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化学物質過敏症 ― なぞの多い病気目ざめよ! 2000 | 8月8日
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化学物質過敏症 ― なぞの多い病気
パムの家は,綿畑に囲まれた住宅地にありました。あたりの畑では,飛行機を使って除草剤や殺虫剤が定期的に散布されていたため,そうした農薬の一部が風に乗ってパムの家やその周辺にたびたび運ばれてきました。
パムはひどい頭痛や吐き気に見舞われるようになり,健康が損なわれました。やがて,殺虫剤とは関係がないはずの,香水,脱臭剤,ボディーローション,洗剤,ペンキ,新しいカーペット,たばこの煙,部屋の消臭剤など,さまざまな物質にひどく悩まされるようになりました。パムの症状は,化学物質過敏症(MCS)a と呼ばれる不可解な病気のものとされる症状と,おおむね一致しています。
「どこにでもあるような化学物質に接するだけで,ひどい倦怠感に襲われ,混乱,めまい,吐き気などが生じるようになりました」と,パムは本誌に説明しています。「体がむくみ,場合によっては息切れ,パニック発作で泣きだすこと,動悸,心拍数の増加,肺に水がたまることなどを経験するときがあります。これが原因で肺炎になったこともあります」。
MCSの症状は人によって多少異なりますが,一般に次のようなものがあるとされています。頭痛,ひどい疲労感,筋肉痛,関節痛,湿疹,発疹,かぜのような症状,ぜん息,鼻腔の問題,不安,うつ状態,記憶力の減退,集中力の低下,不眠,心臓の不規則な鼓動,鼓腸,吐き気,おう吐,腸の異常,発作などです。もちろん,これらの症状の多くは他の病気によっても引き起こされます。
MCS ― 深刻化する問題
米国でさまざまなグループの人を対象に行なわれた調査の結果,車の排気ガス,たばこの煙,ペンキ,新しいカーペット,香水など,身近な化学物質や化学臭に対して非常に敏感に反応する,もしくはアレルギー反応を示すと感じている人が,15%から37%いることが明らかになりました。ところが,それらの人のうちMCSとの診断を受けていたのは,調査対象の年齢グループにもよりますが,わずか5%かそれ以下でした。そのうち4分の3は女性でした。
MCSを患う人の多くは,殺虫剤や溶剤が原因でその症状が現われるようになった,と述べています。そのような製品,とりわけ溶剤の類は,わたしたちの周りにごく普通に存在します。溶剤は揮発性の(すぐに蒸発する)物質で,他の物質を拡散したり溶解したりするために用いられ,ペンキ,ニス,接着剤,殺虫剤,洗剤などの成分となっています。
続く記事では,MCSについてもう少し詳しく調べると共に,この症状に悩まされている人たちにどのような助けがあるか,またこの病状に悩む人がより快適な生活を過ごす上で,本人と周りの人たちはどのように協力し合えるかを取り上げます。
[脚注]
a “化学物質過敏症”(multiple chemical sensitivity,多種化学物質過敏症)という呼称が一般に用いられていますが,“環境による疾患(environmental illness)”,あるいは“化学物質過敏症候群(chemical hypersensitivity syndrome)”などと呼ばれることもあります。“過敏”という語は,たいていの人が影響を受けそうにない微量の化学物質に対して異常に反応することを示しています。
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化学物質が病気の原因となるとき目ざめよ! 2000 | 8月8日
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化学物質が病気の原因となるとき
化学物質過敏症(MCS)には多くのなぞがあります。この病状の性質について医学界でかなりの意見の相違が見られるのも不思議ではありません。医師たちの中には,MCSは身体的な原因によって起きると考える人もいれば,心理的なものに起因すると言う人もおり,身体と心理の両面を指摘する人もいます。さらに,MCSは幾つかの疾患の集合体ではないかとする医師もいます。a
