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モーセの信仰に倣いましょうものみの塔 2014 | 4月15日
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モーセの信仰に倣いましょう
「信仰によって,モーセは,成人した時,ファラオの娘の子と呼ばれることを拒み(ました)」。―ヘブ 11:24。
1,2. (イ)モーセは40歳の時に,どんな決定を下しますか。(冒頭の挿絵を参照。)(ロ)モーセが神の民と共に虐待される生活を選んだのは,なぜですか。
モーセはエジプトで得られるものを知っていました。裕福な人たちは広い屋敷に住んでいました。王室の一員であったモーセは,人文科学・天文学・数学など,「エジプト人の知恵をことごとく教授され」ていました。(使徒 7:22)普通のエジプト人にとっては夢でしかない富と権力と特権が,手の届くところにあったのです。
2 しかしモーセは,40歳の時にある決定を下します。モーセを養子にしたエジプトの王家の人たちは戸惑ったに違いありません。モーセはエジプト人の“普通の”生活にさえ背を向け,奴隷たちと共に生活することを選んだのです。なぜでしょうか。信仰を持っていたからです。(ヘブライ 11:24-26を読む。)モーセは信仰によって,目に見える事柄よりもずっと多くのことを見ていました。霊的な人として,「見えない方」エホバと,神の約束の成就に対する信仰を抱いていたのです。―ヘブ 11:27。
3. この記事では,どんな3つの質問を取り上げますか。
3 わたしたちも,目に見える事柄以上のものを見る必要があります。「信仰を抱(く)者」でなければなりません。(ヘブ 10:38,39)では,信仰を強めるために,ヘブライ 11章24-26節を調べ,次の質問に答えてみましょう。モーセはどのように,信仰によって肉の欲望を退けることができましたか。モーセが非難された時,信仰は奉仕の特権の価値を認識するうえでどのように助けになりましたか。モーセが「報いを一心に」見つめたのはなぜですか。
肉の欲望を退けた
4. 『罪の楽しみ』について,モーセは何を理解していましたか。
4 物事を信仰の目で見ていたモーセは,『罪の楽しみ』が一時的であることを理解していました。しかし,こう考えた人もいるでしょう。「エジプトは偶像礼拝と心霊術にどっぷり浸かっているが,世界強国だ。ところが,エホバの民は奴隷だ」。それでもモーセは,神には事態を変化させる力があることを知っていました。自己中心的な人たちが栄えているように見えても,そうした邪悪な者たちはやがて朽ち果ててしまうという信仰がありました。ですから,「罪の一時的な楽しみ」の誘惑に屈することはありませんでした。
5. どうすれば「罪の一時的な楽しみ」に抵抗できますか。
5 どうすれば「罪の一時的な楽しみ」に抵抗できますか。罪の快楽は束の間であることを忘れてはなりません。「世は過ぎ去りつつあり,その欲望も同じです」。そのことを信仰によって理解してください。(ヨハ一 2:15-17)悔い改めない罪人が将来どうなるかを黙想してください。彼らは「滑りやすい地」におり,怖ろしい「終わりを迎え」ます。(詩 73:18,19)罪を犯すよう誘惑されたなら,「自分はどんな将来を望んでいるのだろうか」と考えてください。
6. (イ)モーセが「ファラオの娘の子と呼ばれること」を拒んだのは,なぜですか。(ロ)モーセが正しい決定を下したのは,なぜだと思いますか。
6 モーセの生き方を決定づけたのも,信仰です。「信仰によって,モーセは,成人した時,ファラオの娘の子と呼ばれることを拒み」ました。(ヘブ 11:24)モーセは,王室の一員として神に仕えていれば,自分の富と特権を用いてイスラエル人を助けられる,とは考えませんでした。むしろ,心と魂と力をつくしてエホバを愛そう,と決めました。(申 6:5)そう決めたので,モーセは多くの心痛を免れることができました。エジプトの宝の多くは,程なくしてイスラエルの手ではぎ取られることになりました。(出 12:35,36)ファラオは辱められ,処刑されました。(詩 136:15)逆にモーセは死を免れ,イスラエル国民を安全な場所へと導くために用いられました。その人生はまさに意義深いものでした。
