世界展望
突破口?
最近日本の医師たちは,輸血の代わりに,赤血球の形成を促すホルモン物質エリスロポエチンを使い,未熟児貧血の赤ちゃんを治療した。その赤ちゃんは出生体重が800㌘しかなく,「貧血が進み,本来なら……輸血をすべき状態となった」と,朝日新聞は伝えている。しかし,両親はエホバの証人であるため,赤ちゃんに血液を使うことを拒んだ。そこで医師たちが生後39日目からエリスロポエチンを投与したところ,1週間もしないうちに赤血球の数が増え始め,その後ヘモグロビン濃度も上昇した。「今回は宗教上の理由によったが,輸血による感染などの危険を避けるため,こういう治療が広く行われる可能性は高い」と,担当医は述べた。
足のないもっともな理由はない
ヘビはトカゲから進化したと進化論者は考えているが,トカゲが足を失った理由はなかなか説明できない。1973年のハーバード大学の権威ある研究では,ヘビがトカゲから進化したのは,歩く代わりに滑るように進むことによってエネルギーを節約するためである,とされた。しかし,最近カリフォルニア大学アーバイン校の科学者たちがその理論を試してみた。実験では,ブラックレーサーというヘビに小さな酸素マスクを着け,踏み車<トレッドミル>にのせて,滑るように進むのに実際どれくらいのエネルギーを消耗するかを測定した。結果は次のとおり。ヘビは,足のあるトカゲが歩く距離を進むのに,トカゲと同じ量ないしはその7倍も多くのエネルギーを消耗した。
高所の汚染
西ドイツで行なわれた研究によれば,高空を飛ぶ飛行機は特に大きな汚染源になっているかもしれない。オーストリアのプロフィル誌が伝えているとおり,一酸化炭素,酸化窒素,すすなどの汚染物質は,地上では数日のうちに分解してしまうのに対し,高度1万㍍以上の上空で放出されると何年も活性化した状態を保つことがある。民間航空機は毎年約60万㌧の硝酸を放出しており,軍用機の放出量はそれを上回る。高空では,ジェットエンジン内の燃焼によって生じる水はすぐ凍り,氷の粒子と硝酸から成る飛行機雲を形成する。これが,地球にとって極めて重要なオゾン層を破壊する要因になっているのではないか,と一般に考えられている。
金の子牛が発見される
「ある小立像がモーセと偶像崇拝的なイスラエル人の物語の史実性を実証している」とタイム誌は述べた。これまで,イスラエル人のエジプト脱出以前のカナンの遺跡の中からは,宗教的な意味を持つ子牛の像は発見されなかった。ところが1990年6月,考古学者の一団がイスラエルにある古代の港湾都市アシュケロンの遺跡の中から,長さ12.5㌢の子牛を発掘した。それは青銅と銅で作られた像で,鉛と銀も含まれているようである。青銅は金のような輝きを出すために磨かれていたらしい。団長のロレンス・ステージャーは,その子牛はイスラエル人がカナンを征服する前の西暦前1550年にまでさかのぼるものとみている。ステージャーの意見では,その子牛は異教の神エルやその息子バアルを崇拝するために用いられたのかもしれず,聖書に述べられている金の子牛の原型だったかもしれない。
教科書にある誤り
米国の小学校で用いられている理科の教科書には気にさわる誤りが多い,と不平を述べる科学者が増えている。ニューズウィーク誌によると,一人の物理学者は,「教科書には事実に反する間違いが多く,科学の本質全体を完全に誤り伝えている」と述べた。例をあげると,重力は宇宙空間にいる宇宙飛行士には作用しない。(誤り。宇宙空間に重力がなければ,宇宙飛行士が軌道上にいるのは何によるのだろうか。)蚊は尻を使って刺す。(これもこじつけ。蚊が刺すところを見たことがある人ならだれでも知っている。)出版に先立って専門家が詳しく調べる教科書はほとんどなさそうだ。同誌はこう付け加えている。「ほとんどすべての“新しい”教科書は以前にもうかった本によく似せて作られるため,誤りは蛆のように増える」。
ブラジルの麻薬
「ブラジルの学校に通う若者たちの間で使われる麻薬は過去2年間に24%増加したことが調査の結果明らかになった」と,ブラジルのベジャ誌は伝えている。小・中・高等学校の児童・生徒3万人を対象に行なった研究によって,ぞっとするようなこの数字が明らかにされた。「インタビューから得た情報をまとめた時,暗たんたる実態が浮かび上がった。……麻薬使用の増加は13歳から15歳までの若者の間で著しく高かった」。この研究は,鎮静剤や吸入式麻薬(靴屋の接着剤や噴霧式の香水など)が最も多く用いられていることも示している。これらの麻薬はそれほど強くないが,これを契機にもっと有害な麻薬を使うことにもなりかねない。エリサルド・カルリーニ教授はこのように述べた。「このデータは我々に警鐘を鳴らしている。なぜなら,この国で使われる麻薬のほとんどは違法なものではなく,薬屋で買えるからである」。
温かさの欠如?