MCSの患者の中には,殺虫剤などの毒物に一度に多量にさらされて以来,その症状が現われるようになったと言う人がたくさんいます。また,何度も,あるいは定常的に少量の毒素にさらされたため,MCSの症状が出るようになったとする人もいます。ひとたびMCSになると,芳香剤や洗剤など以前には許容でき,互いに何の関係もないように思えた各種の化学物質に対して,さまざまな症状が現われるようになります。それで,“化学物質過敏症”と呼ばれているのです。ジョイスの例を考えてみましょう。
ジョイスは,まだ学校に通っていたころ,髪にアタマジラミがついたことがあり,頭に殺虫剤をスプレーされました。ジョイスの健康状態は悪化し,家庭用洗剤,空気清浄剤,芳香剤,シャンプー,ガソリンなど,以前は問題のなかった多くの化学物質に耐えられなくなりました。ジョイスはこう述べています。「まぶたがはれ上がって,鼻がつまり,何日も寝込むほどひどい頭痛や吐き気を経験します。……幾度も肺炎にかかったせいで,わたしの肺は40年も喫煙を続けた人のように傷ついています。でも,たばこを吸ったことなど一度もないのです」。
MCSの原因ではないかとされているもう一つの点は,低レベルの毒素に慢性的にさらされることです。それは屋外でも屋内でも生じます。実際,ここ何十年かの間に,屋内の空気汚染による病気が急増して,“シックビル症候群”(sick-building syndrome)という病名ができたほどです。
シックビル症候群
シックビル症候群は1970年代から注目されるようになりました。当時,エネルギーを節約するため,それまで自然に換気されていた住宅や学校や事務所が,気密性を保ったエアコンつきの建物に替えられてゆきました。そのような建物とその装備類に,断熱材,化学処理された木材,揮発性の接着剤,そして合成繊維や合成カーペットがよく使われるようになりました。
そうした製品の多くは,特に新品であれば,循環される空気の中に,ホルムアルデヒドなど危険性の高い化学物質を少しずつ放出します。カーペットも,さまざまな洗剤や溶剤を吸収し,それを長期間にわたって放出するため,問題はさらに増えます。「化学物質の曝露 ― 低レベルとハイリスク」(Chemical Exposures—Low Levels and High Stakes)という本は,「屋内汚染物質の中で最も一般的なものは,さまざまな溶剤から発生する揮発性のガスである」と述べています。そして,「化学物質に敏感な患者が問題の原因として最も多く指摘する化学薬品は,溶剤である」とされています。
たいていの人は,そのような建物内の環境に順応できるようです。しかし中には,ぜん息など呼吸器系の問題から頭痛や脱力感まで,各種の症状を訴える人もいます。通常,その環境から離れると症状は消えます。しかし時には,「化学物質過敏症になる人もいる」と,英国の医学誌「ランセット」(The Lancet)は述べています。では,ある人は化学物質のせいで病気になるのに,ならない人もいるのはなぜでしょうか。これは大切な質問です。はっきりした影響を受けない人は,この病気になる人のことを思いやるのが難しいと感じる場合があるからです。
人は千差万別
わたしたち一人一人は,化学物質であれ,病原体であれ,ウイルスであれ,さまざまな物質に対して異なった反応を示す,という点を忘れてはなりません。どのように反応するかは,遺伝的な造り,年齢,性別,健康状態,服用している薬,既往症,さらには酒類やたばこ,薬物の使用といった生活スタイルなどの要素によって決まります。
例えば医薬品について言うと,「ある薬が効くかどうか,副作用があるかどうか」は各人の特異性にかかっている,とニュー・サイエンティスト誌(New Scientist)は述べています。副作用には深刻なものもあり,死につながる場合さえあります。通常は,酵素と呼ばれるタンパク質が,薬に含まれる化学物質や,日常生活を通して吸収される汚染物質など,体にとって異物となるものを体外に除き去ります。しかし,遺伝的な要因,毒素によってすでに受けた障害,もしくは栄養不足で,こうした“掃除屋”の酵素に欠陥が生じると,異質の化学物質が危険なレベルにまで蓄積されてしまいます。b
MCSは,酵素に関係した一連の血液疾患であるポルフィリン症と比較されてきました。ある種のポルフィリン症を患う人が,車の排気ガスや芳香剤などの化学物質に示す反応は,多くの場合,MCSをかかえる人の示す反応と似ています。
思いも影響される