7. (イ)マタイ 6章19-21節によると,目先の将来ではなく,その先を見るべきなのはなぜですか。(ロ)物質的な宝と霊的な宝の違いを際立たせる経験を述べてください。
7 若い皆さん,生き方を決める際,信仰はどのように助けになると思いますか。将来の計画を立てるのは賢明なことですが,神の約束に対する信仰がある人は目先の将来だけを考えるでしょうか。それとも永遠の将来を見据えて計画を立てますか。(マタイ 6:19-21を読む。)ある優秀なバレリーナも,その質問に直面しました。ソフィーという女性です。この人は米国各地のバレエ団から,奨学金に加え,高い地位を約束されていました。こう語ります。「熱烈な賛辞に胸がときめきました。実際わたしは,仲間のダンサーより優れていると思っていました。でも幸せではありませんでした」。そのころソフィーは,「若い人は尋ねる ― どんな生き方をしたらよいのだろう」というビデオを見ます。「これを見て気づきました。世は成功とファンからの熱烈な賛辞を与えてくれましたが,その代わりに,エホバへの心のこもった崇拝を奪い取っていたのです。それで真剣にエホバに祈り,バレリーナの道を捨てました」と述べています。ソフィーはこの決定をどう思っているでしょうか。「以前の生活を懐かしいとは思いません。今わたしは100%幸福です。夫と共に開拓奉仕をしています。今は有名でも裕福でもありません。でもエホバがいます。研究生がいます。霊的な目標があります。自分の決定を後悔したことは一度もありません」。
8. 若い人が生き方を決定するうえで,聖書のどんな諭しは助けになりますか。
8 エホバはあなたにとって最善の事柄をご存じです。モーセはこう言いました。「あなたの神エホバが求めておられることは,あなたの神エホバを恐れてそのすべての道を歩み,神を愛し,心をつくし魂をつくしてあなたの神エホバに仕えること,わたしが今日命じるエホバのおきてと法令をあなたの益のために守ること,ただそれだけではないか」。(申 10:12,13)若いうちに,「心をつくし魂をつくして」エホバを愛する生き方を選んでください。そうした生き方は確かに,「あなたの益」になるのです。
奉仕の特権の価値を認識していた
9. モーセにとって,自分の割り当てを果たすことが簡単ではなかったと思われる理由を説明してください。
9 モーセは「キリストの非難をエジプトの宝に勝る富とみなし」ました。(ヘブ 11:26)モーセは「キリスト」すなわち「油そそがれた者」として任命されていました。つまり,イスラエルをエジプトから導き出す者としてエホバから選ばれた人でした。この務めが簡単ではなく,「非難」さえ受けることをモーセは知っていました。あるイスラエル人から以前,「だれがあなたを我々の上に君また裁き人として任命したのか」と言われたからです。(出 2:13,14)後にモーセは,「どうしてファラオがわたしの言葉を聴き入れたりするでしょうか」と,エホバに訴えています。(出 6:12)モーセは自分の恐れや不安をエホバに伝えました。これから受ける非難に対する心構えをし,それに対処するためです。この難しい割り当てを果たせるよう,エホバはどのようにモーセを助けたでしょうか。
10. エホバはどのように,モーセが割り当てを果たせるよう備えさせましたか。