昨年の夏6歳の少女がかわいそうな経験をしたため,多くのイタリア人は自分たちの国の状態について嘆いている。バネッサ・モレッティちゃんは父親と一緒に車で海に出かけた。トンネルを通っている時,父親は突然心臓発作を起こした。父親は死ぬ前に,苦しみながらも娘に道を探して家へ帰るように言った。スピードを落とさず走り抜ける車が巻き起こす突風に何度もあおられながら,少女はやっとのことでトンネルを出た。すり傷をつくり,血を流し,泣きながら,少女は幹線道路を30分歩いたが,休暇中の浮かれた人たちを乗せた何百台という車は少女を無視して通り過ぎて行った。ようやく一台の車が止まってくれた。国中の新聞の社説は,この国は昔から温かさと思いやりには定評があったが,それも豊かさのゆえに幾分失われてしまったのだろうか,といった鋭い質問を投げかけた。
敗北を認める
英国ソールズベリーの風邪研究センターがこの夏閉鎖され,風邪の治療法を発見するための44年にわたる探求に,何の成果も上がらないまま終止符が打たれた。この仕事はかつて考えられていたほど容易ではないことがわかった。同センターの理事は次のように述べた。「我々はかつて風邪のウイルスは一つしかないと考えていた。ところが,200近くあることがわかったので,ワクチンを発見する見込みは無くなった」。何年もの間に,このセンターには約1万8,000人のボランティアが来て,十日間の隔離計画の間に様々なウイルスに身をさらした。ボランティアたちは,ルームメートおよび医療関係者以外の人とは少なくとも10㍍離れていなければならなかったにもかかわらず,この計画を楽しんだ人たちもいたようである。あるカップルはここにとどまっている間に知り合い,翌年には新婚旅行で再びここを訪れた。ある男性は26回ここを訪ねた。もっとも,理事はこの人のことを「かなりの変わり者」と評した。
ぼやけた宇宙
最近打ち上げられた16億㌦(約2,400億円)のハッブル宇宙望遠鏡に大きな期待をかけていた天文学者たちの間に,苦々しさと怒りの衝撃波がさざなみのように伝わっている。この望遠鏡は,ゆがみを生じさせる地球の大気の外の澄みきった宇宙を見ることができるよう設計された巨大で高感度の反射鏡を備えており,宇宙への人類の視野を広げる点でガリレオの使用した望遠鏡と同じほど劇的な役割を果たすことが約束されていた。しかし,地球上に基地を持つ天文学者たちはその望遠鏡の操作を試みるうちに,一つの厳然たる事実に気づくようになった。その望遠鏡は焦点がうまく合わないのである。多くの反射鏡の十分な検査がなされなかったため,そのうちの一つに収差のあることが発見されなかったのだと思われる。
汚染のない血液銀行
西ドイツ出身の一人の医師は中央アフリカのある国でやっかいな難題に直面している。その国にエイズの心配のない血液銀行を設立するよう頼まれたのである。その国の首都では,献血された血液の6%がエイズウイルスに感染している。そのため血液銀行は血液検査を強調しているが,ちょっとした間違いは必ず起きる。月刊誌ニュー・アフリカンはこう伝えている。「ある時,採取した血液がエイズに感染していることがわかったが,銀行側がそれを知らなかったため,その血が二人の新生児に注入された」。銀行側は扱っている血液にエイズの心配はないと主張するが,その銀行では,血液の18%余りを汚染していることが知られているマラリアや梅毒の検査さえ行なっていない。
増大する刑務所の問題
オーストラリア犯罪学研究所からの最近の報告は,同国の刑務所の込み具合いが深刻化していることに注意を喚起している。同報告は,刑務所の使用率は85%であるべきなのに対し,同国の刑務所の現在の使用率は平均103%であり,他の州よりもずっと率が高い州もある,と述べている。島から成るタスマニア州だけが囚人一人に一部屋を充てている。もう一つ心配な点は,オーストラリア大陸にある88の刑務所のうち西暦1900年以前に建てられたものが23あることだ。こうした刑務所の多くは,粗末で,その状態を“非人間的”と評する人もいる。統計に表われた憂慮すべき傾向から分かるように,改善される望みはほとんどなさそうである。一例として,1982年から1986年の間に刑務所に送られた女性の数は65%増加した。