シャッターを押して作る思い出
この間の休暇で撮ったすばらしい写真を受け取りに,近所の写真屋さんに駆け込みます。でも,何ということでしょう。写真の中には,暗かったり,白っぽかったり,ピンぼけのものがあります。がっかりして『カメラのせいだ!』とつぶやきます。しかし,本当にカメラのせいなのでしょうか。それとも写真を撮った人のせいなのでしょうか。
あなたの結婚式,旅行先の息をのむようなすばらしい場所,引っ越して行った友人,おじいちゃんやおばあちゃん,親せきの人,子供が初めて歩いた瞬間 ― このような思い出はすべてシャッターを押して写真に収めることができます。しかし,きれいに写っていなかったり,全然写っていなかったりすると,本当にがっかりします。でも新しいカメラを買っても,たぶん同じことでしょう。成功の秘けつは写真の基本的な原理をマスターすることです。
カメラの仕組み
単純に言えば,カメラとはレンズという“目”の付いた暗箱です。光がレンズを通って焦点に集まり,フィルム上に画像ができます。フィルムの表面には感光剤が塗ってあり,適度な量の光が当たると適正な露出になります。光の量が多すぎると画像は白っぽくなり,少なすぎると黒っぽくなります。
写真を撮る時には,カメラのシャッターが何分の1秒か開いて,フィルム上に画像ができます。ですから,露出を調節する一つの方法は,シャッターが開いている時間を加減することです。通常の昼間の光の下では,125分の1秒のシャッタースピードで標準的な写真を撮ることができます。多くのカメラはシャッタースピードを変えることができますが,おおまかに言えば,光量が許す限り,できるだけシャッタースピードを速くすべきです。シャッターの開いている時間が長ければ長いほど,カメラがぶれて写真がぼける可能性が高くなるからです。大事な写真を撮る場合には,カメラを三脚に取り付けて,レリーズやカメラのセルフタイマーを使ってシャッターを切ると,ぶれを防ぐことができます。
露出を調節する別の方法は,レンズの絞りの開き具合い(絞り値,Fのあとの数字で表わす)を調節することです。これは,目を大きく開けたり,半開きにしたり,細めたりすることにたとえることができます。そのようにして,入ってくる光の量を調節することができます。多くのカメラには絞り値Fの目盛りが付いているので,その中から選ぶことができます。絞りの開き具合いが大きければ大きいほど入ってくる光は多くなり,フィルムが露光する量は多くなります。初心者にとって紛らわしいのは,絞り値のF数が絞りの大きさの逆になっていることです。例えば,F2.8だと絞りは大きく開いた状態,F32だと絞りを小さくした状態というわけです。今では自動露出機能を持つカメラや,目盛りをどこに合わせるべきかを正確に教えてくれる露出計を内蔵しているカメラがほとんどです。実際,全部機械が調節してくれる全自動カメラもあります。この種のカメラはピントまで合わせてくれます。
フィルムの選び方
カメラと同じように,フィルムも次々と変化しており,色々な種類のものを手に入れることができます。カラーネガフィルムはカラープリント用です。カラープリントは他の人に回して見せるのが簡単なうえ,焼き増ししたり,引き伸ばしたりするにも割と安く上がります。このフィルムの別の利点はラチチュード,つまり露出の許容範囲が広いので,露出の足りないネガからでもまずまずのプリントができることです。カラーリバーサルフィルムはスライド用です。もちろん,スライドを楽しむためには,プロジェクターとスクリーンを購入しなければならないでしょう。スライドの場合,露出の許容範囲がそれほど広くないので,より厳密な露出が必要です。しかし,スライドからは美しいプリントを作ることができます。
フィルムは感度(光を感じる度合い)に応じて種類があり,ISO感度またはASA感度を表わす数字によって分けられています。a 感度には,ISO25という低いものから,ISO3200という高いものまであります。用途の広い優れたフィルムは,ISO100の昼光用フィルムでしょう。これは中感度のフィルムで,昼間の光の中で普通の写真を撮るのに適しているからです。もっと感度が高いISO400のフィルムは,夕方や曇りの日,または室内のような光の量の少ないときの撮影に向いています。しかし大まかな目安としては,感度の低いフィルムほど細部をはっきり写し出すことができます。感度の高いフィルムは,引き伸ばすと粒子が目立ちやすくなります。
あなたのカメラにフィルムの感度を設定する目盛りがついているなら,ISOまたはASAの数字に正しく合わせることが大切です。それでは,いよいよ重大な点です。
よい写真を作る方法
初心者はたいていスナップ写真を撮るものです。カメラを向けて,シャッターを切ります。一方,ベテランのカメラマンは撮る前に少しの間考えて,それから写真を作ります。構図を考えるのです。つまり被写体や撮りたいものをふさわしい位置に置くのです。でも,被写体をまんまん中に置くのは必ずしも最善の方法ではありません。ここに挙げられている例(26ページ)を見れば,被写体がまん中より少しずれている方が ― 例えば,写真の上や横の端から3分の1ぐらいのところにずれているほうが ― ずっと面白くなることに気づかれるでしょう。これは三分法の適用といえます。
背景から被写体を浮き立たせることも大切です。背景が雑然としているならば,写真を見る人の注意は被写体からそれてしまいかねません。白っぽい壁か,何かほかの中間色のものの前でポーズを取ってもらうことができますか。ちょうど良い背景が見つからないときには,絞りを開け(絞り値Fの数を小さくする)て調整します。そうすれば被写体だけにピントが合い,背景はぼけるでしょう。―24ページの例をご覧ください。
