神の目的とエホバの証者(その26)
「『あなたがたは私の証者です』とエホバは言われる。」― イザヤ 43:10,新世訳
「上なる権力」に従う
ジョン: さて,1929年の6月号の「ものみの塔」(英文)は,「上なる権力」と題する記事を二部に分けて掲載しました。a すこしの言葉をここに引用してみましょう。その危険な時に証者たちがどんな立場を取ったかが分かるでしょう。
ロマ書 13章についてはたくさんの注解の言葉が書かれている。その要旨は,異邦人の権力あるいはこの世の政府は「存在すべき権力」であって,そのような政府はエホバ神からその権力をいただくという。それは,かつて「帝王神権説」の教理を裏づける基礎理論に用いられ,国家が持っていて行使する力がどんなものでも,その力は神から任命されたものであり,したがって神の子供はその力に従わねばならないと論ぜられている。b
一つの国では合法の行ないも,他の国では違法になっいる例が数多く述べられています。それから,神はこれらのちがった国家に異なった権力あるいは権威をゆだねたかという質問がなされています。この論議の特定な部分を結論するにあたって,記事は次のように述べています。
アメリカ合衆国の基本的な法律は,人がこのむいかなる方法でもその宗教を行なうことができると述べている。この基本的な法律に反して,ある州は福音が特定な場所で,特定な環境下で伝道することができないような法律をつくり,福音の伝道をしようとする者たちを逮捕して罰する。ロシアでは,政府の許可がないかぎり,福音の伝道を禁止する法律が施行されている。イエス・キリストを通して神の子たちに与えられている神のいましめは,この福音をあかしとして全国民に伝道することである。(マタイ 24:14)神の子はアメリカ合衆国やロシアの法律に従うべきか,あるいは神の律法に従うべきであろうか,神は御自分の御こころと予盾反対し,御こころをきずつける法律をつくったり施行したりする権利と権威を,これらのいろいろの国に与えたであろうか。
使徒パウロの言葉を,この世の諸政府に適用することは正しくない。それはまったく明白である。「存在している権威は,すべて神によって立てられたものだからである」とパウロが言うとき,彼はこの地の異邦の諸国家に言及しているのであるか。彼は神の制度内で行使される力に言及しているのであって,サタンの制度内に行使されるものに言及しているのでないと言うのは理に合う。c
この結論を確証づけるために多くの聖句と論議が提出されていました。
この世の諸政府とクリスチャンの関係についてこの新しい見解が示されたので,エホバの証者は活気づけられ,津波のごとくに襲いかかってきた法廷の戦いにも,彼らは敢然と立つことができました。d エホバの証者は,真実の「上なる権威」であるエホバ神とキリスト・イエスに従って大胆な立場を取りました。これは御くらについた神の政府の王に対する反対者の心をいっそうかたくなにするだけでした。
トム: 1929年と言えば,大きな株界崩壊の年だったとしかおぼえていません。その年から世界最悪の不況が始まったのですね。
ジョン: そのとおりです。現代社会の変化はこの不況の結果であると現代の歴史家は言います。アメリカが大きな経済不況をこうむつたのはたしかです。しかし,この大不況は国家の安定を根底からゆり動かし,この世界社会の基礎が弱いものであると示しました。現代歴史を研究する大ぜいの人は,ヒトラーが政治的な権力をにぎることができたのは,欧州にまで影響した不況の結果であると言われています。ヒトラーは1923年ミューニッヒの「ビヤホール騒動」で権力をにぎろうとしましたが,それは失敗しました。しかし,このむずかしい時代中ホンパペンの企てたカトリック謀略と操縦により,また国民の不安定な状態につけこむことにより,彼は1933年1月30日,ドイツ宰相になりました。その年の7月初旬,副宰相になったホンパペンは,ヒトラーの代理としてピオ11世と条約を締結しました。6年後にはピオ12世になったパチェリ枢機官は,そのときバチカンを代表して署名しました。e 1929年,ムッソリーニはラテラン条約によりバチカンとの協力計画を完成しました。ラテラン条約はローマ・カトリック教会と新しい全体主義政府とのあいだに締結されたものです。f
諸国家のあいだにこのように悪化の徴候が見られたことは,エホバの証者の立場を強めるだけでした。彼らは人間に仕えるよりも神に仕える決意をつよめ,困惑していた世界の諸国民に伝えていた音信に重味を加えました。1931年と1932年には,新しい世の社会の発展に関して大きな重要性を持つ二つの出来事が生じました。その最初は,1931年7月24-30日まで,オハイオ州コロンブス市で行なわれたエホバの証者の別の大会でした。この大会では1万5000人の人々は「エホバの証者」という新しい名前を採決する決議を採用しました。
「新しい名前は責任を示す」
ロイス: 1931年まであなたがたはエホバの証者と呼ばれなかったのですね,それ以前は,何とばれましたか。
