川と森林が人間の友であるところ
パプア・ニューギニアの「目ざめよ!」通信員
人類は,入手の容易な天然資源から生み出されるエネルギーをますます必要としています。そのため,大勢の科学者,技師,専門家,労働者などが地球上のあまり知られていない一地域,パプア・ニューギニアのプラリ川流域へやって来ました。ここには広大な熱帯林と,豊富な水があります。山々から流れ出てせき止められることのないそのような水は,今までほとんど利用されることのなかった重要なエネルギー源であることが分かります。
その水の資源を,環境汚染を最小限にとどめて水力発電に利用するという計画が明らかにされています。それは,人々にも,経済成長にも,また急速に発展しつつある国全体の進歩にも益をもたらすものと考えられています。
パプア・ニューギニアといっても,皆さんはその名を耳にしたことがある程度かもしれません。あるいは,非常に遠い所と考えておられるかもしれません。では,パプア・ニューギニアとは実際にはどんなところなのでしょうか。このプラリ川はどこにあるのですか。また,大規模な水力発電所はこの魅力的な土地にどんな変化をもたらすでしょうか。私たちと一緒に来て,実際にご覧になってください。
岩山,および河川の水系
パプア・ニューギニアとは,グリーンランドに次いで世界で二番目に大きい島ニューギニア本島の東側の部分のことです。この島はオーストラリアの真北に位置しています。多数の小島や群島と共に,600の島々から成るその地方一帯は,ヒマラヤ山脈からマレーシアを通り太平洋にかけて大きな弧を描いている連山の東端に当たります。その中には,険しくて,危険であることにかけては世界でも有数の山岳地帯が数か所あります。それらの山脈は,大抵非常に高く,4,000㍍を超える山々が幾つもそびえています。ここでは,険しい小狭谷や絵のように美しい谷,ごう音をとどろかせる滝などが見られます。確かにここは,他に例のない,また興味の尽きない土地です。
プラリ川の水源は,パプア・ニューギニアの最高峰であるウィルヘルム山の高原地帯にあります。山から流れる川の水系が高地を過ぎると,本流であるプラリ川になります。プラリ川は,パプア湾に沿って,低地にある熱帯林や沼沢地の中を曲がりくねって流れ,ゆっくりと流れてきた川の泥水は最後に,サンゴ海に注ぎ込みます。
変化に富むこの熱帯の島の住民について知るのは,この島の景色を見るのと同様に興味深いことです。
山岳地方の部族と沿岸地方の住民
パプア・ニューギニアの初期の住人たちは,周辺の土地で得られるものに頼って生活していました。彼らは狩猟をしたり,食物を集めたりしました。時がたつにつれ,人々は畑造りや作物の耕作などに関する知識を得るようになり,現在では,自給自足がほぼ確立されています。タロイモ,バナナ,サトウキビ,パンノキ,サゴヤシ,ココナッツなど熱帯地方に共通の作物が,食品の大部分を占めています。ブタやイヌやニワトリはどこでもよく見掛けます。
人々は細長い沿岸地帯に,またある場合には,樹木がうっそうと生い茂った島々や,密林に覆われた山岳地方,また険しい高原地帯に住んでいます。他の人々から孤立して住むことが多かったため,それらの人々の間には,700以上の言語や方言と共に異なった習慣や伝統が残っています。人々は長い間に幾つもの集団や氏族に分かれました。そして大抵,川沿いの村落や雨量の多い,山の尾根沿いのへんぴな村々に住んでいます。しかし,部族や氏族,習慣や言語が異なっても,人々は,川の水とその土地の自然の森林という二つのものを貴重な友として共有しています。植物の種類は,沿岸平野の沼地や低地にある森林からコケや高山植物に至るまで実に様々です。川の水は生命を維持してゆくのに不可欠です。猟師にとって,森林は,身の飾りにする毛皮や立派な羽毛が取れるだけでなく食用になる鳥や動物の生息地でもあります。
人々は,村落や村々の近くにある林間の空地に畑を造っています。彼らは森林から木を切り出して,彫刻や農具,やり,弓矢,こん棒,また戦いや狩猟に用いるその他多くの武器を造ります。さらに,森林は燃料,樹皮,衣服のための繊維などの供給源となります。また,住居用の木材や屋根ふき材料,また壁を造るのに用いる材料をも供給してくれます。川や小狭谷には竹やトウでできた橋が架かっています。沿岸地方に住む人々もまた森林に頼って生活しています。森林から得られるものを材料にして,カヌーや魚網やわなを造ります。また森林は,非常に多くの丸太でできた外海にまで出られる船を造るのに必要な繊維を提供してくれます。プラリ川を取り巻く広大な沼沢地で,丸太のカヌーは実際のところ唯一の乗り物なのです。それらの人々は,車も役畜も用いないからです。そうです,森林は確かに人々の真の友なのです。
豊富な木材
さて,絵のように美しいサンゴ海の沖から海岸線に近付いてゆくと,プラリ川河口の両岸に立ち並ぶ一群のココヤシの木が私たちを迎えてくれます。ゆっくりと上流に上って行くと,マングローブの茂みのある感潮沼地に着きます。それから,草の生い茂る沼地やヤシの木の生えた沼地などが姿を現わします。そこでは今でもワニを見掛けることがあります。