10 第一に,エホバは,「わたしがあなたと共にいる」とモーセに保証されました。(出 3:12)第二に,ご自分の名には,「自分がなるところのものとなる」という意味があることを述べ,確信を吹き込みました。a (出 3:14)第三に,ご自分がモーセを遣わしたことを証明する奇跡的な力を授けました。(出 4:2-5)第四に,モーセが割り当てを果たせるように,代弁者となるパートナーとして,アロンを与えました。(出 4:14-16)モーセは晩年,神がご自分の僕たちにどんな割り当てでも果たせるよう備えさせてくださることを強く確信していました。ですから後継者のヨシュアにこう断言できました。「エホバがあなたの前を進んで行かれる。自ら常にあなたと共にいてくださる。あなたを見捨てたり,全く見放したりはされない。恐れたりおびえたりしてはいけない」。―申 31:8。
11. モーセが自分の割り当てを貴重なものとみなしたのは,なぜですか。
11 モーセの割り当ては途方もなく難しいものでした。しかしモーセはエホバの後ろ盾を得て,自分の割り当てを「エジプトの宝に勝る」貴重なものとみなしました。そもそも,全能の神に仕えることに比べたら,ファラオに仕えることなど何の意味もありません。「キリスト」つまりエホバの油そそがれた者として任命されることに比べたら,エジプトの王子になることなど,何の価値もありません。モーセのそうした正しい認識は報われました。エホバとの特別に親しい関係に入ることができたからです。エホバは,モーセに「大いに畏敬すべき」力を与えて,イスラエル人を約束の地に導き入れることができるようにされました。―申 34:10-12。
12. エホバからのどんな特権を,貴重なものとみなすべきですか。
12 わたしたちにも務めがあります。エホバはみ子を通して,使徒パウロなどの場合と同じく,奉仕の務めを割り当ててくださいました。(テモテ第一 1:12-14を読む。)どんな人にも,良いたよりをふれ告げる特権があります。(マタ 24:14; 28:19,20)全時間奉仕を行なっている人たちもいます。円熟した兄弟たちは,奉仕の僕や長老として仕えています。しかし,未信者の家族などが,そうした特権の価値を理解できず,自己犠牲的な生き方を非難するかもしれません。(マタ 10:34-37)そうした影響に屈するなら,どうなりますか。自分の払う犠牲には価値があるのだろうか,この割り当てを本当に果たせるのだろうか,と思い始めるかもしれません。そのようなとき,頑張り続けるために,信仰はどのように助けになりますか。
13. エホバは,わたしたちが神権的な割り当てを果たせるよう,どのように備えさせてくださいますか。
13 信仰のうちに,エホバに支えを願い求め,自分の恐れや不安を伝えてください。あなたに奉仕の務めを与えたのはエホバです。ですから,成功するよう助けてくださいます。どのようにでしょうか。モーセの場合と同じです。第一に,エホバはあなたにもこう保証しておられます。「わたしはあなたを強くする。わたしはあなたを本当に助ける。わたしはわたしの義の右手であなたを本当にしっかりととらえておく」。(イザ 41:10)第二に,ご自分の約束が信頼できることを次のように思い起こさせておられます。「わたしはそれを話したのである。わたしはまた,それをもたらすであろう。わたしはそれを形造ったのであり,また,それを行なうであろう」。(イザ 46:11)第三に,奉仕の務めを成し遂げることができるよう,『普通を超えた力』を授けてくださいます。(コリ二 4:7)第四に,気遣いの深い父エホバは,わたしたちが忍耐して割り当てを果たせるよう,世界中に仲間の兄弟たちを備えておられます。「互いに慰め,互いに築き上げる」真の崇拝者たちです。(テサ一 5:11)そうした備えにより,信仰は強まり,エホバへの奉仕における特権を,地上の宝よりも価値ある富として認識できるようになるでしょう。
「報いを一心に見つめた」
14. モーセが報いを確信していたのはなぜですか。
14 モーセは「報いを一心に見つめ」ました。(ヘブ 11:26)モーセの見方は,将来に関する知識によって形作られました。当時のその知識は限られていましたが,アブラハムのように,エホバが死者を復活させると確信していました。(ルカ 20:37,38。ヘブ 11:17-19)将来の祝福の見込みがあったので,逃亡者としての40年間と荒野での40年間を,無駄とは見ませんでした。神の目的がどのように進展してゆくか,その詳細は知りませんでしたが,信仰の目によって,見えない報いを見ることができました。