ジョン: 私たちの出版物の中では,「教会」,「主の油注がれた者」「キリストの体の成員」,「兄弟たち」,あるいは簡単に「クリスチャン」「イエスの足跡に従う弟子」「聖書研究生」「万国聖書研究生」gその他を使用していました。もちろん,そのような表現は聖書的です。しかし,外部の者はたいてい私たちのことを「千年統治黎明派」とか「ラッセル派」というような非難の言葉を使用しました。1931年に採決された決議は,この状態の故に生じた混乱に注意をひき,これらのクリスチャンの真実の立場を示しました。それは次のように述べました。
すなわち……ものみの塔聖書冊子協会と万国聖書研究会および国民の説教協会は法人の名前に過ぎず,われわれクリスチャンはそれらの法人を制御し,支配し使用して神のいましめに従うわれわれの仕事を行うのである。しかし,これらの名前のひとつとして,われらの主イエス・キリストの足跡に従うわれわれクリスチャンの群れに適用せず,またあてはまらない。われわれは聖書の研究生であるが,主の御前におけるわれわれの正しい立場を示すものとして「聖書研究生」あるいは同様な名前を取らず,かつ,そう呼ばれることを拒絶する。われわれは人間の名前を持つこと,あるいは呼ばれることを拒絶する。
すなわち,われわれはあがない主なるイエス・キリストの尊い血で買い取られ,エホバ神によって義とされて産み出され,彼の御国に召されたので,エホバ神とその御国に対する全き忠節と献身をちゅうちょせずに言明する。われわれはエホバ神の僕で彼の名の中にわざを行なうべく任命されている。そして,神の命令に従い,イエス・キリストの証言をなし,エホバが真の全能の神なることを人々に知らすように任命されている。したがってわれわれは主なる神の御口によって命名された名前をよろこんで取り,その名前によって知られ,呼ばれることをのぞむ。その名前は,すなわち「エホバの証者」である。―イザヤ 43:10-12; 62:2。黙示 12:17。h
言う必要もないですが,この決議は出席者全員によりよろこんで採決されました。その後,全地の50の大会でエホバの民は会合し,このすばらしい新しい名前の採決によろこびの声を加えました。
エホバの民のこの新しい名前を世界の指導者たちに正しく知らせるため,この決議およびルサフォード兄弟の大会の話の全文は「御国は世界の希望」(英文)という冊子に出版されました。その中には,大会で採決された別の決議もはいっていました。それはキリスト教国が背教してエホバのさとしを侮べつの中に取り扱ったことを責めるもので,次のように述べていました,「世界の希望は神の御国であり,他の希望はすこしもない」。i その年の10月中,各会衆がこの冊子を持って牧師,政治家および大実業家を訪問する運動が行なわれました。アメリカ合衆国とカナダだけでも13万2066冊の冊子はこのようにして配布されました。j 次の数ヵ月中,この冊子は全地の500万人の家庭に配布されました。k
ロイス: それは支配者と国民に対する最大の運動のひとつにちがいありません。
ジョン: そのとおりです。当然そうでしょう。エホバの証者は神の真の僕として,神の名前と御国の証言を守ることに献身したことが記録されたからです。かくして,彼らは世界のすべての国民から分離しました。なぜなら,他の国民のうち御くらにつかれた天の王を認めたものはひとつもないからです。天の王は全国民を治めるためエホバの力によって即位しました。さらに,聖書中のこの名前の前後の関係は,神の真の僕たちと,神に仕えると称する者たちとのあいだの地上での論争をいっそう強調しました。マリア,イザヤ書 43章8-10節を読んでください。
マリア〔読む〕: 「目あれどもめしひのごとく耳あれどもみゝしひのごとき民をたづさへ出でよ,国々はみな相集ひもろもろの民はあつまるべし,彼らのうちたれかいやさきに成るべきことをつげ之をわれらに聞することを得んや,その証人をいだして己の是なるをあらはすべし,彼らききて此はまことなりといはん,エホバ宣給はく,なんぢらはわが証人わがえらみし僕なり,さればなんぢら知りて我を信じわが主なるを悟りうべし,我よりまへにつくられし神なく我よりのちにもあることなからん」。
ロイス: エホバの御名を負う者に対する彼の要求は全く明白ですね。
ジョン: その通りです。さらに,新しい世の社会が誕生して後,力を結集し始めた反対する社会が誕生しました。したがって,それは権威の争いにもなり,事実は人々に提供されました。すべての者はどちらの社会がエホバの目的の中で正しい立場を占めるか,心の中で明白に決定することができました。しかし,この争いが本格的に始まる以前,エホバは御自分の制度内で別の目的を達成させられる目的を持っておられました。それは聖所を正しい地位に復旧することです。
エホバの聖所は清められる
