ものみの塔 オンライン・ライブラリー
ものみの塔
オンライン・ライブラリー
日本語
  • 聖書
  • 出版物
  • 集会
  • 目80 10/22 20–23ページ
  • ペニシリン発見の特異ないきさつ

視聴できるビデオはありません。

申し訳ありません,ビデオをロード中にエラーが発生しました。

  • ペニシリン発見の特異ないきさつ
  • 目ざめよ! 1980
  • 副見出し
  • 関連する記事
  • 微生物の世界
  • 発見の歴史的瞬間
  • ペニシリンの分離
  • 解明されない不思議な現象
  • ペニシリン禍
  • しぶとい病原菌 ― どのようにして戻ってくるのか
    目ざめよ! 2003
  • 病気との闘い ― 成功と失敗
    目ざめよ! 2004
  • バクテリア ― 有害なものは少なく,有用なものが多い
    目ざめよ! 1973
  • バクテリア ― 有益か,それとも有害か
    目ざめよ! 1978
もっと見る
目ざめよ! 1980
目80 10/22 20–23ページ

ペニシリン発見の特異ないきさつ

呼吸をしたり,飲食をしたり,臭いをかいだり,何かに触ったりするたびに,身体の防御機構が働いて有毒なバクテリアが体内の血液の流れに入り込まないようにしています。血液の流れの中を漂う幾百万個もの白血球が,害を及ぼす侵入者を文字通り襲い,包み込んで分解してしまいます。しかし,身体のこの驚嘆すべき衛生パトロール隊の全ぼうが解明されたのは最近の時代になってのことです。

今世紀に入るまで,手術の際に傷口からよく感染し,これが病院において多くの死者を出す原因となっていました。やがて,手術の際の切開部位からバクテリアが入り込み,これが血液を汚していることが知られるようになりました。汚れた手術用の器具や衣類,洗っていない手などに疑いの目が向けられるようになりました。手術の際に,殺菌した器具や衛生的手法,消毒薬を用いることが一般化するに及び,人命が失われることは少なくなりました。バクテリアの繁殖を抑えるために,石炭酸(フェノール),リゾール,ヨードなどの化学薬品が用いられました。しかし,こうした発見はある程度の成果をもたらしたに過ぎませんでした。というのは,消毒薬は体外におけるバクテリアの繁殖をとどめるに過ぎなかったからです。

一方,医師が最も必要としていたのは,体内に病巣を作ったバクテリアを破壊する力があり,しかも患者に何の害も与えない,いわば体内殺菌剤を発見することでした。そのような薬を見つけることは可能でしょうか。

微生物の世界

スプーン1杯の肥沃な土の中には,増殖を続けるバクテリアやカビが幾百万も存在しています。そしてそれらは,終わることのない生存のための闘いを繰り広げています。非常に攻撃的なバクテリアの中には,競争相手を殺すために,微量の猛毒を放出するものがあります。この有毒物質が抗生物質と呼ばれているのです。このようなわけで,異なった種類のバクテリアから異なった有毒物質を分離することにより,様々な抗生物質が得られます。

例えば,あるバクテリアが体内に侵入したとしましょう。今日では,その病気に合った特定の抗生物質を処方するのはそれほど難しいことではありません。しかし,英国の医学者の間では,1920年代に至っても,バクテリアから特定の抗生物質を分離し,それを安全な殺菌薬のように血液中に入れるという考えはまだ受け入れられていませんでした。バクテリアの細胞を攻撃する一方で,人間の細胞には何の害も及ぼさない物質は存在しないものと一般に考えられていたのです。しかし,あくまで異なった考えを捨てようとしない医師が一人いました。

スコットランドで生まれたアレクサンダー・フレミングは,その生涯の大半をロンドンで医師として過ごし,細菌感染の問題と殺菌剤の使用法の研究を行ないました。1922年に,フレミングは一つの異状な現象を観察しました。水を乳白色に変える無害なバクテリアを混入した水溶液の入った試験管を使って実験をしていたフレミングは,これに人間の涙を一滴加えました。数秒すると,乳白色をしていた水溶液は透明になったのです。明らかに,人間の涙液の中に,驚くべき速さでバクテリアを破壊する化学物質が存在しているに違いありません。フレミングはその物質を“リゾチーム”(lysozyme)と名付けました。この物質にはバクテリアを「溶解させる」(英語: lyse)つまり溶かす働きがあるからです。

