目を楽しませるまばゆい宝石
ブラジルの「目ざめよ!」通信員
「いらっしゃいませ,奥様。宝石をお選びですか。承知致しました。イヤリング,ブローチ,ブレスレット,ネックレス,それとも指輪にお付けになりますか。どんな色をお好みですか。宝石を幾つかお見せ致しましょう。お選びになるのが難しいですか。まったくです。どれもみな美しいものばかりですから。
「お値段ですか。そうですね,ダイヤモンドは小粒ですが,お値段のほうは張ります。水晶は大きくてきらびやかですが,値段はお手ごろです。このきらめく黄水晶<シトリン>などはいかがでしょうか。それともこちらの紫水晶<アメジスト>では? アメジストの鮮やかなすみれ色はお好きですか。そうそう,輝く藍玉<アクアマリン>はどうでしょう。
「これらの宝石をどのようにカットするのかご覧になりたいのですね。承知致しました。作業場にご案内致しましょう。ですが,きっと驚かれますよ。宝石の原石は,カットして十分にみがきあげられたものとは似ても似つきませんから。
カット加工と研摩
「お分かりでしょう。何の輝きもありません。不体裁な石ころかくすんだ水晶塊のようです。こんな“つまらない”水晶のようなものが,とお思いですか。でも,お待ちください。宝石加工機がそれに日の目を見させるのです。石の中にかすかな光があるのにお気づきでしょうか。何の石かとお思いでしょう。アクアマリンです。本当に,カウンターの上で見たみがきあげられた宝石とは何という違いでしょう。
「宝石加工機は,是非とも奥様が劇的な変身の目撃証人になってくださるようにと申しております。その器用な指先をご覧ください。ダイヤモンドの鋸を使って素早く正確に原石を切っています。それから,カーボランダムの回転円板の上でその輪郭を形造っていきます。
「宝石の最終的な形を決めるものは何かとお考えですね。宝石の価値は重さやカラット数に関係していますから,加工機は原石からできるだけ大きな宝石を得ようと努めます。ここにあるものは長円形の宝石になるのではないかと思われます。
「鉛筆の形をした“ドップ・スティック”の先端に封ろうを使って原石が取り付けられている様子がお分かりですか。これで小面を刻む用意ができました。自在に角度を変えることのできる支えに鉛筆状のドップの先をもたせ掛けて,回転しているすず合金の旋盤に原石をわずかに接触させます。旋盤上の非常に細かい鑚鉄<エメリー>の粉末を使って各面の研摩やカットを行ないます。過熱を防ぐために,絶えず水が噴霧されています。熱を帯びると,品質の損なわれる危険があるのです。
「まず上平面を削ります。次に側面の一つをカットします。それからちょうどその反対側を,というようにしてゆきます。切子<ファセット>面の幾何学的配置によって,透明な宝石に美しい色と光が備わるのです。上側を終えて,稜周<ガードル>を軽くみがいておくと,ひび割れを防止できます。
「さてこんどは,ランプの上でろうを軟らかくして原石を取り出し,これをひっくり返します。もう一度,ファセット面を刻みますが,屈折の効率を良くするためにファセット面を上部よりも二つ多くします。
「宝石の下の部分は舟の湾曲した底にとてもよく似ています。でも,輝きは一体どこにあるのでしょう。不思議に思われますか。
「これからが研摩機と付属の銅の旋盤の仕事になります。見ていてください。同じ角度で正確に,くすんだ各面の上を上手に動きます。小面は次々に光り出します。まさに,みがかれることによって,秘められた“火”がことごとく表に現われるのです。魅了されますね。ほんの40分ほどで,くすんだ水晶塊のようなものがまばゆい宝石になるのですから。
「どうぞ,手にお取りになって構いません。青緑の美しい輝きは絶妙ですね。こうした輝きはファセット面とも関係があります。ファセット面を刻むと光の反射と屈折で輝きが生じるのです。
宝石とは何か
「宝石をどのようにして手に入れるのか,また宝石とは何か,というご質問ですね。ほとんどの宝石は,自然の無機的作用によって産み出された鉱石です。どの鉱石にも固有の原子構造と化学組成があります。1,600種の鉱石のうち,美しさ,色彩,硬さ,光輝,希少性のゆえに優れた価値を有するのは,ほんの16種ほどです。このような条件にかなっているものが宝石と呼ばれます。硬いものは正宝石として評価され,硬度数8以下のものは半宝石とみなされています。
「おっしゃる通りです。結晶構造の知識は,カット加工に欠かせません。もしそれに準じてカットしないなら,割れるか砕けてしまうでしょう。
「なぜ色がつくのかとお考えですね。原石のほとんどは,純粋ならば無色です。例えばダイヤモンドは,無色ならばこそ価値があるのです。しかし,他の宝石に色を生じさせているのは何かという点は,まだ十分に理解されていません。もちろん,化学的不純物がある役割を果たしているのは確かなようですが,それでも,ルビーとエメラルドの場合のように,同じ微量の化学物質が一方には赤を他方には緑を配色することもあるのです。
「専門家が宝石を鑑定する方法についてご説明しましょう。色彩,結晶の形,重さ,光学的特性や他の物理的特性,また化学組成が考慮されます。一般に,硬度,比重,そして屈折の検査が行なわれます。これらの特質は宝石の種類によってそれぞれ異なっていますが,どの種類の宝石もこうした特質を有しています。