おぼえていらっしゃると思いますが,英国ロンドンで行なわれた1926年のエホバの証者の大会で,国際連盟は黙示録 17章11節に述べられている「獣」であり,それは神の御手からかならず滅びをうけるlと言明されました。この証言は,世界の諸国民に知らされました。しかし,彼らはこの証言に注意を向けましたか,いなであります。彼らは荒らす憎むべきものを捨てず,また世界の真実の希望である神の御国を支持しようとしませんでした。彼らは地上の僕たちを通してなされたこの神からの宣明の言葉を無視して,救いをはかる神の御準備に背を向けました。それで,彼らは実際には神に対して罪を犯したのです。彼らがそうすることはエホバの御使によりダニエルに啓示されていました。a
それから2300日の後には神の聖所が勝利を得るという預言もなされました。「選出された長老たち」を神の会衆から清めることが始まりました。彼らは民主主義的な仕方で職務に選び出されていた者たちです。1932年8月15日号と9月1日号の二つの号の「ものみの塔」(英文)は,「エホバの制度」と題する記事を掲載しました。この記事は,「長老を選出する」制度は,この世的やり方であり,大神権者の原則に従うものでないと示しました。大神権者は上から下に聖所を支配されます。その記事の結論は,決議文であって,全会衆がその決議を採決するようにとすすめていました。次の抜すいに気をつけて下さい。
故に次のことを決議しよう,すなわち教会内の長老たちが選出的な職務を持つことに対する聖書的な権威はない。したがって,われわれはいかなる人をも長老の職務に選出しない。聖書の定義によれば,神によって油注がれた者はみな長老である。そして,すべての者は最高の神の僕たちである。
われわれの奉仕を秩序正しくするため,われわれの会の中のある者たちを選んで,必要な奉仕を行なわせる。その中には次のことをも含む。すなわち奉仕指導者はわれわれによって指名され,協会の事務代理によつて確認される。その奉仕指導者は,この会の奉仕委員の一員である。
この決議は全地のエホバの証者の会衆により採決されました。ダニエルの預言に述べられている時の期間がちょうど終る1932年10月15日号の「ものみの塔」誌上の発表は,エホバが御自分の見える伝達の径路を通してなされた正式の通達であって,彼の聖所が清められたこと,正しい状態に復帰したこと,そして長老たちを選出するにあたって民主主義的な仕方が排除されたことを示しました。b
トム: それはあなたがたの制度を一致させるでしょうね。重要な前進の一歩のように見えます。
ジョン: もちろんエホバの制度はこの処置で使徒の時代中の神権的な運営に十分回復したわけではありません。御自分の民に対するエホバの目的が立証されて,新しい世の社会が最終的にかたちづくられるときエホバの制度は十分に回復するでしょう。しかし,幾十年かむかしにエホバが示したもうた径路に対して,エホバの是認の手ははつきり見えました。1878年にパストー・ラッセルが真の崇拝のために敢然と立ったときから,「ものみの塔」とその出版者たちは,妥協と背教に対して戦いつづけました。このクリスチャの群れが神の目的内で特定な位置を持つことは,ますます確証づけられました。彼らは1919年に死のあごから救い出され,サタンに対してエホバを支持する大胆な立場を占めるようになりました。かくして神の目的の中における彼らの立場は,最高主権者の名前と明白に識別される故,堅固なものになりました。このように強められたクリスチャンのこの社会は,一大運動に乗りかかる準備をととのえました。この時までのエホバの僕たちはその種の事柄をすこしも知りませんでした。
[脚注]
a (ツ)1929年の「ものみの塔」(英文)163-169頁。179-185頁。
b (ネ)1929年の「ものみの塔」(英文)163頁。
c (ナ)1929年の「ものみの塔」(英文)164頁。
d (ラ)1943年の「ものみの塔」(英文)298頁をも見なさい。1946年の「ものみの塔」も見なさい。
e (ム)「世界政治の中のバチカン」(英文)(1949年,マンハッタン)165-170頁。コロンビア百科辞典1240頁。
f (ウ)コロンビア百科辞典(英文)1942年608,1227頁。1941年の「ものみの塔」(英文)280頁。アメリカナ百科辞典(英文)第7巻,464頁。
g (ヰ)1910年の「ものみの塔」(英文)119,120頁。
h (ノ)1932年「年鑑」(英文)22,23頁。
i (イ)(イ)1931年の「ものみの塔」(英文)278頁。
j (ロ)(ロ)冊子は8万8009名の牧師,1万9103名の政治家,2万2869名の実業家および2085名の軍事指導者に配布されました。1932年1月1日の「ブルテイン」(英文)
k (ハ)(ハ)1932年の「年鑑」(英文)36頁。
l (ニ)(ニ)1961年7月15日号447頁を見て下さい。
a (ホ)(ホ)ダニエル 8:13,14。
b (へ)(ヘ)「御心が地に成るように」(1959年)「ものみの塔」456頁-458頁。