しかし期待に反し,リゾチームは無害な微生物には効き目があっても,病気を引き起こすバクテリアには無力であることが分かりました。しかし,この発見そのものには非常に価値がありました。無害な化学物質を用いてバクテリアを破壊するという,人類の病気との闘いにおける全く新しい原理にフレミングの注意を向けるものとなったからです。これは,6年後の同様の出来事にフレミングを備えさせることになりました。

発見の歴史的瞬間

1928年,研究室の中で,フレミングはねぶとを生じさせるバクテリア,ブドウ球菌を底の浅いガラス皿の中で培養していました。プライスという名の旧友がフレミングに会いに研究室にやって来ました。多くの人の生死を左右することになるある出来事が生じようとしていました。フレミングは,プライスと話をしながら幾つかの培養皿のふたを取り除きました。突然,フレミングは話をやめ,培養皿の一つをしばらくのぞいていたかと思うと,いつもの平然とした調子の声で「おかしいな……」と言いました。培養皿の上にはいつものようにかびが生えていました。ところが,かびの周囲一帯では,ブドウ球菌の集落<コロニー>が消失していたのです。不透明な黄色い塊が形成される代わりに,露のしずくのようなものが見えました。

フレミングは,かびが何かを造り,それがバクテリアを散らし,分解しているものと結論しました。今日,わたしたちは,その何かが,医学に革命をもたらした薬,ペニシリンであったことを知っています。空気中からちょうど適当なかびの胞子が落ち,それがちょうど適当な培養皿に入るという全くの偶然が重なったのでしょう。

次にフレミングは,青緑のかび(みかん,干からびたパン,熟成中のチーズ,腐った果物に見られるかびと同じもの)を幾らか取って,肉汁の表面で培養しました。かびは養分を吸収し,抗生物質を放出しました。数日後,それをこし取って原料となる液を得,フレミングはそれをペニシリンと命名しました。

かびのこの培養液は試験管の中で,淋菌,髄膜炎球菌,ジフテリア菌,肺炎球菌を破壊しました。しかも,非常に重要なことに,それは人体に無害だったのです。フレミングは医学関係者に,これが理想的な殺菌薬となる可能性のあることを指摘しました。しかしこの報告を読んだ人々の反応は冷ややかなものでした。バクテリアが一たび体内に病巣を作ったら,どんな化学物質も歯が立たないとそれらの人々は信じ込んでいたのです。

フレミングと助手たちは,ペニシリンの分離と精製に関係した化学上の問題を処理する技術を持ち合わせていなかったため,その後8年以上の間,事実上何の進展も見られませんでした。ペニシリンは忘れられてゆくかに思えました。

ペニシリンの分離

1939年のこと,主に戦場で兵士がかかる病気に関連して,医学と化学の教育を受けた二人の科学者,ハワード・ワルター・フローリーとエルンスト・ボリス・チェーンが英国で共同研究を始め,細菌性拮抗作用について研究することになりました。二人は研究してゆくうちに,リゾチームとペニシリンに関するフレミングの文献を見いだしました。ほどなくして,二人はフレミングの発見したかびの培養液を用いて仕事を行なうようになりました。そして,幾度も失敗を重ねた後,ついにその不可解な物質を安定した粉末状にすることに成功しました。

病菌を植えられた4匹のネズミが治療されると,大騒ぎになりました。そして1941年に,初めて人体に使用され,成功を収めたのです。「ペニシリンの効果は全く奇跡のように思える」と科学者の一人は報告しました。ペニシリンを1億2,000万倍に薄めても,バクテリアに対する効果は失われないことが示されたのです。それは全く信じ難いことでした。

戦時中の様々な問題のため,フローリーは貴重なかびを携えて英国から米国イリノイ州のペオリアへ移りました。フレミングのかびはペニシリンの大量生産には適していませんでした。広範囲に及ぶ調査の結果,ケネス・B・レイパー博士の助手で“かびのメリー”という名を付けられた,ペオリアに住むメリー・ハントが,腐ったカンタループ・メロンから生産に適したかびを発見しました。それ以来,このかびを培養したものがペニシリンの主要な生産源として用いられるようになりました。やがて,ペニシリンは多くの国で大量に生産されるに至り,フレミング,フローリー,チェーンの3人は1945年にノーベル医学賞を受けました。