15,16. (イ)報いを一心に見つめる必要があるのは,なぜですか。(ロ)あなたは,王国の支配下でのどんな祝福を期待していますか。
15 あなたも「報いを一心に見つめ」ていますか。モーセと同じく,わたしたちも神の約束の詳細を知りません。例えば,大患難が始まる「定められた時がいつかを」知りません。(マル 13:32,33)それでも,将来の楽園について,モーセよりはるかに多くを知っています。すべての詳細が分からなくても,王国のもとでの生活に関する神の約束は,「一心に」見つめるだけの価値があります。そのようにして新しい世に関する明確なイメージを持つなら,王国を第一に求めるようになります。例えで考えてみましょう。家を買う時,その家のことをあまり知らずに買うことはないでしょう。同様に,漠然とした希望を追いかけて時間を費やすことなど,しないはずです。ですからわたしたちは,王国の支配下での生活に関する明確なイメージを,信仰によって思い描かなければならないのです。
モーセのような忠実な僕たちと話すのは,わくわくする経験(16節を参照)
16 神の王国に関するイメージを鮮明にするため,楽園での自分の生活を「一心に」見つめてください。想像力を働かせましょう。例えば,キリスト以前の聖書中の人物について学んだなら,その人が復活してきた時にどんな質問ができるか,またその人から終わりの日の生活について何を尋ねられるか,考えてください。さらにイメージを膨らませましょう。何世紀も前の先祖と会い,神が行なわれた事柄を教えるのは,わくわくする経験です。何の危険も感じることなく多くの野生動物を観察して学ぶのも,どきどきする経験です。それだけではありません。完全な状態に近づくにつれ,エホバをいよいよ身近に感じることができるのです。
17. 今日,見えない報いを明確にイメージすることは,どのように助けになりますか。
17 見えない報いを明確にイメージできれば,前進を続け,喜びを持ち,永遠に続く安全な生活を見据えた決定を下せます。パウロは油そそがれた人たちにこう書きました。「見ていないものに希望を抱くのであれば,わたしたちは忍耐してそれを待ちつづけるのです」。(ロマ 8:25)この言葉は永遠の命の希望を持つすべてのクリスチャンに当てはまります。まだ報いを得ていないとしても,信仰は強力なので,わたしたちは忍耐して「報い」を待ちつづけます。エホバに何年仕えてきたとしても,モーセと同じく,その時間を無駄とはみなしません。「見えるものは一時的」なのに対して,「見えないものは永遠」に続く,という確信があるからです。―コリント第二 4:16-18を読む。
18,19. (イ)信仰を保つために闘うべきなのは,なぜですか。(ロ)次の記事ではどんな点を考慮しますか。
18 信仰があれば,「見えない実体についての納得させる証拠」を識別できます。(ヘブ 11:1; 脚注)物質の人はエホバに仕えることの貴重な価値を理解しません。そのような人にとって,霊的な宝は「愚かなこと」です。(コリ一 2:14)しかしわたしたちは,永遠の命を得て復活を目撃したいと願います。今の世では見ることのできない事柄です。今日の大半の人たちは,パウロを無知な「おしゃべり」と呼んだ当時の哲学者たちのように,わたしたちが宣べ伝える希望は無意味だと考えます。―使徒 17:18。
19 わたしたちは信仰のない世に囲まれているので,信仰を保つために闘わなければなりません。「信仰が尽きないように」エホバに祈願してください。(ルカ 22:32)罪の結果やエホバに仕えることの優れた価値,永遠の命の希望にしっかり目を向けてください。しかしモーセの場合は,もっと多くのことを信仰によって見ることができました。次の記事では,モーセがどのように信仰によって「見えない方」を見ることができたかを調べましょう。―ヘブ 11:27。
