には何年も残酷な試練を経験させるよう人を駆り立てているのは,大抵の場合,貪欲 ― 金銭に対する愛 ― なのです。
明らかに,お金を重視し,人間の価値を踏みにじる社会は,何かがひどく間違っています。こうした状況が,誘拐をはじめ,あらゆる種類の犯罪行為の温床となっていることは疑えません。
これはわたしたちが,聖書の述べる「終わりの日」にいることを意味しているのでしょうか。もしそうであれば,それはこの地球とわたしたちにとって何を意味することになるのでしょうか。誘拐をはじめ,人類が直面している恐ろしい問題の解決策はあるのでしょうか。
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今に始まったことではない
古く西暦前15世紀のモーセの律法は,誘拐犯に死刑を求めていました。(申命記 24:7)西暦前1世紀には,ユリウス・カエサルが身の代金目的で誘拐され,西暦12世紀には,イングランドの獅子心王リチャード1世が誘拐されました。これまでに支払われた最も高い身の代金は,1533年にインカ族が首長アタワルパの解放を求めてスペインの征服者フランシスコ・ピサロに支払った24㌧分の金銀でした。しかし,征服者たちはアタワルパを絞め殺してしまいました。
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誘拐 ― 解決策はあるか目ざめよ! 1999 | 12月22日
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誘拐 ― 解決策はあるか
「誘拐の問題は国民全体の忍耐の限界を超えるまでになっている。社会全体はこの悪と闘わねばならない」。ロシアのチェチェン共和国の首相がそのような叫びを上げたのは,誘拐事件に悩まされるチェチェンから,この災厄を根絶することを約束した時のことでした。
誘拐を根絶するのですか。それは称賛に値する目標です。しかし問題は,どのようにしてそうするのかということです。
払われている努力
コロンビア政府は誘拐事件に取り組むため,2,000人の秘密工作員と24人の検察官,さらには誘拐対策の特別な調整者を任命しました。ブラジルのリオデジャネイロではおよそ10万人を集めて,市内で発生するおびただしい数の誘拐事件に抗議するデモが行なわれました。ブラジルとコロンビアでは,軍隊まがいのグループが反撃を加え,誘拐犯の親族を誘拐しました。フィリピンでは,一部の人たちが私的制裁に訴えてきました。誘拐犯にリンチを加えたのです。
グアテマラ政府は誘拐犯に対する死刑を取り入れ,大統領は横行する誘拐を食い止めるために軍を動員しました。イタリアでは,政府が誘拐を阻止するために強硬な手段を採用しました。身の代金の支払いを違法とし,親族が身の代金を支払うことのないようお金や財産を凍結したのです。イタリアの当局者は,こうした手段によって誘拐が減少したと胸を張っています。しかし,批評家たちは,結果的に家族は秘密裏に事件の解決を図るようになり,そのために誘拐の公式の件数が減少するのである,と述べています。民間の安全コンサルタントは,イタリアにおける誘拐事件の数は,1980年代このかた,実際には2倍に増えたと推測しています。
多くの提案 ― わずかな解決策
誘拐された人たちの家族の多くにとって,実行できる解決策は一つしかないように思えます。それは,身の代金を払って愛する人をできるだけ早く救出することです。しかし専門家は,もし高額の身の代金をすぐに支払うなら,誘拐犯はその家族を狙いやすい標的だと考え,もう一度やって来るかもしれないと警告しています。あるいは,人質を解放する前に,2度目の身の代金を要求してくるかもしれません。
家族が高額の身の代金を払ったのに人質はすでに死んでいた,というケースもあります。それで専門家たちは,人質が生きている証拠を手に入れるまでは,決して身の代金を支払ったり,交渉をしたりしてはならないと述べています。そのような証拠は,人質になっている人しか答えられない質問を出し,その答えを得ることによっても入手できるかもしれません。人質になっている人が最近の新聞を持った写真を要求する家族もいます。
救出活動についてはどうでしょうか。救出にはしばしば大きな危険が付きまといます。誘拐事件の専門家ブライアン・ジェンキンズは,「中南米では,人質全体の79%が,救出が試みられている間に殺される」と述べています。とはいえ,救出が成功することもあります。
多くの解決策が誘拐の予防に焦点を当てているのも驚くにはあたりません。誘拐を予防しようとしているのは,政府当局だけではありません。新聞は,誘拐されないようにする方法や,走っている車から飛び降りる方法,心理的に誘拐犯の裏をかく方法などを人々に教えています。格闘技の道場には,誘拐から身を守るためのコースがあります。企業は,子どもの歯に埋め込むことのできる,1万5,000㌦(約165万円)の超小型送信機を販売しています。子どもが誘拐された場合,警察はそれを頼りに子どもの行方を突き止めるのです。自動車会社は,経済的に余裕のある人たちのために,“誘拐防止”車を製造しています。催涙ガス噴射機,射撃口,防弾ガラス,切れないタイヤ,油膜噴射機などを搭載した車です。
