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第6部 ― 黒シャツ隊員と鉤十字章目ざめよ! 1990 | 10月22日
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イタリアのファシズムとドイツのファシズムでは,偉大な国家を作り上げる際の視点が全く異なっていました。作家のA・カッセルズの説明によれば,「ムッソリーニが古代ローマ人の行ないを手本とするよう自国民に勧めたのに対して,ナチの精神改革の目指すところは,昔のチュートン人の巨人が行なった事柄を行なうにとどまらず,それら部族的英雄の20世紀における生まれ変わりになるようドイツ人を鼓舞することだった」のです。
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第6部 ― 黒シャツ隊員と鉤十字章目ざめよ! 1990 | 10月22日
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ドイツは神話的な過去の時代に戻ることにより,以前の栄光を回復しようとしたのです。
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第6部 ― 黒シャツ隊員と鉤十字章目ざめよ! 1990 | 10月22日
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「第三帝国百科事典」はこの評価に同意し,「ヒトラーの集団殺戮政策の背後にあったイデオロギー」は社会ダーウィニズムである,と説明しています。ダーウィンの進化論の教えに調和して,「ドイツの空論家たちは次のように論じた。つまり現代の国家は,弱者を保護することにエネルギーを注ぎ込むよりも,強者つまり健全な分子を支援するために,劣った人々を退けるべきであるというのである」。適者生存のための闘争において戦争はごく普通のものであって,「勝利は強者にもたらされ,弱者は除き去られねばならない」と,彼らは論じました。
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第6部 ― 黒シャツ隊員と鉤十字章目ざめよ! 1990 | 10月22日
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ドイツ流ファシズム
A・カッセルズ著「ファシズム」は,「イタリアのファシズムとドイツのナチズムは,権力を得るに至った過程こそ類似しているが,体質と将来への展望は著しく異なっていた」と述べています。
ファシスト思想の先駆となった前述のドイツの哲学者のほかにも,19世紀ドイツの哲学者フリードリヒ・ニーチェといった人たちが,ドイツ特有のファシズムの育成に寄与しました。ニーチェがファシストだったというのではありません。しかし,指導的立場にあるエリート,つまり超人の集団をニーチェが要求したのは確かです。とはいえニーチェは,特に好ましく思っていたわけではないドイツ人はもちろん,一つの人種や国家を念頭に置いてそうした要求をしたのではありません。しかしその思想には,国家社会主義の唱道者たちが,ドイツ人に理想的な形で備わっていると考えたものに近い部分がありました。したがって,その思想は活用されましたが,ナチの政策と合致しない思想は放棄されました。
ヒトラーはドイツの作曲家リヒャルト・ワーグナーからも多大の影響を受けました。ワーグナーは極めて国家主義的かつ愛国主義的な人で,ドイツを世界的に重要な使命を果たす定めにある国とみなしました。「第三帝国百科事典」は「ヒトラーとナチの唱道者たちにとって,ワーグナーは完全な英雄だった」と述べ,「ワーグナーはドイツの偉大さを集約的に表現した。ワーグナーの音楽によってドイツ国家主義の正当性は証明された,というのがヒトラーの考えだった」と説明しています。
作家のウイリアム・L・シャイラはこう付け加えています。「しかし,現代ドイツの神話を吹き込み,ヒトラーとナチスが止むを得ぬ行為として譲り受け,自分自身のものとしたゲルマン的ベルトアンシャオウング[世界観]をドイツに付与したのは,[ワーグナーの]政治的著作ではなく,他を圧するワーグナーのオペラ群だった。それらのオペラはドイツの古代世界を極めて生き生きと思い起こさせた。そこには英雄の活躍する神話があり,異教の神々や英雄たちの戦いがあり,悪霊や竜が登場し,血の恨みと原始的な部族のおきてがあり,運命を肯定し,愛と命を壮麗なもの,死を高貴なものと見る見方があった」。
ニーチェとワーグナーの思想を形造ったのは,1853年から1855年にかけて「人類の平等に関するエッセイ」を書いたフランスの外交官であり民族学者であったコーント・ジョーゼフ・アルチュール・ド・ゴービーノでした。この人は,人種がどのように配合されているかで文明の運命が決定されると論じました。アーリア人社会の人種的特色を薄めるなら,同社会は最終的に崩壊する,とコーントは警告しました。
それらの思想によって育まれた民族主義と反セム主義が,ドイツ流ファシズムの特色となりました。
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