a 出エジプト記 3章14節のこの言葉について,ある聖書学者はこう書いています。「何ものも神がご意志を果たすのを妨げることはできない。……この名[エホバ]はイスラエルの要塞,さらには希望と慰めの無限の宝庫となることになっていた」。
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「見えない方」を見ていますかものみの塔 2014 | 4月15日
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「見えない方」を見ていますか
「彼は,見えない方を見ているように終始確固としていたのです」。―ヘブ 11:27。
1,2. (イ)モーセが危険な状態にあったと思われるのはなぜですか。説明してください。(冒頭の挿絵を参照。)(ロ)モーセが王の怒りを恐れなかったのはなぜですか。
ファラオはエジプト人にとって,生き神のような恐るべき支配者でした。「エジプトが東方を支配した時」(英語)という本によれば,ファラオは「知恵と力において,あらゆる地上の生き物に勝る」存在でした。ファラオの王冠には,鎌首をもたげたコブラがあしらわれていました。王に逆らう者は直ちに命を奪われる,という恐れを抱かせるためです。では,エホバから次のように命じられたモーセはどう感じたでしょうか。「わたしはあなたをファラオのもとに遣わそう。あなたは,わたしの民であるイスラエルの子らをエジプトから導き出すのである」。―出 3:10。
2 モーセはエジプトに行き,ファラオに神の音信を告げます。激怒したファラオは,エジプトの地が9つの災厄に見舞われた後,モーセにこう警告します。「よく気を付けて,二度とわたしの顔を見ようとするな。わたしの顔を見るその日にお前は死ぬことになるからだ」。(出 10:28)モーセはファラオのもとを去る前に,王の長子の死を預言します。(出 11:4-8)それからイスラエル人のすべての家族に,やぎか雄羊を殺してその血を家の戸口に掛けるように命じます。雄羊はエジプトの神ラーにとって神聖な動物でした。(出 12:5-7)ファラオはどうするでしょうか。モーセはファラオの反応を恐れずエホバに従いました。聖書はこう述べています。モーセは「王の怒りを恐れることはありませんでした。彼は,見えない方を見ているように終始確固としていたのです」。―ヘブライ 11:27,28を読む。
3. 「見えない方」に対するモーセの信仰について,これからどんな点を調べますか。
3 あなたの信仰は,「神を見る」ことができるほど強いものですか。(マタ 5:8)では,どうすれば「見えない方」が見えるよう霊的な視力を鋭くできるでしょうか。モーセについて考えましょう。モーセはエホバに対する信仰により,人への恐れに負けないようどのように助けられましたか。神の約束に対する信仰をどのように示しましたか。自分と民が危険な状態にあった時にも,「見えない方」を見ることによって,どのように強められましたか。
「王の怒り」を恐れなかった
4. ファラオの前に出たモーセを見て,信仰のない人たちはどう思ったかもしれませんか。
4 信仰のない人たちから見れば,強大なファラオの前でモーセは無力に思えたかもしれません。モーセの命も将来も,ファラオの手のうちにあるかのようでした。モーセ自身エホバに,「一体この私が何者だというのでファラオのもとに行ったり,イスラエルの子らをエジプトから導き出したりすることになるのでしょうか」と訴えています。(出 3:11)その40年ほど前,モーセはエジプトから逃亡しました。ですから,「エジプトに戻って王を怒らせるのは,本当に賢いことだろうか」と考えたかもしれません。
5,6. モーセがファラオではなくエホバを恐れることができたのは,なぜですか。