裕福な人の中には,ボディーガードを解決策とみなす人もいます。しかし,警備関係の専門家フランシスコ・ゴメス・レルマは,メキシコの状況に関して,『ボディーガードは人目に付くだけでなく,誘拐犯と結託する恐れもあるため,何の助けにもならない』と述べています。
誘拐の問題は非常に複雑で,原因も根深いため,誘拐を根絶するには人間の力は不十分に思えます。では,真の解決策はないのでしょうか。
有効な解決策
本誌は,人類が直面しているこうした問題すべてに対する唯一の真の解決策を繰り返し指摘してきました。その解決策は,神のみ子イエス・キリストが追随者たちに教えた次の祈りの中に指し示されています。「あなたの王国が来ますように。あなたのご意志が天におけると同じように,地上においてもなされますように」― マタイ 6:10。
明らかにわたしたちは,地上の多種多様な人間の物事を管理する義の世界政府,そうです,イエスの語っておられた神の王国を必要としています。人間はそのような政府を設立できなかったので,わたしたちが創造者であるエホバ神に目を向けるのは賢明なことです。み言葉 聖書は,エホバがまさにそのような政府の設立を意図されたことを述べています。―詩編 83:18。
預言者ダニエルはエホバの目的について記録し,こう書いています。「それらの王たちの日に,天の神は決して滅びることのないひとつの王国を立てられます。……それはこれらのすべての王国を打ち砕いて終わらせ,それ自体は定めのない時に至るまで続きます」。(ダニエル 2:44)聖書はこの神の政府が,誘拐をはじめとするすべての犯罪行為を根絶するためにどのように段階的に事を進めてゆくかを説明しています。
適切な教育は肝要
誘拐の問題を解決するには,人々に健全な価値観を教え込むことが肝要であることにあなたも同意なさるでしょう。一例として,すべての人が聖書の次の勧めに留意するなら,人間社会にどんな影響が及ぶかを考えてみてください。「あなた方の生活態度は金銭に対する愛のないものとしなさい。そして,今あるもので満足しなさい」。(ヘブライ 13:5)「あなた方は,互いに愛し合うことのほかは,だれにも何も負ってはなりません」― ローマ 13:8。
全世界の230余りの国や地域でエホバの証人が実施している教育プログラムについて考慮すれば,生活がどのようなものになり得るかをかいま見ることができます。この教育プログラムは,以前に貪欲だったり,危険な犯罪者だったりした多くの人に健全な影響を与えてきました。誘拐犯だったある人は,「やがて私は,神に喜んでいただくには古い人格を脱ぎ捨てて,キリスト・イエスのような柔和な新しい人格を身に着けなければならないということを悟りました」と述べました。
とはいえ,優れた教育プログラムがあってもすべての犯罪者が改心するわけではありません。恐らくほとんどの人はそうしないでしょう。では,変化しようとしない人たちはどうなるのでしょうか。
悪を行なう者たちを除く
故意に悪を行なう者たちは神の王国の臣民になることはできません。聖書はこう述べています。「あなた方は,不義の者が神の王国を受け継がないことを知らないとでもいうのですか。惑わされてはなりません。淫行の者,……貪欲な者……はいずれも神の王国を受け継がないのです」。(コリント第一 6:9,10)「廉直な者たちが地に住み,……邪悪な者たちは地から断ち滅ぼされ(る)」― 箴言 2:21,22。
古代の神の律法によると,悔い改めない誘拐者は死に処されることになっていました。(申命記 24:7)誘拐者のような貪欲な人たちが神の王国で占めるべき場はありません。今日の犯罪者たちは人間の裁きを免れることはできるかもしれませんが,神の裁きを免れることはできません。だれであれ悪を行なう者たちは,エホバの義にかなった王国の支配のもとで生活したいと思うのであれば,自分の生き方を変える必要があります。
当然のことながら,もし犯罪行為の温床がなくならないなら,犯罪もなくならないでしょう。しかし,神の王国はそのようなことを許しません。聖書は「王国」が,悪を行なうすべての者たちを含め,「これらのすべての王国を打ち砕いて終わらせ(る)」ことを約束しているからです。この聖書の預言は続けて,神の王国は定めのない時に至るまで続く,と述べています。(ダニエル 2:44)その時に生じる変化を想像してみてください。
義の新しい世
別の聖書預言について考えてみましょう。その預言は,将来の様子を次のような言葉で美しく描写しています。「彼らは必ず家を建てて住み,必ずぶどう園を設けてその実を食べる。彼らが建てて,だれかほかの者が住むことはない。彼らが植えて,だれかほかの者が食べることはない。わたしの民の日数は木の日数のようになり,わたしの選ぶ者たちは自分の手の業を存分に用いるからである」― イザヤ 65:21,22。
神の王国は地球全体を一変させます。生きている人は皆,生活を心ゆくまで楽しみ,満足をもたらす仕事や健全なレクリエーションを行なうことによって,自分の持つ生来の能力を伸ばすことができます。だれ一人,隣人を誘拐することなど考えもしない状態が全世界に行き渡ります。安心感が満ちあふれるのです。(ミカ 4:4)このように,神の王国は,誘拐が世界中で脅威となっている現状を変化させ,だれ一人誘拐のことなど考えもしない,歴史の新しい章をもたらすことでしょう。―イザヤ 65:17。
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