教会の指導者が憂慮するのはなぜか
キリスト教国のおもな宗派の指導者はおしなべて事態を憂慮しています。カナダの牧師ブルース・マクレオドは,「教会は昔のようではなくなっており,指導者たちは事態におびえている」と語りました。
牧師は,教会の教えや典礼に関する改革だけでなく,それよりもさらに重大な変化を憂慮しています。それはなんですか。
これは史上初めてのことですが,今日キリスト教国の正統派教会のほとんどが僧職者数の減少を見ており,僧職を去る者が年ごとにふえています。たいていの神学校では入学者数がさらに急速に減少しており,今では教会の出席者数も減っています。ですから,宗教指導者の多くは,自分たちの教会が滅びつつあるのではないかとさえ恐れています。
あなたご自身はこうした事柄のすべてをご存じではないかもしれません。また,あなたの教団あるいは教会はこれまでのところ重大な影響を受けていないかもしれません。が,こうした教会の衰退現象は世界中で進行しており,それは史上類例のない事態です。教皇故ピオ12世の前顧問のひとりはカトリック教会についてこう述べました。「教会がいま遭遇しているのは宗教改革よりも深刻な危機である」。
こうした事態がなぜ生じているかを論ずる前に,まず,何が起きているかを見ることにしましょう。事実を調べてみると,事態は一般に考えられているよりはるかに深刻なことがわかります。
僧職を去る人々
今日,僧職を去る人々がふえています。これは教会指導者層にとって最もやっかいな問題の一つとなっています。長老派の著名な牧師ディビッド・ポーリングはこう直言しました。「われわれは歴史的職業つまり牧師職の崩落を目撃している」。
何世紀にもわたって増大してきた僧職者層は,何年か前その増加を鈍らせ,やがて増加は止まりました。そして今や減少しているのです。過去数年来,種々の宗派の牧師の辞職者数はいよいよ増加し,昨年その辞職者数はこれまでの最高を記録しました。
カトリック教会の司祭の辞職問題はわたしの「いばらの冠」である,と教皇パウロ6世は評しましたが,それは決してカトリック教会だけの問題ではありません。ポーリング牧師は最近,自著「教会最期の時代」の中で,いみじくもこう述べました。「さまざまな分派や宗派があるため,さほど明らかではないにしても,プロテスタント諸教派の牧師層全般に見られる失望と混乱のほどもまさに徹底している」。
したがってこの傾向はどこでも同じです。たとえばギリシアの場合,ギリシア正教会の教区の中には50%もの僧職者不足をきたしているところがあります。シドニー・モーニング・ヘラルド紙によれば,ギリシア北部の各教区では,「全聖職の4分の1が空席のままで,……毎年,聖職に250人分の空席が生ずるため,事態は悪化の一途をたどっていた」とのことです。
スウェーデンの国教の僧職者数も減少を見てきました。また,この国のいわゆる“自由諸教派”にも僧職者の著しい減少が見られます。左上の表を見てください。
1962年 1968年
バプテスト派牧師 324人 256人
救世軍将校 1,326〃 1,055〃
宣教団同盟の牧師 675〃 617〃
この点でローマ・カトリック教会の実情には著しいものがあります。ニューズウィーク誌はそのことをこう報じました。
「ローマ・カトリック教会の司教はどこを向いても,司祭の辞職者がいよいよふえていることを明示する数字に直面せざるをえない。しかも司教の多くは自分自身の経験からこのことをすでに知っているのである。……社会学者アンドリュー・グリーリー神父は,今後10年以内にアメリカの同教会はその司祭5万9,000人のうちおそらく半数を失うであろうと予言している」。
ある報告は,1968年におけるアメリカのカトリック教会司祭辞職者数が,1967年の同期に比べ31%増加したことを指摘しました。また,シカゴ・ツデー紙は述べました。「当時[2年前]のローマ・カトリック教会の聖職離脱者数の細い流れは増大し,激流になりかねない様相を呈してきた」。
カトリック世界のいたるところから同様な報告が寄せられています。オランダについてニューヨーク・タイムズ紙は述べました。「聖職を去る司祭の数は,1965年当時の5倍になった」。この国の1968年の事情を示す数字を左に掲げます。
僧職を去った司祭 196人
司祭の死亡者 189〃
合計 ―― 385〃
新たに任命された司祭 145〃
1968年の不足数 ―― 240〃
カトリック筋のハーダー・コレスポンデンスは,「入手できる数字はいずれも驚くべきものである」と報じました。オランダ,ハールレム司教管区の“司教代理モンシニョール”H・ジュイパースは語りました。「1968年に私たちの司教管区では司祭46人が聖職を去りました。…同年,任命された司祭はわずか二人でした」。
ブラジル政府の調査によれば,1960年から1968年までにブラジル人司祭643人が僧職を去りました。ペルーのエルコメルシオ紙は,「ペルーのカトリック教会は崩壊しつつある」と述べ,「人口は1,400万に迫ろうとしているにもかかわらず,ペルー人の司祭は400人にも満たない」と指摘しました。1969年中,アルゼンチンのカトリック教会はその史上最悪の危機に直面しました。ロサリオ大司教管区だけで一時に28人の司祭が辞職したのです。
ですから,教会の指導部があわてるのももっともです。もしあなたが大型客船の船長だったなら,乗組員が群れをなして離船するのを見て,驚かないでおれるでしょうか。
さらに深刻な減少
教会指導者の多くは,未来の牧師を養成する,教会諸派のたいていの神学校の事態を見て,さらにあわてふためいています。ディビッド・ポーリングは自著「教会最期の時代」の中でこう述べました。