MCSに悩む一人の女性は,身近に存在するある種の化学物質にさらされると,まるで薬漬けになったように感じると本誌に話しました。こう述べています。「人格が変わり,憤まん,動揺,いらだち,不安,無気力感が生じました。……こうした症状は数時間から数日間続きます」。その後は二日酔いのようで,さまざまな程度のうつ状態になります。
MCSをかかえる人たちにとって,こうした影響は決してまれなものではありません。クローディア・ミラー博士はこう述べています。「はっきりした形で化学物質にさらされた後に心理的な問題が生じた事例は,十数か国で報告されている。殺虫剤にさらされたケースもあれば,シックビル[症候群]の場合もある。……溶剤を扱う人は,パニック発作やうつ病になる危険性の高いことが知られている。……それで,体内諸器官の中で化学物質に最も敏感な部位はおそらく脳であるという点を十分認識し,そのことを忘れてはならない」。
化学物質にさらされることが心理的な問題を引き起こす場合がありますが,その逆もあり得ると,多くの医師は考えています。つまり,心理的な問題が化学物質に対する過敏な反応をさそう場合がある,というのです。先ほど述べたミラー博士と,ニコラス・アシュフォード博士は,MCSが身体的な原因によると固く信じてはいますが,「配偶者の死や離婚などの心理社会的な出来事が免疫系の働きを抑制し,ある種の人々を低レベルの化学物質に敏感にならせるのかもしれない」と認めています。確かに,心理的作用と生理学的組織との相関関係は複雑かつ微妙です。シェリー・ロジャーズ博士もMCSの身体原因説を支持していますが,「ストレスは化学物質に敏感にならせる」と述べています。
MCSに悩む人は,健康の回復のため,あるいは少なくとも症状の軽減のために何ができるでしょうか。
MCSをかかえる人のための助け
MCSにはまだ有効な治療法がありません。しかし,多くの人は症状を軽減できており,比較的に通常の生活を取り戻せた人もいます。何が助けになったのでしょうか。医師の勧めに従って,症状を引き起こす化学物質をできるだけ避けることが役立ったと述べる人もいます。c MCSに悩む女性ジュディにとって,ある種のものを避けることは非常に効果的です。ジュディは,エプスタイン-バーウイルス感染からの回復期に,自分の家の中で使用されていた殺虫剤に過剰にさらされ,以後MCSが現われるようになりました。
MCSをかかえる多くの人がそうであるように,ジュディも,さまざまな種類の家庭用化学薬品に反応します。それで,すべての洗い物と洗濯は天然の石けんと重曹(ソーダ)で行なっています。洗濯用の柔軟仕上げ剤には酢が最も効果的であることが分かりました。衣装だんすと寝室には天然繊維を使ったものしか置いていません。彼女の夫は,ドライクリーニングに出した服を,換気の良い場所で何週間かじゅうぶん空気にさらしてからでないとクローゼットの中に入れません。
もちろん今日の世界でMCSに悩む人は,問題の化学物質をすべて避けることはできないかもしれません。「アメリカの家庭医」誌(American Family Physician)は,「MCSから来る深刻な障害は,多くの場合,患者が化学物質を避けようとするあまり引きこもって孤立してしまうことにある」と述べています。その記事は,患者が医療専門家の監督の下で仕事をしながら社会に適合し,徐々に活動を増やしてゆくことを勧めています。同時に,リラックスして呼吸を整える方法を学ぶことによって,パニック発作や動悸に対処できるよう努力することも勧められています。その目標は,生活の中から化学物質をすべて排除することではなく,化学物質に徐々に適応できるよう患者を助けることです。
睡眠を十分に取ることも重要な療法です。かつてMCSに悩んでいて,今ではほとんど完治したデービッドは,回復の要因として,常に新鮮な空気がたっぷり得られる寝室で睡眠を取ることを挙げています。アーネストと妻のロレーンは二人ともMCSに悩んでいますが,やはり,「十分な睡眠は,日中に避けられない化学物質に対処する上で,大きな助けになる」と述べています。
栄養のある食事を取ることも,もちろん健康の維持や回復に欠かせません。実際それは,「予防医学における単独の要素としては最も重要なもの」と呼ばれています。健康が,できる範囲で最大限に回復するには,体の諸器官が効率的に働かなければならない,というのは理解し難いことではありません。この点で,栄養補助食品も助けになるかもしれません。
