太平洋の“パラダイス”の島々
風にゆれるココヤシ,白砂のなぎさ,エメラルド・グリーンの海,実り豊かな畑,静かな月夜 ― こうしたものはパラダイスを思わせますか。ここ,西太平洋のミクロネシアにあるのはそれだけではありません。この騒然とした20世紀には,「すべてを逃れ」,のどかな美しい所で暮らしたいと思う人が少なくありません。太平洋のある島が,逃れ場として打って付けの場所になるでしょうか。
ミクロネシアは,777万平方㌔以上に及ぶ海域に点在する2,000の島々から成っており,そのうち97の島々に人が住んでいます。空から見ると,極上のエメラルドのネックレスの断片が太平洋というブルーのベルベットの上に散っているように見えます。グアムとベラウの壮大な日没からキリバスのココヤシの木立,太陽の降り注ぐ白浜まで,またポナペのエメラルド色の山々や水量の豊かな滝から宝石を散りばめたようなトラック礁湖<ラグーン>の海まで,各地区には独自の美しさがあります。
パラダイスに住むことを夢見ておられますか。では,ご一緒にこの美しい地方の幾つかの場所を訪れてみませんか。きっと,お好みの種類の“パラダイス”をお選びになれるでしょう。
ベラウとヤップ
まずは,ある人々が最も美しい所と考えている,カロリン諸島の西のはずれにあるベラウ(かつてのパラウ)地区からはじめましょう。
飛行機で近付くとき,最初に目に入ってくるながめの美しさは信じ難いほどです。ヒスイのような色をした巨大なキノコが淡い青緑とるり色の水面から頭を出しているようです。水は限りなく澄んでおり,9ないし12㍍の深さのある所でも,海底まで見通せます。着陸すると,その島が最初に見た時の期待を裏切らないものであることが分かります。青々とした木々が生い茂り,密林に覆われた丘がなだらかに起伏しています。土地は肥よくで,パンの木やオレンジ,サトウキビなどの熱帯の作物を豊かに産します。浅瀬にはマングローブの木が茂り,豊かな海洋生物の住みかになっています。そしてここも,ミクロネシアのほとんどの島々同様,ひっそりしていることにお気付きになるでしょう。
しかし,ここに長居をしてはいられません。ヤップへ移りましょう。ココナツの木立があり静寂な美しさを備えた土地であるこの島は,別の種類の独特の“パラダイス”です。この島には舗装道路が1本もありません。テンポはゆったりしていて,土地は肥よくです。
ヤップ島をユニークなところにしているのはその貨幣,つまり有名な大きな平円形の石です。場所によっては,道端に文字通りお金が並んでいることもあるのです。今日,石貨は取引きに用いられてはいませんが,いまだに文化的な価値を持つものとみなされています。石貨の価値は大きさよりもその古さや歴史によって決められます。幾つかの村営“銀行”があり,中央に穴の開いた大きな平円形の石が“銀行”に至る道端に並び,建物の壁面に立て掛けられています。
ミクロネシア全般に言えることですが,目元の涼しいヤップ島の子供たちは非常に魅力的です。しかも,その子たちには実に興味深い名前が付いています。ラジオ,ラブミー(愛して),ナッシング(無),ケアレス(不注意),トウィンクル(きらめき),はてはアドルフ・ヒトラーというのまであります。訪れた名士やニックネーム,その他諸々にちなんで付けられた名前もあります。
ここにとどまりたいと思われますか。最終的な決定を下す前に,ともかくこの旅を終わらせましょう。
トラック,ポナペそしてキリバス
時間をむだにしないために,雄大なトラック礁湖<ラグーン>では数分間を費やすだけにします。直径が48㌔以上あるこの礁湖は,ミクロネシアの島々すべてが中に入ってしまうほどの大きさがあります。その青い海はダイビングに目のない人々には特別な種類のパラダイスとなっています。ここには歴史的な海底墓地があり,第二次世界大戦中に沈んだ軍艦に,変わった形の海洋生物が住み付いています。
ともあれ,カロリン諸島の東部にあるポナペへ向かいましょう。ポナペには非常に美しい滝がたくさんあり,760㍍を超える,カロリン諸島随一の高山を誇りにしています。ここでは激しい降雨があり,高地は密林に覆われています。しかし,こうした密林を訪れる人はほとんどありません。ポナペ島民は入り江や湾などの海岸沿いに住むのを好むからです。
この島の人々はどちらかといえば内気で,穏やかな言葉を話します。その「カサレリア」(「ようこそ」)という言葉は,ミクロネシアでも特に愛らしいあいさつの一つです。話は変わりますが,ポナペ島民はヒップの大きい女性を大変もてはやします。ですから,ご自分が“太め”だと思っておられるなら,ここはあなたにとって“パラダイス”の島といえるかもしれません。
ポナペ島の沖合いには興味深い考古学上の宝があります。それは廃虚と化した都市,ナンマトールです。“太平洋のベニス”と呼ばれるこの都市は,湿地性の礁湖の中にある100以上の小島に,巨大な玄武岩の切り石で建てられています。今日,この都市がどのようにして,いつごろ建てられたかを知っている人は一人もいません。
鎖のようにつながるミクロネシア諸島の南東の果てには,タラワ環礁を主な島とする絵のように美しいギルバート諸島(キリバス)があります。ここでは,いかにも太平洋に浮かぶ島の家だとだれからも思われそうな家が見られます。ココヤシの幹や葉を,ココナツの殻で作ったより糸で結び合わせた家に,古風で趣のある草ぶきの屋根が載っています。
この地の人々は非常に温かく,人をよくもてなします。豊富に産するココナツとパンの木の実が主食となり,さらに大量の海の幸が食卓に上ります。タラワ島に降り立つとすぐに,静寂が身にしみて感じられます。島民ののんびりしたテンポは人にうつりやすく,訪れた人は自分がうまく『すべてから逃れる』ことができたと本当に感じるようになるかもしれません。
ここには公共の交通機関としてバスがありますが,ミクロネシアの他のほとんどの島々にはそれがありません。この細長い環礁ではかなりの距離を移動することもあるので,これは便利です。しかし,時間通りにバスに乗ろうなどと思ってはなりません。バスは時刻表通りには運行していないのです。熱帯にいることを忘れてはなりません。
昼は,ヤシの木に縁取られた礁湖がミクロネシア本来の色である青々としたブルーとグリーンを映し出し,夜になれば,手を伸ばすと届きそうなところに月や星が輝きます。環礁の両側に静かに打ち寄せる波の音と,穏やかな貿易風の作りだす音とを子守歌代わりに,すぐに夢路をたどれるでしょう。タラワは赤道直下の島ですが,貿易風のお陰で1年のうち少なくとも数か月は空気が涼しく快適です。
これらエキゾティックな地方のどこへ逃れたいか,すでにお決めになりましたか。最終的な決定を下す前に,知っておかねばならない事柄がほかにも幾つかあります。