解明されない不思議な現象

「おかしいな」というフレミングの言葉は,1928年に培養皿の上で見た現象が説明し難いものであることを示していました。フレミング自身を含め,多数の科学者が同じ現象を再び生じさせようと試みたものの,これまで一度も成功していないというのは全く信じ難いことのように思えます。「それはまさに,医学の分野でこれまで生じた最高に幸運な出来事の一つであった」とフローリー卿は語りました。36年後,ロナルド・ヘア教授はその不思議な現象を解明しようとして一連の複雑な実験を行ない,フレミングの実験室で生じた事柄は極めて例外的な現象であったに違いないことを確証しました。

1971年には,エルンスト・ボリス・チェーン卿がその当時の科学的見解を要約して次のように語りました。

「フレミングが観察した現象は極めて単純明解に思えるが,現実にはそうではない。それがいかに複雑であるかを,またその現象が生じるにはごくまれにしか起こらない状況が幾つも同時に生じる必要のあることを認識し,理解している人はほとんどいない」。

実験室の培養皿で目にしたことをフレミングは誤解し,間違って受け止めたのであり,フレミングが考えていたようなことは起き得ないとの見解を表明する人もいます。ペニシリンを発見した人物,時,方法に疑念が表明されるとしても,幾多の人命を救ってきた実に驚くべき薬が得られたという最終結果は残ります。

ペニシリン禍

過敏な体質でない人にとってペニシリンは副作用のない薬であることが知られていますが,過敏な人はこれによって発疹が出たり呼吸困難に陥ったりすることがあります。まれにはショック状態に陥る人もおり,悪くすると死ぬ場合もあります。ペニシリンは万能薬ではありません。風邪などのように通常の病気の中でも,ペニシリンの全く効かないものが数多くあります。抗生物質はウイルスの感染症には全く効果がないからです。バクテリアの感染に対してだけ効き目があります。しかし,1980年1月10日号のサイエンス・ワールド誌は,多くの医師が「大事をとって,バクテリアの感染を防ごうと事前に」抗生物質を投与していると伝えています。

ペニシリンの評判が高いため,知識の乏しい患者の中には,すぐに症状が軽くなると考え,ペニシリンの使用を希望する人が少なくありません。そして残念なことに,医師はいとも簡単にこの薬を処方しています。テキサス南西医科大学の内科の助教授であり,ダラス在郷軍人会病院伝染病科の医長でもあるジェームズ・スミス博士は,「わたしは培養検査をしなければペニシリンを処方しない」と語っています。保健衛生の当局者は住民全体の見地からすれば,ペニシリンを大量かつ不必要に使用することは極めて望ましくないと警告しています。以前はペニシリンで退治できたバクテリアが抵抗力を備えるようになり,それがまん延する危険があるからです。「抗生物質の乱用を続けてゆくなら,我々はその代償を支払うことになる」と,ワシントン大学の微生物学および医学の教授スタンリー・ファルコウ博士は語っています。同博士は,抗生物質に対して既に抵抗力を備えている数々の耐性菌について言及した際,「我々はいつでも代わりの薬を手に入れることができるわけではない」とも語りました。医師の中には必要な場合だけに限ってこれを処方する人がいます。そして本当に必要な場合というのはそれほど多くはありません。また,ペニシリンを最後の切り札として使う薬の一つに見なしている国もあります。医師の勧めがない限りこれを用いてはなりません。

バクテリアは命取りになりかねない数々の病気を引き起こしますが,ペニシリンにはそのバクテリアを殺す強力な能力が備わっています。しかも人体の防御機能を損なうことなくその力を発揮します。この二つが相まって,ペニシリンは今日の特効薬の仲間入りをしました。人類がそれを偶然見つけた経緯は特異としか言いようがありません。本当のことを知っている人はだれもいないのです。

    日本語出版物(1954-2026)
    ログアウト
    ログイン
    • 日本語
    • シェアする
    • 設定
    • Copyright © 2025 Watch Tower Bible and Tract Society of Pennsylvania
    • 利用規約
    • プライバシーに関する方針
    • プライバシー設定
    • JW.ORG
    • ログイン
    シェアする