5 モーセがエジプトに戻る前,神はモーセに重要な教訓を与えました。後にモーセはその教訓を,ヨブ記の中にこう記しています。「エホバへの恐れ ― これこそ知恵であ(る)」。(ヨブ 28:28)モーセがそうした恐れを培い,賢明に行動できるよう,全能の神エホバは人間とご自分の違いを強調し,こう尋ねておられます。「だれが人のために口を設けたのか。だれが口のきけない者や耳の聞こえない者を,視力のさえた者や盲目の者を設けるのか。それはわたし,エホバではないか」。―出 4:11。
6 では,ここから何を学べますか。モーセは恐れる必要がありませんでした。エホバは,ご自分の音信をファラオに伝えるうえで必要なものは何でもモーセにお与えになるのです。ファラオなどエホバのみ前では取るに足りません。神の僕たちはこれ以前にも,エジプトの支配下で危険にさらされたことがありました。モーセは,エホバがどのようにファラオの手からアブラハムやヨセフを,そして自分自身を保護してくださったかを黙想したことでしょう。(創 12:17-19; 41:14,39-41。出 1:22–2:10)モーセは「見えない方」エホバへの信仰に満たされ,勇敢にファラオの前に出,エホバから命じられた言葉をことごとく伝えました。
7. ある姉妹は,どのように信仰によって守られましたか。
7 エラという姉妹が人への恐れに屈しなかったのも,信仰によりました。姉妹は1949年,エストニアでKGBに逮捕され,衣服をすべて脱がされ,若い警察官たちにじろじろ見られました。姉妹はその時のことをこう説明しています。「非常に恥ずかしい思いをしました。しかしエホバに祈ったあとは,安らかで穏やかな気持ちに包まれました」。次いで姉妹は,3日間独房に入れられます。姉妹の話は続きます。「役人はこう怒鳴りました。『エホバという名をエストニアから永久に消してやる! お前は収容所行きで,ほかのやつらはシベリア行きだ!』 そしてあざけるように,『お前のエホバはどこにいる?』と言いました」。姉妹は人を恐れましたか。それともエホバを信頼しましたか。尋問された時にも恐れずに語り,あざける者たちにこう言いました。「このことについては十分に考えましたが,わたしとしては,自由になって神の是認を失うよりも,たとえ牢獄の中であろうとも神との関係を保つほうを選びます」。この姉妹にとってエホバは,目の前に立っている男たちと同じほど現実の存在だったのです。姉妹は信仰によって忠誠を保ちました。
8,9. (イ)人への恐れを克服する手段となるのは,何ですか。(ロ)人への恐れに負けてしまいそうなときは,ひたすらだれに目を向けるべきですか。
8 エホバへの信仰があれば,恐れを克服できます。政府当局が神への崇拝をやめさせようとするとき,自分の命も将来も当局者の手のうちにあると思えるかもしれません。また,「今後もエホバに仕えて,権威者たちを怒らせるのは賢明だろうか」と,不安になるかもしれません。忘れないでください。神への信仰こそが,人への恐れを克服する手段なのです。(箴言 29:25を読む。)エホバはこう問いかけておられます。「死んでゆく死すべき人間を恐れ,ただの青草のようにされる人間の子を恐れるとは,あなたはだれなのか」。―イザ 51:12,13。
9 ひたすら全能の父に目を向けてください。この方は,不公正な支配者のもとで苦しむ人たちを見,その気持ちをくみ取り,行動してくださいます。(出 3:7-10)政府当局の前で信仰を弁明する必要があっても,「どのように,または何を話そうかと思い煩ってはなりません。話すべきことはその時あなた方に与えられるからです」。(マタ 10:18-20)人間の支配者も政府当局者も,エホバと比べれば取るに足りません。いま信仰を強めるなら,エホバのことを,あなたを助けたいと強く願っておられる現実の存在と見ることができるようになります。
神の約束に信仰を働かせた
10. (イ)西暦前1513年のニサンの月,エホバはイスラエル人にどんな指示を与えましたか。(ロ)モーセが神の指示に従ったのはなぜですか。