運動も健康を増進させます。汗をかくと,体の毒素が皮膚を通して取り除かれます。さらに,気の持ち方やユーモアのセンス,それに人から愛され,人を愛するということも肝要です。実際,ある医師は“愛と笑い”という特効薬をすべてのMCS患者に処方しています。そうです,「喜びに満ちた心は治療薬として良く効き」ます。―箴言 17:22。
しかし,芳香剤,洗剤,脱臭剤など日常の活動でよく出会う化学物質に耐えられないMCSの患者にとって,愛に満ちた幸福な交友関係を楽しむこと自体が大きな問題になるかもしれません。MCSをかかえる人たちは,そのような状況下でどのように対処できるでしょうか。同じく大切な点として,他の人たちは,MCSを持つ人のために何ができるでしょうか。続く記事ではその点を取り上げます。
[脚注]
a 「目ざめよ!」は医学雑誌ではなく,MCSに関するこの一連の記事は,医学上の特定の見解を擁護するものではありません。最近の発見について伝えると共に,医師や患者たちがこの疾患に対処する上で有益であったとする事柄をそのまま知らせるものです。本誌は,MCSの原因,症状の性質,また実際に提供され実行されてきた数ある治療法やそのプログラムについて,医師たちの間に総合的な意見の一致が見られていないことを認めています。
b よくある例としては,ラクターゼという酵素の不足があります。ラクターゼの問題をかかえる人は,牛乳に含まれるラクトースを吸収することができず,牛乳を飲むと具合が悪くなります。チーズなどの食品に含まれる化学物質チラミンを代謝する酵素が不足している人もいて,そのような食品を食べると,片頭痛を起こします。
c MCSではないかと懸念している人は,定評のある医師による専門的な助けを求めるべきです。十分な検査を受ける前に,自分の生活スタイルに大幅な,またはお金のかかる調整を加えるのは賢明ではありません。検査の結果,食事や生活スタイルにわずかな調整を加えるだけで症状を軽減できる,もしくは治せることが分かるかもしれません。
[7ページの囲み記事/図版]
それほど多くの化学薬品が必要ですか
わたしたちは皆,毒性の疑いのある化学物質にさらされる機会を最小限にしなければなりません。これは家庭に置く化学薬品にも当てはまります。「化学物質の曝露」と題する本はこう述べています。「屋内空気汚染は,化学物質に対する不耐性のきわめて危険な誘発因子や引き金の中に数えられている。屋内には,幾百種類もの低レベルの揮発性有機化合物が複雑に混在している」。d
それで,現在使用しているさまざまな化学薬品,とりわけ殺虫剤,また揮発性溶剤を含む製品が,本当にすべて必要かどうかを吟味してください。毒性のない代替製品を試してみたことがありますか。危険性の高い化学薬品をどうしても使う必要があるなら,すべての予防措置を講じてから使用してください。さらに,子どもたちの手の届かない安全な場所や,揮発性のガスが漏れても害の及ばない場所に保管してください。たとえふたのついた容器に入っていても,化学物質は揮発性のガスを発する可能性のあることを忘れてはなりません。
化学物質に対する心掛けは,皮膚に付けたり,皮膚にこぼしたりしたときにも当てはまります。芳香剤をはじめとする多くの化学物質は,皮膚を通して血流に吸収されます。ある種の薬剤の投与に貼り薬が用いられるのもそのためです。それで,もし有毒な化学物質を皮膚にこぼしたなら,「何よりも大切なのはまず最初に,皮膚に付いた化学物質をすっかり洗い落とすことである」と,「疲労か中毒か」(Tired or Toxic?)という本は述べています。
化学物質過敏症をかかえる人の中には,芳香剤に敏感な人が多くいます。芳香剤に使われる化学物質のおよそ95%は,石油から取られた合成化合物です。アセトン,ショウノウ,ベンズアルデヒド,エタノール,g-テルピネンなど,多くの化合物が成分として含まれています。そうした物質に関連した健康上の危険は公開されており,米国の場合,環境保護庁がそれを公表しています。空気清浄剤に使われている化学物質についても同じことが言えます。環境科学者たちが空気清浄剤を研究するときには,「屋内の空気をよくするものとしてではなく,汚染源として研究する」と,「カリフォルニア大学バークレー・ウェルネス・レター」(University of California at Berkeley Wellness Letter)は述べています。空気清浄剤は,悪臭を除き去るのではなく,ただそれを覆うのです。
「計算されたリスク」(Calculated Risks)という本は,「毒物学におけるきわめて重要な概念の一つに,どんな化学物質もある曝露条件下では有毒になる[という点がある]」と述べています。