確実に適正な露出を得るために,ブラケット撮影をすることもできます。この撮影法は,F8,125分の1秒で写真を撮ったならば,同じシャッタースピードで,F5.6とF11でも撮ることです。このようにすると,様々な場所の明るさに対応することができます。一方,被写界深度を最大にしておきたい場合には,そのときの絞り値を一定にしておいて,シャッタースピードを速くしたり遅くしたりする(60分の1秒,125分の1秒,250分の1秒)ことによってブラケット撮影をしてください。
光の当たり具合いも重要です。背景が明るかったり,被写体の後ろに強い光が当たっていたりすると(雪景色や日が当たっている海や砂浜などの場合),カメラが読み違いを起こし,露出不足が生じることがあります。どうすればよいでしょうか。もっと近づいて,被写体の露出を正確に測ります。それから元の位置に戻って,測った露出に目盛りを合わせて写真を撮ります。経験を積んだカメラマンは,暗い影が被写体にかかっている場合や,被写体の後ろから明るい光が差している場合,日中でもよくフラッシュを使って光の量を補うことがあります。
明るい太陽が高い位置から(または真後ろから)被写体を照らしている場合,人の目や鼻やあごの下に目ざわりな影ができることがあります。そういう場合には,日陰に立ってもらうか,補助フラッシュを使います。レンズに直接太陽の光が入らないようにしながら人の真後ろか真横に太陽が来るような角度にカメラを構えれば,日光が髪を照らしてハロー効果を出すことさえできます。
フラッシュには限界があります。というのは,フラッシュはせいぜい10㍍ほどしか効果がないからです。ですから,ホールのステージ(クリスチャンの大会のような)や,空を背景とした街並みの写真をフラッシュを使って撮っても,電池を消耗するだけです。直接フラッシュを当てると,影ができたり,顔のしみなどが目立ったりしやすくなります。どうすればよいでしょうか。明るくなりすぎる部分を減らすために,ティッシュペーパーかハンカチでフラッシュ(レンズではない)を覆うか,フラッシュを白い天井に反射させてみてください。この場合には,露出を補正する必要もあるでしょう。影を減らすために,背景がもっと暗い所に被写体を移動させることもできます。
フラッシュ撮影,特に内蔵フラッシュのついたカメラで撮影する場合,目が赤く写るという奇妙な現象が起きることがあります。カメラとフラッシュの距離をあけることができないなら(フラッシュをブラケットに取り付けるならこれが可能),写真を撮るときに瞳が開いたままにならないようにするため,まず明るい光を見てもらうことです。または直接レンズを見ないようにしてもらいます。
人物写真の撮り方
良い人物写真というものは,人の顔の特徴を写し出すだけではありません。それは一人一人の人柄や性格まで見せてくれます。そのような優れた写真を撮るためには,撮影の技術をマスターしなければなりません。そうすれば,撮影用の機材にではなく,被写体に注意を向けることができます。
まず,緊張をほぐしてあげます。望遠レンズを使うなら,例によって目の前でカメラを動かして威圧感を与えることなくクローズアップ写真を撮ることができます。適当な音楽を流すと緊張がほぐれます。別の方法として,会話によってカメラのことを忘れさせ,自然な表情をしてもらうこともできます。打ち解けさせるような質問をすれば,とらえたい感情を引き出すことができます。子供の写真を撮る場合には,ゲームをしたり,物語を話してあげたりします。子供たちが自然に,また陽気に振る舞えるようにしましょう。緊張をほぐすのに,小道具も役立つかもしれません。そこで,音楽家には楽器を,職人には仕事の道具を持ってポーズを取ってもらいます。
グループ写真を撮る場合,みんなをきれいに一列に並べる必要はありません。小道具 ― 椅子を一,二脚 ― を置いて,その周りに,おそらく三角形を作るように並ぶと良いでしょう。みんながカメラに向かって微笑む必要はありません。では,シャッターを切る前に,その場を注意して見てください。服や髪はきちんとしていますか。背景に注意をそらすものがありませんか。カメラは一番きれいに撮れる角度になっていますか。(カメラを顔の位置より少し低く構えると,長い鼻を短く見せたり,はげて後退している生え際を目立たなくすることができます。)では,シャッターを切って何枚も撮ってください。そして現像したときに,一番良いものを選びます。
ほんの少し努力 ― そして練習 ― すれば,カメラのおかげで楽しみがぐっと増え,大切な思い出,そうです,カメラのシャッターを上手に押して収めた思い出を残しておくことができるのです。
[脚注]
a ISOは国際標準化機構(International Standards Organization),ASAは米国規格協会(American Standards Association)の略語です。ヨーロッパでは所によってDIN(ドイツ工業規格)も使われています。ISO100/21と記されたフィルムは,ASA100または21DINです。
[26ページの囲み記事]
がっかりしない写真の撮り方
1. カメラの使用説明書をよく読んでそのとおりに扱う。
2. フィルムの感度を設定する目盛りが合っていることを確認する。
3. 指やレンズキャップでレンズやフラッシュを覆わないように気をつける。
4. カメラの位置を変えたりズームレンズを使ったりして写真の構図を変えたり不要な部分を構図から省いたりする。
5. カメラをしっかり構えてからシャッターを押す。
[24ページの図版]
絞りを大きくする(絞り値Fのあとの数字を小さくする)と背景から花が浮き出して,絞りを小さくすると被写体にも背景にもピントが合う
[25ページの図版]
上の写真の暗い影を補助フラッシュを使って打ち消す
[26ページの図版]
“三分法”を当てはめて,撮りたいものを写真のまん中に置かない