10 西暦前1513年のニサンの月,エホバはモーセとアロンに,次のような指示をイスラエル人に伝えるよう命じます。きずのない雄羊かやぎを選んでほふり,その血を戸口に掛けるように,という異例の指示でした。(出 12:3-7)モーセはどうしましたか。使徒パウロはこう書いています。「信仰によって,彼は過ぎ越しと血を掛けることとを執り行ない,滅ぼす者が自分たちの初子に触れないようにしました」。(ヘブ 11:28)エホバが信頼できる方であることを知っていたモーセは,エジプトの長子を殺すというエホバの約束に信仰を働かせました。
11. モーセはなぜイスラエル人に警告を与えましたか。
11 モーセは仲間を愛していました。自分の息子たちは,遠く離れた安全なミディアンにいたようですが,神の命令どおり,長子が危険にさらされていたイスラエル人の家族に警告を伝えました。(出 18:1-6)モーセは長子の命を「滅ぼす者」a から救うため,直ちに「イスラエルのすべての年長者を呼んで」,「過ぎ越しのいけにえをほふりなさい」と言います。―出 12:21。
12. エホバは,どんな重要な音信を伝えるよう,わたしたちに命じておられますか。
12 今エホバの民は,み使いに導かれ,次の重要な音信を伝えています。「神を恐れ,神に栄光を帰せよ。神による裁きの時が到来したからである。それゆえ,天と地と海と水のわき出るところとを造られた方を崇拝せよ」。(啓 14:7)今こそ,その音信をふれ告げるべき時です。大いなるバビロンから出て,「彼女の災厄を共に受けること」がないよう,隣人に警告すべきです。(啓 18:4)「ほかの羊」は油そそがれた者たちと共に,神から疎外された人たちに,「神と和解」するように勧めます。―ヨハ 10:16。コリ二 5:20。
エホバの約束に対する信仰があれば,良いたよりを伝えたいと,いっそう強く願うようになる(13節を参照)
13. どうすれば,良いたよりを伝えたいと,いっそう強く願うようになりますか。
13 わたしたちは,「裁きの時」が到来したことを確信しています。また,宣べ伝えて弟子を作る業が,エホバの言われるように緊急なものであることも信じています。ヨハネは幻の中で,「四人のみ使いが地の四隅に立ち,地の四方の風をしっかり押さえて,地にも海にも,またどの木にも風が吹かないようにしているのを見」ました。(啓 7:1)あなたは,この世界に大患難の破壊的な風をまさに解き放とうとしているそのみ使いたちを,信仰の目で見ていますか。そうするなら,確信をもって良いたよりを伝えることができるでしょう。
14. わたしたちが,人々に,「邪悪な道から離れるよう警告」することを願うのは,なぜですか。
14 真のクリスチャンはエホバを友とし,永遠の命の希望を抱いています。それでも,「[邪悪な者]を生き長らえさせるために……その邪悪な道から離れるよう警告」する責任があることを自覚しています。(エゼキエル 3:17-19を読む。)もちろん,伝道するのは血の罪を避けるためだけではありません。エホバと隣人を愛するからです。イエスは,隣人愛を示したサマリア人のたとえ話の中で,愛と憐れみの真の意味を示されました。ですから,こう自問するのは良いことです。「自分はあのサマリア人のようだろうか。それとも祭司やレビ人のようだろうか。いつも喜んで証言するだろうか。それとも言い訳をして,宣べ伝えないことがあるだろうか」。(ルカ 10:25-37)神の約束に対する信仰と隣人への愛があれば,時が尽きてしまう前に,宣べ伝える業に十分あずかることを願うはずです。
「彼らは……紅海を通りました」
15. イスラエル人は,なぜ逃げ場はないと思いましたか。