「硬さはモースの硬度計によって定められます。宝石が硬ければ硬いほど,よくみがきが掛かりますから,それだけ耐久性と価値があることになります。鉱石をこすり合わせると,硬度数の大きなものは例外なく硬度数の小さなものに傷を付けます。硬度数の最高はダイヤモンドの10で,石英の類は7を記録します。一方,スチール製のナイフは6.5度,奥様のつめの硬さは約2度です。
ブラジルのきらめく宝石
「それではショールームへ戻って宝石の選定をお続けになってはいかがですか。ちなみに,ブラジルは世界の有色宝石の約9割を供給しているのです。種類と量がこれほど豊富な場所は世界のどこにも見られません。
「あの見事なアクアマリンがお気に入りのようですね。アクアマリンはブラジル産の宝石の中でも今,最も人気があります。これは,エメラルドなどと同じ緑柱石<ベリル>の仲間です。違った色合いのものをお見せ致しましょう。お分かりでしょう。青緑から暗青色まであります。青い海の澄んだ水のようだと言われましたか。おっしゃる通りです。アクアマリンという名には実際そのような意味があるのです。
「高価なアクアマリンが見つかったときの話をして差し上げましょう。1955年のこと,ある人がなたで木を切り倒していました。その時なたがそれて地面を打ってしまい,一つの石に当たったのです。驚いたその人は石を掘り出しましたが,最初はそれを無価値な水晶の塊ぐらいに思っていました。しかし,それがこれまでに見つかったアクアマリンの中でも最も美しいものであることがわかった時にはどれほど驚いたことでしょう。それは,合計8万カラットに達する数多くの宝石に切り分けられ,200万ドル(約4億8,000万円)の価値があると見積もられたのです。
「シトリンがお好きですか。確かにこれは石英トパーズとも呼ばれますが,単に“トパーズ”と呼ぶ人たちには注意が必要です。それは別のものだからです。シトリンはすばらしい宝石ですが,石英の仲間です。その赤みを帯びた黄金色に大勢の人がひかれています。色が黄色なのは,恐らく結晶中に存在する微量の鉄によるのでしょう。
「トパーズつまりインペリアル・トパーズとシトリンとの違いですか。インペリアル・トパーズは石英ではありませんし,シトリンよりずっと硬い宝石です。事実,その硬度数は8です。ですから,ずっと強い輝きを発します。10カラット以上の大きさのものは特にそうですが,トパーズは希少価値の高い宝石です。ブルー,ピンク,淡緑色といった色彩のトパーズは最高に美しい宝石の部類に入ります。その希少性のゆえに,シトリンより幾倍も高価です。
「“一千色の鉱石”についてお聞きになったことがありますか。この電気石<トルマリン>のことをそう呼びます。これらの見本をご覧ください。一つとして同じものはありません。種々の金属元素や物質から成る複雑な化学組成を有しているのです。同一の結晶原石でも色が均一であることはめったになく,著しく異なった色合いをしています。鉱物の世界の不思議の一つです。
「トルマリンは緑色だけだとお考えでしたか。確かに,最もよく知られているのは緑ですが,青や赤のものもあります。アクアマリンとは違って,明るい色合いのトルマリンは高く評価されています。最上の緑のものはエメラルドにとてもよく似た色合いをしています。黄色やピンク,白色のベリルがあります。ガーネット,オパール,月長石<ムーンストーン>,緑玉髄<クリソプレーズ>,紅水晶<ローズ・トパーズ>などはやはりブラジルで多く採れます。緑色をした金緑玉<クリソベリル>は特別な輝きをしていて,珍しさでは第一品です。
「ダイヤモンドについては,今日,南アフリカが注目されています。しかし,アフリカでダイヤモンドが発見される以前には,ブラジルが事実上の専売権を持っていました。120カラットの“南の星”はブラジル産です。確かに,ダイヤモンドは最も広く知られ,最高の栄誉を博している正宝石です。それが科学的には純粋の炭素であって,黒鉛と同じというのは信じ難いことでしょう。元々,結晶形が異なっているのです。
「上手にカットされたダイヤモンドは,虹の色すべてを発します。ブラジルのダイヤモンドは沖積土,すなわち川床に沿った砂れきの中にしか見つかりません。
あなたの宝石の手入れの仕方
「少し手入れをなさるだけで,宝石はいつも奥様に喜びを与えることでしょう。永久のものとされているダイヤモンドでさえ,表面に付く塵やほこりのためにその輝きを失ってしまうことがあります。
「それですから,手をお洗いになったり,お化粧をなさったりする前に,宝石を付けていないことをお確かめください。石けんやクリームやパウダーは宝石の輝きを曇らせます。堅い面に宝石を強く打ちつけることがないようにしてください。ダイヤモンドは最も硬い物質ですが,それでも別のダイヤモンドによって傷を付けられることがあるのです。これを防ぐために,宝石を一つ一つ包むか別々の宝石箱に入れるようになさってください。
「輝きを失わせないようにするには,宝石を清潔に保つ必要があります。こうすればよろしいのです。2カップの水と茶さじ1杯のアンモニア水,それに粉石けんか良質の洗剤を少々加えたぬるい溶液に宝石をつけて,汚れを取り除くために静かにこすります。それが済みましたら,きれいなぬるま湯ですすぎます。その後,少量のアルコールに浸して,残っているかもしれない石けん分を除き去ります。乾くまで吸水性のある柔らかいハンカチに包んでおいてください。
「さあ,奥様,お決めになられましたか。はい,承知致しました。シトリンとアクアマリンですね。まことに,どちらも実に美しいものです。ありがとうございました。目を楽しませるまばゆい宝石のことでしたら,いつでも何なりとご用命くださいますように」。