エイズ ― 道徳的な生活を送るのに必要?
一般の日本人にとって“対岸の火事”であったエイズも,1987年1月に,神戸に住む一人の女性がエイズで死亡してからはそうではなくなりました。この女性は日本における26人目のエイズ患者です。では,この女性のケースが大騒動を引き起こしたのはなぜでしょうか。
一つには,その患者がエイズに感染した最初の日本人女性だったからです。しかし,何千人もの男性を血液検査や相談のために公共の保健機関に駆り立てたのは,この事実だけではありません。その女性はエイズで死亡する前に,100人以上の不特定の男性と性交渉を持ったことを認めたと伝えられています。
患者は同性愛者と血友病患者に限られると考えられていた病気が突然に,少しでも婚外交渉を持ったことのある男性と,罪のないその妻に影響を及ぼす病気になったのです。こうした事態の推移は,一部の人々が道徳的な生活を送るための一助となったようです。
エイズのおかげで道徳的な生活?
「患者確認のニュースが流れた段階で,客が半分以下になり,街はゴーストタウンのようだ」と,神戸の歓楽街の特殊浴場組合の役員は嘆きました。
東京,横浜,川崎のセックス産業地帯でも同様の傾向が観察されました。国内最大の歓楽街,歌舞伎町では,客足が前年同月に比べ,30ないし40%減少しました。川崎市堀之内には,「9割減」とこぼす特殊浴場もあります。
こうした場所に足繁く通っていた人は,この致死的な病気に感染しないため保健所が勧める普通の生活をし始めているようです。セックス産業を規制する法律が成し遂げられなかった事柄を,エイズが成し遂げたのです。
普通の生活をしてください
「ふつうの生活をしていて感染することはまずあり得ませんから,むやみに心配する必要はありません。でも,“遊び”をする人は自殺覚悟でやってほしいですね」と,保健所の担当者は述べています。
もちろん,『ふつうの生活をする』という表現は余りにも漠然としています。保健所が本当に言いたいのは,『売春婦と関係するのは危険』ということなのです。日本医師会もキャンペーンのポスターに,「エイズ ― 愛なき性は危険です」という標語を織り込んで同様の考えを伝えています。
しかし,保健所や医療機関からの警告だけでは十分ではありません。厚生省の長屋祥子さんは,予防法を要約して,「ノウ・ユア・パートナー(相手をよく知る)」と「血液を清潔に扱う」という二つの要点を指摘しています。
何でも許容するこの社会で,「相手をよく知る」ことなど本当にできるのでしょうか。二人の間にいわゆる“愛”があるなら,不道徳な関係も大目に見られる社会で,相手が以前に不道徳を少しも行なっていないことをどのように確かめられるのでしょう。「相手をよく知る」ことは,口で言うほど簡単ではありません。
今のところエイズの治療法はないので,この病気に対する唯一の予防法は一般の人々を啓発する教育計画ということになります。しかしその教育は,エイズの感染方法に関する諸事実を教える以上のものでなければなりません。「日本人は,概して婚外交渉を放任する。その文化には,婚外交渉に対する真の宗教的タブーはない。家庭や人間関係を損なう恐れ,これがブレーキの役目をするとよく言われてはいるが,それほど強くはない」と,米紙「ワシントン・ポスト」は伝えています。
必要なのは,不道徳を憎むよう人々を動かす宗教教育です。テレビや他のマスコミの影響で,不倫が社会から認められるようになりました。それでも不倫は,「国語大辞典」(小学館)が定義しているように,やはり「人の道にそむくこと」です。現在求められているのは,マスコミに教育されて不道徳に慣らされてしまった人々の考え方を元に戻すことです。道徳規準を人々の心に植えつけることが必要なのです。
聖書は興味深いことに,『偶像に犠牲としてささげられた物と血と絞め殺されたものと淫行を避けていなさい』と警告しています。(使徒 15:29)ギリシャ語の淫行という言葉には,婚外交渉であれ同性愛行為であれ,あらゆる種類の不法な性交が含まれています。この聖句の続く言葉は今日に一層ぴったりあてはまります。「これらのものから注意深く身を守っていれば,あなた方は栄えるでしょう。健やかにお過ごしください」― 使徒 15:29。