「教会問題の観察者が聖職制の崩壊を示す初期の徴候を書き留めていたとすれば,神学校入学者数の減少傾向にまず気づいたであろう。近年,恐るべき減少を見せてきたその入学者数は,10年前,毎年少しずつ減少しはじめたのである。
「ゆえに今日では多くの神学校が閉鎖されており,なかには最後の試みとして,あわてて合併したところもある」。
つい二,三か月ばかり前のザ・オーストラリアン紙も同様のことを報じました。「しかし聖職者の辞職以上にきわだっているのは,過去4年間に[オーストラリアの]神学生が25%減少したことである。……これは今年のさらに重大な減少を暗示するものである」。チリのメンサジェ紙は,「今日,幾つもの大きな神学校が,まるで人気のない兵舎のように立っている」と報じました。
オランダでは過去わずか2年間に,僧職に任命された人々の数は36%も減少し,フランス,リヨンの大司教は,1969年,その地のカトリック神学校の入学者数が41%減少したことを明らかにしました。英国では過去5年間に英国国教会の司祭の任命者数が22%減りました。
多くの修道会にも同様な事態が生じています。カナダのウィンザー・スター紙はアイルランドからのある報告を伝えています。「最近この地のフランシスコ会司祭は,アイルランドの多数の修道院は今後10年以内にホテルに改装されざるをえないだろうと語った」。
「1969年カトリック公式人名簿」によれば,その前年アメリカでは修道女が一挙に9,175人も減少しました。ノートルダム大学のカトリック司祭アーネスト・バーテルは述べました。「修道院の新規入籍者数は軒並みに大きく減少した。私の知っているある修道院では,女子100人の養成に用いる新しい建物を設計させたが,わずか4人の女子を迎えただけである」。同様な報告がキリスト教国のほとんどすべての国から寄せられています。
減少する教会の出席者
僧職者層の辞職者数の増加と相まって,教会の出席者も減少しています。“乗組員”ばかりか,“乗客”も今や離船しているのです。
英国の教会の出席者数は驚くべき減少を見せ,英国国教会におけるイースター(復活祭)の礼拝に出席するのは,今やバプテスマを受けた信者100人につきわずか8人だけです! カナダのトロント・デーリー・スター紙はこの国の事情を示す典型的な報告を掲げました。「首都トロントの150の合同教会の会員がこのままその恐るべき減少を続けるとすれば,15年以内に教会も会員もなくなってしまうであろう」。また西ドイツのカトリック教会は,年に5万人の割合で信者を失っていると推定しています。
オランダからはデ・ステム紙がこう報じています。「オランダの教会の出席者数はローマ・カトリックまたプロテスタントの別なく減少している」。ツァイストのカトリック教区からは左上のような典型的な報告が寄せられました。
年 出席者数
1965 1,639
1966 1,426
1967 1,208
1968 983
1969 832
出席者数のこうした減少は,現代の教会に対する人々の態度を反映するものです。1957年に行なわれたアメリカのギャラップ世論調査によれば,教会が影響力を失っていると答えた人は,調査の対象となった人々のうち14%にすぎませんでした。ところが,1969年の同様な調査によれば,教会が影響力を失っていると答えた人はその5倍にふえ,70%に達しました。
このことは教会が人々から受ける財政的な支持またその学校制度にも影響を及ぼしています。たとえば過去6年間にアメリカでは,カトリック教区の学校が1,000校以上閉鎖され,入学者数は77万1,000人減りました。これは14%の減少にあたります。
前途はどうなるのか
将来のことを考える教会の指導者層の不安はつのる一方です。ザ・ウェスト・オーストラリアン紙によれば,ディビッド・ウードロフ牧師は次のように語ったとのことです。「教会およびその組織の崩壊をくい止めうるものは今や一つもない」。
英国国教会の国際理事としての仕事をうんざりして辞職したラルフ・ディーン主教は述べました。「教会の組織が現状のままであれば,教会は10年もたたないうちに消滅してしまうであろう」。その後任の主教ジョン・ハウもそのことばに同意しました。
オランダのリンバーグス・ダグブラド紙は,カトリック司祭ジュースト・ロイテンの寄せた,「到来した,教会の最期の瞬間」と題する一文を,掲げましたが,その中で司祭は次のように述べました。
「私は本気で言っているのだが,オランダの教会のまさに最期の瞬間が到来した。それには二つの理由がある。第一に,新しい世代の牧師が一向に現われようとしていないこと,第二に,18歳から35歳の年齢層の人々が教会を見捨てていることである」。
教皇パウロ6世もこのことでしばしば憂慮の念を表明しており,最近もこう言明しました。「教会は今や,不安な自己批判,もしくは自滅の時代とさえ呼べる時期に遭遇している」。そして,教会は“はりつけにされて”いると述べました。
そうです,教会のいわば“船長”クラスの人々が事態を憂慮しているのです。しかしあなたが船長ならば,乗組員と乗客がともに離船するのを見て,あなたも驚くのではありませんか。
なぜこうした驚くべきできごとが生じているのですか。いったい何がこうした急速な衰退をもたらしたのですか。その最後はどうなるのですか。
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司祭の辞職問題はわたしの「いばらの冠」である,と評した教皇パウロ6世
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タイム誌によれば,「英国の地方の1万もの教会は過去の生活のあわれな遺物と化している。……それらの諸会衆は年ごとにいよいよ小さくなっている」とのことである