[脚注]
d 毒性の疑いのある化学物質から家庭を守る方法については,「目ざめよ!」誌,1998年12月22日号で取り上げられました。
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MCSの人を助ける目ざめよ! 2000 | 8月8日
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MCSの人を助ける
オーデコロンであれ,洗剤であれ,一般に広く使われている化学物質に対して過敏な反応の出る人は,医療上の問題だけでなく,社会的な問題も抱えることになります。人間は本来,他の人との交友を楽しむものです。しかし,化学物質過敏症(MCS)は,普通なら温かくて陽気な人を,孤独な生活スタイルへと押しやります。MCSに悩むシェリーは,「健康上の問題はこれまでにもいろいろ経験したことがありますが,これは最悪です。いちばんつらいのは,人から孤立してしまうことです」と述べています。
残念なことですが,MCSに悩む人はどこか風変わりな人と思われることがあります。理由の一つに,MCSというのが複雑な現象で,まだ世間によく認知されていない,という点が挙げられます。しかし,MCSについてあまり知らないからといって,疑い深い目でその人たちを見るべきではありません。「アメリカの家庭医」誌は,「それらの人たちは,その症状の結果として大いに苦しんでいる」と述べています。
MCSにはなぞの面が多く,あまりよく理解されていないからといって,それをかかえる人に不信感を表わすべきではありません。賢明な人はむしろ,箴言 18章13節にある原則を導きとするべきです。「聞かないうちに返事をするなら,それはその人の愚かさであり,恥辱である」。病気の人に対してであれば,なおのことクリスチャン愛を偏りなく示すほうがはるかに勝っているのではないでしょうか。将来,医学がどんなことを明らかにするにせよ,そのような愛を示したことを後悔することは決してないはずです。
キリストのような愛を示す
クリスチャンの愛はいわばダイヤモンドのようで,個々の状況や必要にかなった,幾つもの美しい面を持っています。友人にMCSの人がいるなら,わたしたちの持つキリストのような愛は,感情移入によって光り輝くべきです。そうするなら,自分を相手の立場に置くことができます。また愛は,『自分の利を求めない』,つまりあえて自分の権利を追い求めない,と言えます。他の人の福祉を優先させるのです。愛は,わたしたちが『辛抱強く,すべての事に耐え,すべての事を信じ,すべての事を忍耐する』よう助けます。そのような愛は「決して絶えません」。―コリント第一 13:4-8。
メアリーはMCSを患ってはいませんが,友人の中にはそれに苦しんでいる人がいます。メアリーは,「自分としては香水が好きですが,MCSの人を訪ねるときには,つけていきません」と書いています。メアリーは自分なりの方法でイエスに見倣って,「わたしは助けになりたい」と言っているのです。(マルコ 1:41)トレバーは幼いころにMCSになりました。その母親は,「一緒に働いていた人たちは,息子のことを考えて相当の努力を払ってくれた」と言っています。オーストラリアに住むエホバの証人のジョイも重度のMCSに悩まされています。ジョイは,友人や親戚がいつも訪ねてくれ,問題を理解していることを示してくれるとき,とても励まされる,と述べています。
一方,MCSをかかえる人も,自分の周りで香水を使っている人に対して辛抱強くあるべきです。前の記事で登場したアーネストは,本誌に対して,「わたしたちの病気は,自分が負わなければならない重荷です。だれでも問題をかかえているとは思いますが,助けていただければ,うれしく思います」と述べています。そうです,どんな場合でも,協力を強いるのではなく,お願いするのが最善の方法です。ロレーンは,「香水やオーデコロンをつけている人から,具合が悪そうですねと言われたら,『香りに敏感なんです。今晩は特にひどいみたい』と答えます。識別力のある人なら,たいていはそれだけで理解してくださいます」と述べています。もちろんこれは,MCSに悩む人が,助けの必要なことを友人に親切に思い起こさせてはならない,という意味ではありません。