沼地を後にして,私たちは低地にあるうっそうと木の茂った雨林に入ります。大抵このような森林は層を成しています。多くの大木は,ヤシの木やつる植物やトウなど下木にとってちょうどかさのように日よけの役目を果たしています。ほとんど手のつけられていないこれらの森林から,ダムや発電所,またそこで働く人々の住宅などを造るのに必要な木材が得られるものと期待されています。
上流への旅を続けて行くと,奥地の山岳地方に近付きます。ここでプラリ川は,岩山を流れる細流となり,危険な急流や滝が方々に見られます。標高1,000㍍の地点まで来ると,雨林も低地の山林に変わってきます。普通その辺りでは,以前に見られた日よけとなるような大きな樹木は見られません。ブナ科の木々がその森林の大部分を占めています。ある地域でひときわ目立っているのは,パプア・ニューギニア特有の木であるクリンキ松です。中には,直径2㍍,高さ85㍍ほどのものもあります。
標高2,100㍍のところでは,低地の山林は,高地の山林に変わります。この山林は標高3,350㍍のところまで続いており,大抵,ノトファガスと呼ばれるブナの木の一種がその大部分を占めています。ここでは,様々な針葉樹や,球果を付けた木々が見られます。さらに高いところへ行くと,樹木は幾分育ちが悪く,コケで覆われているように見えます。背の高いタコノキも見られます。山を流れる数多くの小川の水源に近付くと,高山植物は大抵,草の茂みや木状シダ,また低木などに限られてきます。私たちは上流への旅の最終地点に到着しました。私たちの前には,険しいウィルヘルム山の山頂がそびえています。
私たちは,プラリ川流域の森林だけでなく,高地の谷間や低地地方にある広大な草原も見ます。クナイと呼ばれる草が一面に生えているその草原は,農園をきれいにしたり,狩人が隠れている動物を追い立てたりするため,しばしば焼き払われた結果できたものです。
雨量の多い水源地
川の流域が海抜0㍍から4,700㍍近くになると,気候も非常に異なってきます。三角州や低地では高温多湿であったのが,山の頂上では低温になり,時折霜が降りたり,まれに雪が降ったりします。パプア・ニューギニアでは,“雨”期,“乾”期の別があるだけで,夏冬のはっきりした区別はありません。雨期と乾期を決めるのは,12月から5月にかけて吹く北西モンスーンと,5月から12月にかけて吹く貿易風です。
集水区域全体の年間の平均降雨量は3,700㍉です。起伏の多い地形が大半を占めているため,また激しい降雨のため,プラリ川流域は水力発電の大きな可能性を秘めていると言えます。本流に通じる多数の小川が高地から,幅の狭い険しい小狭谷を経て流れ下るため,ダムを造るのに適した場所は随所に見られます。この流域における河川開発の可能性は確かにすばらしいものです。それほどばく大な量の電力需要が出てくるのは遠い将来のことかもしれませんが,急速に発展しつつある地域にそうした大きな可能性が秘められているということだけでも,計画者たちに励みとなっています。
将来もたらされるもの
ダム,トンネル,発電所,送信線などを含む工学計画事業の完成を目指して働いている科学者や技師,労働者たちは,その土地にだけでなく,プラリ川流域の大半の住民にも,広範に及ぶ恒久的な変化をもたらそうとしているのです。それは,20世紀の現代人の目を見張らせるものとなります。最初の影響は,家や土地が水浸しになるときに現われるでしょう。人々は住まいを移転させねばなりません。土地の住民にとって,また熱帯地方の生態系にとっても貴重で,珍しい野生生物の生息地は,水に覆われ姿を消してしまいます。科学者,経済学者,保護論者,またその他の人々は,徹底的な研究によって,この地域の進歩的な開発を保証するよう努めねばならないでしょう。
政府当局はすでに,この計画事業によって経済が潤うものと期待しています。ダムの現場に通じる道路を利用することによって,重要な製材業を定着させることができます。この地方では硬材が容易に手に入るので,例えば合板やベニヤ,のこぎりでひいた材木,パルプ材などの製造が可能となります。パプア・ニューギニアの製材業の前途には大きな可能性が秘められており,すでに急速な成長と多様化を伴う拡大の門口にあると言えます。古くから森林の住人だった人々の子孫も,見る見るうちに,訓練された有能な働き手になっています。また,かんがいに非常に適した広い地域もあります。ですから,農業や牧畜の発展も期待されています。農村地区の電化や水力発電の開発を考えると,産業の発達の可能性は非常に大きいように思えます。
忘れてならないのは,ブームになっている観光業です。観光事業はすでにこの土地で良いスタートをきりました。美しい景色に加えて,様々な植物や野生生物など興味をそそるものがたくさんあります。出来ばえのよい手工芸品も,この土地の熱帯特有の雰囲気をかもし出すのに寄与しています。
今まで,プラリ川はパプア・ニューギニアの住民たちを“友として”きました。その島の樹木のおい茂った森林も,住民たちに十分役立ってきました。しかし,現代人がこの土地の川と森林を自分たちの“友”としてどの程度まで認めるかは,時がたってみなければ分かりません。