15 イスラエル人はエジプトを出た後,窮地に陥ります。その際,モーセにとって力になったのは,やはり「見えない方」に対する信仰でした。その時のことについて,聖書はこう述べています。「イスラエルの子らは目を上げた。見ると,エジプト人が自分たちの後を行進して来るのであった。そのためイスラエルの子らはひどく恐れ,エホバに向かって叫びだした」。(出 14:10-12)これは予想外のことでしたか。そうではありません。エホバはこう予告しておられました。「わたしはファラオの心をまさにかたくなにならせる。彼は必ずその跡を追い,わたしはファラオとそのすべての軍勢とによって自らに栄光を得るのである。エジプト人は,わたしがエホバであることを必ず知るであろう」。(出 14:4)ところがイスラエル人には,実際の目で見えるものしか見えませんでした。行く手を阻む紅海と,急速に迫り来るファラオの戦車と,民を率いる80歳の羊飼いしか見えなかったのです。逃げ場はないように思えました。
16. 紅海において,モーセはどのように信仰によって強められましたか。
16 それでもモーセは動じませんでした。紅海や敵の軍勢よりはるかに強力なものを見ていたのです。信仰の目によって「エホバの救いを見」ることができました。エホバがイスラエルのために戦われることを知っていました。(出エジプト記 14:13,14を読む。)モーセの信仰は民を鼓舞しました。聖書にはこうあります。「信仰によって,彼らは乾いた陸地を行くかのようにして紅海を通りました。しかし,あえてそこに乗り出したエジプト人たちは呑み込まれました」。(ヘブ 11:29)その後,「民はエホバに対して恐れを抱き,エホバとその僕モーセに信仰を置くようにな(り)」ました。―出 14:31。
17. 将来,信仰を試みるどんなことが生じますか。
17 わたしたちも間もなく,窮地に陥ったように感じることでしょう。この世の諸政府は,ハルマゲドンが始まる時までに,わたしたちの組織よりはるかに大規模な宗教組織を滅ぼしていることでしょう。(啓 17:16)エホバは預言の中でわたしたちの攻撃されやすい状態を,「城壁も……かんぬきも扉もない」「無防備の田園の地」と描写しています。(エゼ 38:10-12,14-16)エホバを見ることのできない人たちは,生き残る可能性などない,と考えるかもしれません。あなたはどうですか。
18. 大患難の時も確固としていられるのはなぜか,説明してください。
18 わたしたちは恐れのために動じる必要はありません。エホバは,民が受ける攻撃だけでなく,その結末も予告しておられます。こうあります。「『そして,その日,ゴグがイスラエルの土地に入って来るその日には必ず』と,主権者なる主エホバはお告げになる,『わたしの激しい怒りがわたしの鼻の中に上る。そしてわたしは,わたしの激情によって,わたしの憤怒の火によって話さなければならなくなる』」。(エゼ 38:18-23)次いで神は,民に危害を加えようとするすべての者を滅ぼします。「畏怖の念を抱かせる,エホバの大いなる日」の結末に対する信仰があれば,「エホバの救いを見」,忠誠を保つことができます。―ヨエ 2:31,32。
19. (イ)モーセとエホバは,どれほど親しい関係にありましたか。(ロ)すべての道においてエホバを認めるなら,どんな祝福が得られますか。
19 こうした劇的な出来事に備えて,「見えない方を見ているように終始確固として」いましょう。定期的な研究と祈りにより,エホバ神との友情関係を強めてください。モーセは,エホバとの親しい関係を持ち,エホバに大いに用いられたので,聖書には,エホバはモーセを「顔と顔を合わせて」知った,と記されています。(申 34:10)モーセは際立った預言者でした。しかしあなたも信仰によって,実際にエホバを見ているかのように,エホバを親しく知ることができます。神の言葉が勧めているように,「すべての道において」いつもエホバを認めるなら,「神ご自身があなたの道筋をまっすぐにしてくださる」のです。―箴 3:6。
a エホバはエジプト人に裁きを執行するため,み使いたちを遣わしたものと思われます。―詩 78:49-51。
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