もっと明るい面として,先に引用したパムは,「いま味わっている苦しみはすべて,ほんの一時的なものです」と書いています。パムはなぜ,「ほんの一時的」と述べるのでしょうか。彼女は,神の王国が間もなくすべての苦しみを除き去るという,聖書に基づいた希望を抱いているからです。神の王国は,どんな健康な人でもいずれ直面しなければならない死をさえぬぐい去ります。―ダニエル 2:44。啓示 21:3,4。
それまでの間,有効な治療法が今のところ見つかっていない病気に耐えなければならない人は皆,神の王国支配のもとで,『「わたしは病気だ」と言う人のいない』時が来るのを心待ちにすることができます。(イザヤ 33:24)わたしたちは,この現在の事物の体制で直面するいかなる試練にも忍耐しつつ,イエスのように,自分たちの前に置かれた報いを見つめるようにしましょう。―ヘブライ 12:2。ヤコブ 1:2-4。
[9ページの囲み記事/図版]
互いに愛を示す
友人や親族のどなたか,あるいはあなたご自身が化学物質過敏症(MCS)に悩まされているなら,以下の聖書の原則が助けになるでしょう。
「それゆえ,自分にして欲しいと思うことはみな,同じように人にもしなければなりません」。―マタイ 7:12。
「あなたは隣人を自分自身のように愛さねばならない」。―マタイ 22:39。
「互いのことをよく考えて愛とりっぱな業とを鼓舞し合い,ある人々が習慣にしているように,集まり合うことをやめたりせず,むしろ互いに励まし合い,その日が近づくのを見てますますそうしようではありませんか」。(ヘブライ 10:24,25)わたしたちは皆,霊的な励ましを必要としています。病気のときには特にそうです。称賛すべきこととして,MCSをかかえるクリスチャンの多くも,会衆の集会に通う努力を払っています。かなり重い症状を持ちながら,電話回線によって出席する人もいます。またMCSの人のために,王国会館に無芳香区画が設けられたところもあります。とはいえ,そうすることがいつでも可能,あるいは現実的であるとは限りません。
「善を行なうこと……を忘れてはなりません。神はそのような犠牲を大いに喜ばれるのです」。(ヘブライ 13:16)善を行なうには,多くの場合,自分の側からの犠牲が求められるという点に注目してください。あなたは,MCSの人を助けるために自分のほうから犠牲を払う用意がありますか。一方,MCSの人も,他の人に何を期待するかという点で,道理にかなった見方をすべきです。例えば,クリスチャンの長老は,香水やオーデコロンを使うことに関して規則を設けることはできませんし,それについていつでも発表できるわけではないでしょう。また,新たに関心を持つようになった人や訪問者が,香水をつけて会衆の集会に来るかもしれません。わたしたちは,その人たちを歓迎します。香料を使っていることで恥ずかしい思いをさせたり,居心地の悪い思いをさせたりはしたくないはずです。
「平和を求めてそれを追い求めよ」。(ペテロ第一 3:11)健康にかかわる見方の違いがクリスチャンの平和を奪うべきでないのは明らかです。『上からの知恵は平和を求め,道理にかない,憐れみに満ちている』と,ヤコブ 3章17節は述べています。MCSをかかえていてもいなくても,平和を求める人は,化学製品を使うか使わないかに関して極端に走ったり,過度の要求をしたりはしないでしょう。同様に,『憐れみに満ち』,道理にかなった人は,他の人の健康に影響すると分かったなら,香料を身につける権利に固執しないでしょう。そうすることによって,自分も「平和な状態」を求め,「平和を作り出している」ことを示せます。―ヤコブ 3:18。
一方,MCSをかかえている人であれ,そうでない人であれ,柔軟性のない,道理に欠けた態度は,人を分け隔てするくさびのようなものです。そうした態度はだれの益にもならず,神との関係を損なうことにもなりかねません。―ヨハネ第一 4:20。
もとよりクリスチャンは,この上なく貴重なものを持っています。それはエホバの霊です。エホバの霊をいつも祈り求めてゆくとき,そのすばらしい実,とりわけ,「結合の完全なきずな」である愛を培うことができます。(コロサイ 3:14)それとともに,その同じ霊が他の人のうちにキリストのような特質を育むのを辛抱強く待ちます。―ガラテア 5:22,23。
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MCSをかかえる人たちも友を必要としている
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